太陽神は闇夜に躍る

ライカ_Lyka

第一章 ジュピター

プロローグ 出会いと始まり

*残酷描写あり *鬱展開あり



 『アルビノ』


 その言葉は、肌や髪が異様に白く、紅い瞳孔や虹彩を持つ、特殊個体を指す。

 そして、またの名を_



 『悪魔憑き』



 人々は彼ら彼女らを忌み嫌い、その扱いは家畜以下、或いは実験動物と同様のものだった。

 悪魔憑きが産まれたなど一族の恥。

 万が一産まれた場合には、秘密裏に処理するか、奴隷として売り払うことが当然として行われてきた。


 そして、今日も一人の少女が荷馬車に積まれている。

 見た目はおよそ十歳くらいの、まだ幼い子供である。

 しかし、その姿はひどく痩せ細っており、見るに堪えないものだった。


 透き通るような白い肌はあちこち腫れ、黒ずんでいる。

 さらさらだったであろう白い髪もボロボロに傷んでいる。

 そして、真紅に染まった瞳は、光を映していなかった。


 大抵、悪魔憑きとして産まれた子供は物心のつく前に処理される。

 彼女がここまで成長できたのは母のおかげであった。


 彼女の母は悪魔憑きである我が子を守るため、髪を黒く染め上げ、目を布で覆い隠した。

 村の人には病弱だと伝え近づけさせず、秘密を隠し通してきた。

 しかし、それも叶わなくなった。

 母が病死したからだ。



 彼女を守ってきた存在ははがいなくなり、彼女の秘密はたちまち村中に広がった。

 よく話しかけてくれた子供たちに毒を吐かれ、よく見舞いに来てくれた大人たちに蔑まれる。

 道を歩くだけで後ろ指を指され、石を投げつけられる。

 機嫌が悪いからと理不尽に暴力を振るわれ、ドブの中に放り出される。

 痛みと苦しみに泣き叫ぶと、また吐き出すような暴力を振るわれる。


 これらの行いは彼女の心を壊すには十分すぎた。

 そして終いに、処理するため遠くで捨てられることになった。

 死が近づいていることを理解していても彼女は泣き叫ばない。

 いや、泣き叫ぶほどの気力と感情がないのだ。


 荷馬車に揺られている今も、ただ焦点の合わない視線で遠くを見つめるだけ。

 いくら泣き叫んでも傷は治らないし、助けだって来ようはずもない。


 ただ、少女に声を出せるだけの気力があれば、こう呟いていただろう。


 __助けて、と。


 彼女は自分の考えたことに驚きを感じていた。

 まだ私は生きようとしているんだ、と。


 感情が薄れていたはずの少女に、恐怖という感情が嵐のように荒れ狂った。


 (助けて…。誰か助けて…。死にたくないよ…。誰か…!)


 少女はただひたすら助けを求め続けた。

 例えそれが声に出ていなかったとしても、誰かに伝わることを信じて。


 その時、前方で大地を揺らすような重低音が響いた。

 あまりの音に驚いて、少女は目を瞑った。

 暫くして恐る恐る目を開くと、目に映ったのは前半分が綺麗さっぱりなくなった荷馬車と、目の前に立つ一人の少年だった。


 目の前にいる少年はこの世界では珍しい、闇を思わせるような黒髪黒目であった。

 そんな青年は、とても優しい声色でゆっくりと告げた。


 「もう大丈夫。ここに君を傷つけるものは何もないよ。」


 その言葉を聞いたとき、少女は心の奥まで染み込んだ冷たいものが溶けていくのを感じた。

 それを感じるとともに少女は泣いた。自分でも驚くほどに大声で泣き続けた。

 この体を優しく抱きしめてくれた少年の腕は、とても暖かかった。

 少女が泣き止むと、少年は少女に問いかけた。


 「君が一番望んでいるものは何?」


 急な質問であっても、少女にとっては関係のないことだった。

 少女は、自分を助けてくれた少年の質問に答えないと、という使命感のようなものの中、答えを考えた。


 (どこか遠くへ逃げたい…?違う。村の人たちへの復讐?それも違う。私の…、私の一番望んでいること…。)


 「みんなに認められる、愛されるような姿になりたい…。」


 少女は自分の言った言葉が腑に落ちたように感じた。

 悪魔憑きという外見的な差別によって受けた迫害をもう受けたくない、そんな想いがただ一つの答えであり、少女の望みだった。


 「そうか。なら、今から願いを強く思い描いてみて。きっと、願いは叶うから。」

 側から聞けば唯の胡散臭い言葉だが、少女には不思議と信用できる気がした。


 (愛される姿になりたい、愛される姿になりたい、愛される姿になりたい_)


 少女は心の中で願い何度も唱えた。

 ただひたすらに心の底からの願いを唱えた。


 「それじゃあ、いくよ。スキル発動、【輝く太陽は希望となりて《ソル・オムニブス・ルーケト》】。」


 必死に願う少女の頭に向け、少年は手を伸ばした。

 それと同時に少女の体は強く光り輝いた。


 光が治ると、そこに佇んでいたのはボロボロに傷んだ白い髪の少女ではなく、似ても似つかない、光を全て吸収してしまうような漆黒の髪をもつ少女であった。




 黒ずんでいた肌も綺麗に治っており、光を取り戻した瞳もまた漆黒で、深い淵い闇を映し出している。


 「うそ、これが、私…?」


 少女は自身に起きた変化に戸惑った。

 水溜りに映る姿は、自分とは思えないほどに綺麗で可愛らしい少女だった。

 そして、奇しくも、目の前の少年にとても似ていた。


 「無事にスキルを手に入れたようだね。」


 少年は少女の身に起きた変化を、さも全て理解しているかのような声で話しかけた。


 「スキル…?」

 「そう、スキル。君が手に入れたスキルは、【変幻自在】。姿形や匂い、大きさや肌触りまであらゆるものを変えることのできるスキルだよ。」


 状況的に、この少年が何かをしたであろうことは理解できる。

 しかし、神から与えられるはずのスキルを人の身で他人に与えるという光景は、この世界の住民からすると、よほどあり得ないことだった。

 そして、この少女も例外ではない…はず。


 「すごい…。こんなことができるなんて、まるで神様みたい…。」

 (違う、神様『みたい』なんかじゃない。この人は、いや、このお方は、本物の神様だ…!)


 長い間蔑まれた絶望、その絶望から解放された安心感。そして、目の前で起きた奇跡。

 少女にとって、絶望の奥底に急に現れた光そのものである少年に対する疑いは一切持っていなかった。


 「あの…、貴方様の御尊名をお聞かせ願えないでしょうか…?」


 「僕の名前は…、『コクト』。僕はコクトだよ。」


 少年__ソルは、少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと答えた。


 「コクト様…!なんと素晴らしき響きなのでしょう!

  コクト様、あなた様のお供をさせて頂いても宜しいでしょうか…?」


 「いいよ、僕と一緒にこの壊れた世界を変えに行こう。」


 こうして、世界を変える旅は始まった。

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