第27話 あたたかな日々の幸せ
奈々子は無事に退院し、自宅で哲郎との育児が始まった。赤ちゃんは大体二時間置きに目が覚めて泣いてしまうので、奈々子も二時間寝て、起きて……を繰り返していた。
名前は“
「悠真……可愛い」
「見てて飽きないな」
ベビーベッドですやすや眠る悠真を見て、二人はにっこりと笑う。
「……そろそろ教室の時間だな。悠真、行ってくるぞ」
「哲郎さんたら、悠真にメロメロだね」
「フフ……君との子どもだからな」
その哲郎の笑顔にキュンと胸がときめいた奈々子だった。
「……哲郎さんに似て、この子も素敵な男性になるだろうな」
奈々子はそう言って、悠真の隣の布団で横になる。あまり眠れず疲れてはいるものの、それ以上に悠真が可愛くて平気でいられる奈々子だった。
※※※
お宮参りも終わって五月も下旬になり、悠真は時々笑顔を見せるようになった。
「わぁ、笑った! 可愛いな」
「君を見て幸せそうだな」
「ねぇ、笑い方……哲郎さんに似てない?」
「そうか?」
二人が話しているとインターホンが鳴る。
「こんにちはー!」
「いらっしゃい、友梨」
哲郎の娘、友梨が悠真に会いに来てくれた。
「友梨ちゃん、いらっしゃい」と奈々子が迎える。
「奈々子さん、お父さん……おめでとう! わぁ……赤ちゃん、ちっちゃくて可愛い!」
友梨がベビーベッドで寝転がる悠真を見て喜んでいる。
「友梨ちゃんの弟になるね」
「うん……すごく嬉しい。こんなに可愛い弟だなんて自慢できるよ」
そう言って友梨はバッグから袋を取り出す。
「これ……少しだけどお祝いです」
中身は木製のガラガラのおもちゃと、水色のおしゃれなスタイだった。
「赤ちゃんグッズって全部可愛いくて迷っちゃった」
「わぁ……友梨ちゃん、ありがとう! 使うのが楽しみだわ」
哲郎は奈々子と友梨の姿を見てあたたかな気持ちになる。二人がまるで本当の親子のように見えてきたのだ。悠真を可愛がりながら少しずつ家族になっていけるような気がする。
そしてこれからも奈々子や友梨、悠真を守りたいと強く思うのだった。
「お父さん、良かったね。奈々子さんと一緒になれて。こんなに可愛い子どもが生まれるんだもの」
「そうだな。また子どもに恵まれるとは……幸せだよ」
悠真が眠ったあと、三人はお茶とお菓子を食べながらたくさん話をしていた。奈々子も哲郎と同じように、友梨と本当の家族になったような気がして嬉しく思っていた。
※※※
悠真が生まれてから数か月。
小さな毎日の積み重ねの中で、三人の時間は少しずつ色を増していった。
夜の授乳も大変だが、哲郎も一緒に起きることがあった。小さな電気スタンドに照らされて、半分眠りながらも奈々子の背中をさすってくれる。彼が隣にいるだけで、初めての育児でも奈々子にとってはどこか安心できるものとなっていた。
梅雨の晴れ間のある日曜日。雲ひとつない青空に誘われて、三人は河川敷へ出かけた。
哲郎がベビーカーを押し、奈々子はその隣に並んで歩く。悠真は、心地よい風に頬をなでられてすやすや眠っている。
「外に出ると、気持ちいいね」
「そうだな。家族で歩いてるんだなって実感する」
哲郎の言葉に奈々子は胸がじんと温かくなる。初めて会った時から惹かれていた小説教室の先生――自分の想いが伝わってこうやって家庭を作ることができるなんて。
川沿いの広い河川敷には、キャッチボールや自転車を楽しむ子どもたちの声が響いてくる。
「来年は……この子も歩いてるのかな」
「その頃には、“パパ”、“ママ”って呼んでくれるかもしれないな」
「ほんとだ……楽しみ」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。未来はまだまだ未知数だけれど、こうして三人で歩く道がある――それだけで十分に幸せだった。
奈々子は哲郎の横顔を見つめながら思う。
この人と、この子となら、どんな季節も笑って過ごせるだろうと――。
その未来を思い描きながら、奈々子は小さな手を優しく握りしめた。
家族の物語は、これからも静かに、そしてあたたかく――紡がれてゆくのだろう。
終わり
※※※※※※※※
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@ayanokouji_sen
小説教室にて講師のおじさまと恋に落ちました 紅夜チャンプル @koya_champuru
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