無名の英雄はゆったり気ままに暮らしたい

Zcelia(ゼシリア)

無名の英雄

 英雄とは、このラウドラ大陸における最強の証を持つ者を指す言葉であり、人類の皆が憧れとする象徴でもある。

 そしてその英雄は今日もお金を稼ぐためにただ淡々と戦っていた。


「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


「・・・・・・」


 この大きな雄叫びを上げている巨人の名はトロール。3メートルをゆうに超える巨体を持ち、破壊力抜群な攻撃が特徴だ。A級の冒険者がパーティを組んでやっと倒せるといったレベルだろう。

 だが英雄と呼ばれているこの男、リードからすれば朝飯前の相手だった。


「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


 トロールはもう一度雄叫びを上げると今度は突進攻撃に切り替える。それを瞬時に察したリードは腰に下げていた剣を引き抜くと、「ふぅ」と一呼吸をおく。そして剣を抜いた瞬間、目にも止まらない速さの斬撃をトロールに浴びせる。

 そして攻撃を喰らったトロールは、突進したままリードの横を通り過ぎると、身体がバラバラになり崩れ落ちていく。


「・・・・・・よし。片付いたな」


 リードはトロールのバラバラになった肉片から小さな石を拾う。これは魔石と言ってモンスターを倒すと出てくるもので売れば金になる。


「そろそろ帰るか・・・・・・」


 リードは英雄と言われているが年齢はまだ16歳。

 この若さでリードは英雄になった。だが、英雄と言ってもリードは誰からも認知されていなのだ。

 不思議な話だろう?英雄なのに認知されていないなんて。この理由を知るには12年前に遡る。


 12年前、当時リードはアレフガルドと言う王国(国自体はもう君主が代わり今は名前が変わっている)で人体実験を受けていた。その時4才ほどだったリードは孤児でたまたまそこの研究者にモルモットとして連れて行かれたのが始まりだった。


 そしてその人体実験とは勇者クラスの人間を作り出すというものだった。

 その被験体としてリードは長年人体実験を受け続けていた。しかもその実験にリードの体が適応した事で実験は順調に進んでいった。

 そしてリードが10の頃、実験は成功し勇者を超えた存在として新たに生まれ変わった。

 だがその時、アレフガルド内で貴族や国王への不満、非倫理的な人体実験をしている事が露呈してしまい、民衆は国に反旗を翻し革命が起こってしまったのだ。


 そしてアレフガルド内で戦争が起こり、その時リードはある男に導きかれて国を脱出した。


 ある男の名はジーク。元々はアレフガルドの研究所を守る極秘の警護隊の隊長だったのだが、前々からこの研究に対し嫌悪感を抱いていた。

 そしてこの革命が起きたのと同時にリードを脱出させてくれた恩人であり、名付け親でもある。


 それからリードはジークと共に大陸の国や街、村などを3年ほど旅した。

 その一環で魔物討伐をしていたのだが、村や街の脅威だったSランク相当の魔物を倒したりしているうちにジーク達は勝手に英雄と呼ばれた。神出鬼没で現れる冒険者。誰もその存在を見た人たちはいなく、聞いた事しか無いからかいつしかとも言われた。

 一応これがリードが英雄だが認知はされていないと言う理由。


 と、まぁ、長々と話したがこれが俺の知る全てだ。

 

「ただいま」


「おう、おかえり」


 そして俺とリードは3年ほど旅した後今住んでるこのルスフェルという街に4年間暮らしている。俺ももう60を過ぎたジジイで、旅をしようも遠くに行くのが疲れてしまう。今はこうしてどこにも行かず、老後をただ楽しむのが1番良い。


「どうだった?トロール退治は?」


「特に何も、いつも通りだよ」


 そういつも通りに細切れにしてきた。この力を手に入れてからもう6年。使い方も制御も昔に比べたら遥かに上手くなった。今ならもっと強い魔物とも戦える。

 そう思うと、リードは静かにグッと拳を握りしめる。


「そうか。いつも通りか、流石だな」


「ジークはもう行かないのか?」


「もう俺も60になった。最近身体が徐々に衰えて来てな、戦うのは流石に厳しい」


 ジークはウィスキーの入ったグラスを軽く振りながら外を眺めリードに言う。

 その物悲しい表情から察するにジークはもうこれ以上戦え無いのだろう。ジークもかなりの手練れ、昔は戦う事を好んでいたが、今は酒を飲み骨董品を手入れするのが趣味になっている。


「お、そうだリード。お前、また旅に出てみたらどうだ?まだ行ってない場所は沢山ある。これを機に行ってたらどうだ?」


「俺はいいよ。もう別に旅をする気はない。俺はここで十分満足してるし、ジークを置いては行けない」


「・・・・・・そうか。まぁ、お前がそう言うなら俺は何も言わんよ」


 旅か・・・・・・。確かに昔旅してた頃は楽しかったが、今だって十分楽しい。モンスターを狩り、安定した賃金を稼いで平和に生きる。あんな場所にいた頃と比べたら遥かにマシだ。旅は楽しかったけど、今はジークを1人にする訳にもいかない。だから俺はここに残る。


「じゃあ、俺買い出し行ってくる」


「おう。あ、今日はビーフシチューが食いたいな」


「分かったよ」


 リードは金の入った巾着袋をポケットに入れると、家を出て市場に向かった。




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