泉からの呼び声

時雨オオカミ

誰かの声

 おやおや、お困りのようだね。二人で旅行にでも来ていたのかな? 迷ってしまったようだね。


 なに、私は誰かって? 当ててごらんよ。


 ……ふむ、片方の子はどうやらこういう空間に見覚えがあるようだね。見覚えというか、このシチュエーションを知っている……と言ったほうがいいかな? 


 ミルクのように真っ白な、そう、この空間のことをね。

 確信したかな? 話してごらん。


 ……ご名答。そうだよ、私は神様さ。


 でもね、私は昨今の神様みたいにミスをしたりなんてしない。ここを偶然通りかかっただけだよ。当然、異世界に行かせてあげることもできない。ごめんね、がっかりしたかい? 


 え? ああ、迷子なんて珍しくもないから驚きはしないよ。このまま道案内してあげてもいいけれど……それでは面白くないよね。あは、ごめんごめん。面白いか面白くないかで決めるなって? それもそうだね、それなら……。


 ――君達の願い事をひとつだけ叶えて差し上げよう。


 私は優しいお兄さんだからね。心の中で願い事を決めてごらん? 30秒ほど待ってあげよう。


 ……決まったかい? 早いね。まだ10秒も経っていないのに。分かった。

 それではいっせーので言ってごらん。ほら、いっせーの! 


 ……これは驚いたね。


 まさか、二人とも願い事が同じだなんて! 

 これは面白い。


 ああ、また「面白い」と言ってしまった。あはは、ごめんね? 


 いやしかし、実に感動的な場面だね。

 あまりにも感動しすぎて涙まで出てきてしまったよ! 


 え、嘘をつくな? 嫌だなあ、嘘なんかじゃないよ。私は本当に感動しているんだよ? この向日葵のようなあたたかな瞳を見ても、そんなことを言うのかい? 


 あっ、そう。君がそう思うなら別にいいよ。私が神様なのは本当のことだからね。イタズラなんかじゃない。自分達の体を見てみればすぐに分かるだろう? 


 さて、少し脱線したけれど、そう願い事のことだね。もちろん、叶えてあげるよ。


 でもごめんね。私が叶えてあげられる願い事は片方だけなんだ。先に言えって? 言っただろう、叶えられるのはひとつだけだって。


 ああ……私だって残念だよ。できれば君達二人とも願いを叶えてあげたい。けれど、これは私だけではどうしようもない事実なんだ。本当に心苦しいよ……ない心臓がぎゅっと締めつけられるようだ……! 


 はあ……もう、これは私ではとても決められないね。

 感動しすぎて、どちらかを選ぶだなんてことできそうにないよ! すごく申し訳ない。いや、ちゃんと思ってるよ? 本当に本当さ。もう、なんでそう疑うかな。


 それでだよ、私が独断で願いを叶えるほうを決めてしまうのは心苦しいんだ。


 だから、君達には自分で決めてもらうことにする。

 願いを叶えるのはどちらか、自分達でね。


 文句は受け付けないよ。

 神様に文句を言っても仕方ないだろう? 大丈夫、君達の望んだ通りのことを叶えてあげるからさ。そこだけはちゃんと保証するよ。


 約束しようか。

 君達が選んだ願い事は必ず叶える。ずっとだよ。だから安心しておくれ。


 神様との約束だ。反故にされることは絶対にない。


 よし、これでいいかい? 

 まったくわがままなお嬢さん達だよ。


 それじゃあ、どちらにするか決めるための場所に行こうか。


 いってらっしゃい。

 君達が良き選択をすることができるよう、私はここで祈っているよ! 

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