異世界だけど、まずはごはんにしませんか?〜ユリとヨッピーのお散歩旅〜

文鳥になりたいpiyo

プロローグ:冷蔵庫の向こう側

 その日、ユリは冷蔵庫を開けた。特に何かを作るつもりもなかった。ただ、なんとなく甘いものが食べたい気分で……。



 ――




「あれ、プリン買ってたっけ?」


 ふわっと、バニラのような嗅ぎ慣れた甘い香りが鼻先をくすぐった。


「これなんの匂いだっけな〜うーん……」




 次の瞬間、足元がふわりと浮き、冷蔵庫の奥へと吸い込まれるように、ユリの世界は反転した。




 ――




 目を開けると、そこは花が咲き乱れる草原だった。風が吹き抜け、どこか聞き覚えのない鳥のさえずりや動物たちの声が聞こえる。


「え、え?  夢?」


 そう思ったときだった。背中にふわりとした感覚。




 振り返ったそこにいたのは――。

 月光のような白銀の羽根を持ち、美しく澄んだルビーのような赤い目をした優雅なグリフォン。




 けれど、ユリはその姿よりも先に、香りに気づいた。やわらかくて、透きとおっていて、でも芯に甘いあたたかさがある。懐かしい。優しい。安心する。


「これ……やっぱり知ってる、匂い……」


 そう口にした瞬間、そのグリフォンが、ゆっくりと頭を下げた。


「はじめまして、ユリさま。わたくしは〈ヨッピー〉と申します」


 

 声は澄んでいて、まるで風の音。性別も、年齢も感じさせない、不思議な品の良さがある。


 

「あなたを探して、長いあいだ旅をしてまいりました」




 ユリは、ちょっと笑ってしまった。だって、冷蔵庫開けただけだったのに。




 ――




 それが、ユリとヨッピーの旅の始まりだった。



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