ダンジョンのおっさん~ピンチに陥った配信者を助けていたら紙袋の魔人という二つ名が付いていた件~
てすたろう
第1話 三分でワイバーンは狩れますか?
カップラーメンにお湯をそそぎ終えた。
キッチンタイマーを3分にセットする。
たかだか3分でうまいものが食えるのはコスパの塊だ。
いや、タイパの塊か?
まあ、どちらでも良いか。
俺――
何の気無しに開いたダンジョン配信者の映像が流れている。
そこで、思わず呟いた。
「……マジかよ」
画面の中、配信者の女の子が、でかい魔獣に追い詰められていた。
純黒の鱗に、細長く伸びた頭部に生える鋭い二本の角。
あれは、ブラックワイバーンか……?
A級ダンジョンの壁ともいうべき存在だが……。
一瞬、頭の中に別の光景がよぎった。
七年前。妹が、俺の目の前で――――
あれはもう終わったことだ。
妹は帰ってこない。
とにかく今は……
そう思って、配信の概要を確認する。
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ダンジョン初潜入!
決めるぜ! 鮮烈なる探索者レビュー!
初心者ダンジョン<始まりの園>攻略します!
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そうだよなぁ……。
<始まりの園>だよなぁ……。
本来ならスライムやらゴブリンやらが単体で襲ってくるような緩い雰囲気のダンジョンのはず。
それなのに、ブラックワイバーンくんねぇ……。
君、ちょっと、場違いじゃない……?
おまけに配信のこの子……名前は『メルル』か、概要文からも分かるが、装備を見たところ、彼女は初心者。
けど、立ち回りは悪くはない。
だが、防戦一方ではどうしようもない。
ダンジョン内で死ぬことは
視聴者チャット欄もだいぶ騒いでいるしね。
:始まりの園ってこんなモンスターいたっけ!?
:いねぇよ。バカ
:メルルちゃん、ヤバくない!?
:ブラックワイバーンの推奨レベル:40に対して、メルルちゃんのレベルは10……終わりやね。
:誰か助けに行けよ!
:女の子が傷ついている姿で補給される栄養素がある(¥10000)
なんか一人、ド級の変態いるんだが、赤スパなんだが。
どんだけこじらせてんだ……!
まあ、それは置いといて、俺は一方的に誰かがいたぶられるのを見るのはあまり好きではない。
というか、これでは栄養素どころか、カップラーメンが不味くなるというもんだ。
よって、助けに入るのはやぶさかではない。
ただ、ダンジョンに入るには探索庁からの許可証が必要なんだけど……。
「……まあ、いっか」
というか、不法侵入何度かしてるしね、てへ。
七年前は探索者やってたけど今はもう違うからなぁ。
三十路手前の単なる非正規労働者だ。
倉庫で荷物を運んでるだけの、地味でつまらない毎日。
たまにはパーッと行きたいよねぇ。
キッチンタイマーに目をやる。残り二分。
この戦いは、時間との勝負だ。
「……よし、二分だ。二分で片付けて戻る」
そして、すぐさま、手を振り上げて目の前の空間を縦に切った。
「ゲート、オープン」
真っ黒な裂け目が口を開ける。
「おっと、そうだ、いけねぇ……」
うっかりしていた。
配信に映り込む以上、顔バレは怖いからな……。
紙袋を被って、その中に飛び込んだ。
基本的に身に着けているものはダンジョンに入ると装備品として扱われる。
重火器なんかは弾かれるらしいが、こういう軽微なものはしっかりダンジョンに入った後でも反映してくれるんだ。
どういう理屈か知らねぇけど。
宙に浮く感覚とともに、部屋の景色がぐにゃりと歪んでいく。
そして、世界が一瞬で塗り替わった。
<始まりの園>は風が心地の良い、海に面した花畑のダンジョンだ。
花畑から離れると深めの森がある。
まあ、今は場違いワイバーンのせいで、花畑は大荒れだけどな。
転移して早々、花が散って、花吹雪が舞っていやがる。
「なっ……!?」
配信者の子――――ミルル、いやメルルだったかな――――が驚いた声を上げた。
俺の転移先は、ちょうど彼女の目の前。
滑空してきたブラックワイバーンの巨大な爪が振り下ろされる、その寸前だった。
「どうも、こんちわ」
「は? え? 貴方誰です!? というか後ろ後ろ!」
メルルは血相を変えて俺の後ろを指さす。
十中八九、ブラックワイバーンのことだろうな。
「あー、大丈夫大丈夫」
振り下ろされた巨大な爪を素手で掴むと、ヒョイッと背中に飛び乗った。
「よく、覚えておきなさい。これが
――――ワイバーンロデオの開始だぜ。
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