素人は神語コードをいじらないで
ちびまるフォイ
不確かなものは何ひとつない世界
「なんだ? 電子になにか書かれているぞ?」
研究中に見つけたそれは人類始まって以来の大発見となった。
それは神が作りたもうたプログラム「
森羅万象のすべてはこのコードで制御されていた。
地球が太陽の周りを回っているのも。
草木が成長するのも。
人間の感情すらコードで呼び出されていた。
「これは世紀の大発見だ!!
みなさん、もう死に恐れることはない!
人間のコードから死をコメントアウトすればよいのです!」
病気や死も神語コードによる制御でしかなかった。
ランダムに生み出される値が特定になると病気を発症。
医者は医療技術ではなく、神語コードを勉強するようになる。
「この映画すっごく感動した! ぜひ見て!」
「いや、そんな時間は……」
「それじゃ感情だけ渡すね!」
神語コードのフォーマットはみんな同じ。共有もできてしまう。
感情を呼び出すコードを渡せば、同じ感情を与えることができる。
「なんて感動的なんだ! こんな体験したんだね!」
「そう! 本当に最高だったわ!」
神語コードはあっという間に解析と体系化され、
一般の人でも当たり前にコードを書き換えるようになった。
「やっぱり子猫の状態が一番かわいいわ。ずっとこのままでいてね」
不老不死は日常となり、ペットは可愛い子どもから成長しなくなった。
社会でもコードの改変と上書きは行われるようになる。
「新入社員、入社おめでとう!
オフィスに入ると会社のコードが優先実行されるが気にするな!」
「「 はい喜んで! 」」
「では今日から残業10時間の週休1日労働を始める!!」
「「 はい喜んで!! 」」
個人の処理を、会社側のコード処理で上書きする企業が増え
あらゆる感情や疑問を生成されるコード処理は抑えられた。
神語コードが一般化するほど紛争地の争いも激化。
「ようし、あの国に山を突っ込ませろ!
山の神語コードを書き換えて、突撃させるんだ!」
「隊長たいへんです! 敵の攻撃が!」
「なんだ。ミサイルか? そんなもの、風のプログラムを書き換えろ。
逆に敵にぶつけてやれ」
「ちがいます! じ、地震です!
あいつら、地面のプレートコード書き換えたんです!」
「なに!? う、うわぁぁぁ!?」
戦いは人間の兵器による争いから、大地すら巻き込む大戦争へ発展。
どんなに焼け野原になったところでコードを書き換えれば元通り。
神語コードは人間をあらゆる制限から解き放つ大発見となった。
しかしあるときのこと。
最初に神語コードを発見した科学者は気付いた。
「なんだ……なんで今になって……お腹がすくんだ……?」
さっき食べたはずなのに空腹を感じる。
それどころか食べてもお腹がいっぱいにならない。
急に大食いになったのかと思ったら、数時間後に激烈な満腹感に襲われる。
神語コードに精通しているだけにすぐに気がついた。
「違う。私がおかしくなったんじゃない。
感情を導くコード処理に遅延が生じているんだ!」
誰もが好き勝手に世界の制御プログラムをいじりはじめた現代。
中にはひどいコードの処理を書き加える輩も出てくる。
そうなると全体の神語コード処理は重くなり、
雨が降って地面にたどり着くまで1日以上かかるような状態まで遅延する。
自分以外でもそのことに気づいた人は呼びかける。
「みなさん! 劣悪なコードの記載は処理の遅延を生みます!
今一度、いらないコード処理は消してください!!」
もちろん、そんな呼びかけに効果はなかった。
誰もが自分に必要なものを必要なだけ呼び出してしまう。
みんながわずかに遠慮するだけで世界が良くなるとしても
自分が贅沢できるなら、世界が不幸になったって構わない。
そういうものだ。
「まずい……遅延がどんどん進行している!」
神語コードの魔改造がますます進んで、
世界全体の処理が重くなり、地球ひいては銀河すら重くなり始める。
その時、科学者は気がついた。
どうして重くなるのかを。
「どうして……どうして重くなるなんてことが起きるんだ。
重くなるってことは……どこかで処理しているものがあるのか?」
地球のコードを書き換えて重くなったとして、
地球が重くなるならまだしもどうして人間の処理まで重くなるのか。
結論はシンプルだった。
どこか別の場所でコードを処理している。
神語コードは書かれたものを動かしているのではなく。
もっと別の遠いスーパーコンピュータのような存在に処理させるためのものだ。
じゃないと、あらゆる処理が重くなっている現状の説明がつかない。
そしてそれがわかったとき。
「このままじゃ……。何もかも終わる……」
処理できないほど限界まで重くなったら、
サーバーはダウンしてしまう。
死を逃れるようにコードを書き換えたところで、
生を実行してくれるおおもとが消えたら無意味だ。
「そんなことはさせない!
せっかく人間はここまで進化できたんだ!
なにか……なにかないか!?」
遅延はますます進行していく。
もうどれだけ言っても激重コードの生成は食い止められない。
最後に地球の神語コードに刻まれたある一行を見つけた。
- The Earth ver 3.0010.12042.0324
「ば、バージョンか……?」
誰かがコードを書き換えると、バージョンが増えていく。
神語コードの状態がここで管理されていた。
「このままじゃ世界はシステムダウンする!
とにかく元の軽い状態に戻さないと!!」
いまだ誰も書き換えたことのないバージョンに手を付けた。
- The Earth ver 1.0000.00000.0000
バージョンを以前の状態に戻した。
好き勝手書き換えた神語コードは一斉にリフレッシュ。
あっという間にサクサク快適な処理にまた戻った。
「危なかった、もう少しで何もかも終わるところだった」
ひと仕事終えた科学者は顔をあげた。
そこはもう同じ世界ではなかった。
地球バージョン1.0000.00000.0000。
それはまだあらゆるコードが快適に処理され、
恐竜が元気いっぱいに活動する始祖のバージョンだと気づかなかった。
恐竜たちは組み込まれた本能のコードプログラムにより、
この時代にそぐわない二足歩行の肉を食べ尽くした。
素人は神語コードをいじらないで ちびまるフォイ @firestorage
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