貴方のキッチン、今デもアナタのモノですカ? No.404 承認欲求 否認型(消失済)
八雲晴
第1話 記録のはじまり
赤いライトが点灯する。
『録画を開始します。3…2…』
「今日作っていくのは、肉じゃがです!あたしが小さい頃、おばあちゃんがよく作ってくれてたんだ~懐かしいな~」
あたしは千寿(ちとせ)。半年前に大学進学を機に上京した、華の大学生。最近、動画投稿を始めた。ちょっと今どきの子っぽいことしてみたくて。だって、大学生になるまでスマホ買ってもらえなかったんだよ?ヤバくない?今どき小学生でも普通に持ってるってのに。まぁおばあちゃんだからね、仕方ないんだけど。
あたしの両親は早くに亡くなった。お父さんは、あたしが生まれる前に亡くなったらしい。お母さんはあたしを産んだときに亡くなった。そんなあたしを引き取って育ててくれたのが、おばあちゃんってわけ。感謝はしてるんだけどさ、もっと遊びたかったなってのが本音。上京してから半年、頑張ってバイトして、お金貯めて、念願のスマホを手に入れたんだ!これまでの連絡手段、公衆電話か手紙しかなかったの。もう時代は令和だよ?スマホがあれば、わざわざ外に電話しに行かなくてもいいわけで、これから寒くなってくことを考えると…ナイスあたし。
話が逸れちゃったね、なんであたしが動画投稿してるのかって話。色々あるんだけど…一番は記録、かな。あたしってなんでか影が薄くてね、どれだけ頑張っても頑張った気がしない…あれ、あたしって何してたんだっけって思っちゃうことがあるんだ。だから、少しだけでもいい、あたしが何かに打ち込んでたって記録を残したかったんだ。あたしはここにいるんだよ、いてもいいんだよって証明したかったんだ。それにおばあちゃんに心配かけたくないって気持ちもあるんだよ。今は電話でしか会話できないんだけど、いずれはおばあちゃんにもスマホを買ってあげるんだ。そしたら、テレビ通話できるでしょ?それに、おばあちゃんはずっとあたしが元気でいるか、ご飯をちゃんと食べてるかって心配してくれてるからさ、ちゃんとお料理作れてるよ、元気にやってるよって伝えてあげたくて。
動画投稿を始めてから2週間、慣れない編集に奮闘中。まだ誰からもコメント貰えたことないんだよね。いやいや2週間しか経ってないから、これからだよこれから。別にバズりたいとか思ってないし?そう記録だから、記録。日記感覚。明日は何作ろうかな…なんて思ってたらスマホに通知が来た。
「あれ?こんな時間に?ちはるちゃんかな、杏ちゃんかな…」
ちはるちゃんと杏ちゃんは、上京して出会った親友なんだ。2人とも、芋っぽいあたしと仲良くしてくれる、ほんといい子たちなんだ。さてさて、なんの用事かな?
『unknownがあなたの動画にコメントしました』
「え?動画…コメント…?」
噓でしょ?動画って動画だよね?確認しなきゃ!
『親子丼、美味しそうですね!よくおばあちゃんが作ってくれたのを思い出しました。応援してます。』
「…ありがとう!unknownさん!」
初めてコメント貰えた…やっば心臓バクバクしてる。人に見てもらえるってこんなに嬉しいんだ!それにこの人、なんかあたしと似てる。一昨日作った親子丼は、おばあちゃんの得意料理の一つ。名前も顔も知らないけど、おばあちゃんっ子同士、シンパシーを感じるよ!あなたも頑張ってね!
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