第27話 阿増絶阿と互角に戦えるのが焔聖君
27 阿増絶阿と互角に戦えるのが焔聖君
もしもの時は――俺が焔聖君を倒す。
そう問われた時、俺はきっと眉を曇らせたと思う。
何て答えるべきか僅かなあいだ悩んでから、俺は口を開く。
「そう、だな。
本当に万が一美礼が殺されたなら、俺達はもう親父を何とかする以外ない」
「うん」
「けどそれは――物理的に無理だ。
今の焔龍では焔聖君には――敵わない」
真剣な眼差しを向けてくる文香に、俺は真顔で答える。
文香は納得がいかないとばかりに何かを言おうとして――俺はソレを発現させた。
「つ――っ?」
俺の体内で圧縮されている超密度の気の塊を、文香の前に具現する。
ほんの少し文香に対して敵意を込めたソレは、文香にとっての毒となる。
その気を視ただけで――笹崎文香は戦慄した。
「これが――俺が内包している力の全てだ。
今はコレがどの程度の力か文香に分かってもらう為、悪意を以て力を発散している。
現に文香は――いま気分が悪いだろ?」
「……そう、だね。
龍君が強いのは知っていたつもりだったけど……これは私の予想を遥かに超えている。
正直、私の物差しでは、訳が分からない位だよ……」
ついで、俺は話の肝を文香に打ち明けた。
「ああ。
文香のレベルでは、そう感じるだろう。
でも、親父は違うんだ。
あの親父は俺の力なんて、屁ほどにも思っていない。
〝ぶっちゃけ――親父はこの十万倍は強い〟と言ったら少しは分かってくれるか?」
「………」
それは、何の比喩もない現実だ。
焔聖君は――焔龍の十万倍は強い。
その事実をつき付けた時、笹崎文香は全てを理解する。
「それは要するに、例え不意討ちでも聖君さんは倒せないって事だね?
聖君さんを倒す方向で話を進めるのは、現実的じゃない。
つまり私達は、何が何でも美礼ちゃんを守るしかないという事、か」
やはり文香は、頭の回転がはやい。
俺の言わんとする事を、本当に瞬時に悟ってくれるんだから。
「ああ。
本当に情けない話だけど、俺に親父は殺せない。
今は美礼を守る事に、全力を注ごう」
実に、格好がつかない話だ。
けど、俺はそう判断して――文香に対し苦笑いを浮かべた。
◇
というか――これって絶対ラブコメじゃないよね?
ラブコメ以外の――得体のしれないナニカだよね?
じゃあ何だと言われると、俺も答えに窮する。
ただ、これは間違いなくラブコメじゃないのは確かだ。
それでも俺の目の前には、この物語を無理やりラブコメにしようとする女が居た。
「何、龍君?
そんな神妙な顔をして?
もしかして、私とイチャイチャしたいの?
私のオッパイでも、揉みたい訳?」
「……ゴフゥっ?」
むせた。
昨夜の芳江さんの様に、もうむせるしかなかった。
……イキナリ何を言い出すのだ、この女は?
「そうだね。
分かっている、分かっているよ。
龍君は私のカラダが目当てで、私とつき合い始めたんだもんね。
美礼ちゃんを助けたいなら、私にチョメチョメさせろと要求する事位分かっていたよ」
「………」
いや。
オマエは何も分かってない。
俺が何よりその手の話を嫌う事を、まるで知らない。
大体、俺達はまだつき合う段階まで進んでいない。
無論、俺は文香のカラダを目当てにした事も無い。
だというのに、文香の暴言は続く。
「だったら、仕様がないよね。
私も世界を守る為に、ひと肌脱ぐしかないよ。
この一件が片付いたら――しだれちゃんのオッパイを揉ませてあげる」
文香が笑顔でとんでもない事を言い出すと、しだれは当然の様にツッコむ。
「――うぉい!
何で私が、龍にオッパイ揉まれなきゃならないんだっ?
黙って聴いていれば、目茶苦茶な事を言いやがって!
前から思っていたけど、実は文香って微妙に性格悪いよねっ?」
「フフフ。
今頃気付いたの、しだれちゃんは。
そうだよ。
私は世界を救う為なら――平気でしだれちゃんのオッパイを犠牲に出来る女なのだ!」
「………」
飽くまで自分の手は汚さず、しだれを穢す事で物事を解決しようとする、文香。
割と最悪だなと思っていると、文香は俺に指をつき付けた。
普通に失礼なヤツである。
「そう。
オッパイマスターである龍君なら、分かるよね?
実はしだれちゃんは着やせするタイプで、隠れ巨乳だって事が。
そのしだれちゃんのオッパイを、一生揉めるんだよ?
これはもう、命を懸けて私の命令を忠実に遂行するしかないよね?
例え龍君が局部だけを残して、体の全てが消滅しようと、美礼ちゃんを守り抜くしかない。
これはそういう話なんだけど、ちゃんと分かっている――?」
「………」
実に嫌な死に方だった。
股間部以外は全て消滅とか、どういう死に方だ?
親父なら出来そうだけど、それ以外の人間にそんな殺し方が出来るとは思えない。
身元確認の為にお袋や美礼が俺の遺体と対面したら、泣くより先に気持ち悪がるわ。
だって、チン■しか残っていない訳だし。
〝これが息子さんです〟と警察関係者に言われても、挨拶に困る。
何かの下ネタだとしか、思えない。
後――俺は絶対にオッパイマスターでは無い。
「んん?
まさか龍君は、この条件でも不満だと言うの?
これはきっと笹崎文香ルートだから、私とイチャイチャしなきゃ詐欺だって言うのかな?
ハハハ!
確かにそうだね。
笹崎文香ルートなのに、私とくっつかないなんて余りにロマンス詐欺すぎるよ。
仮に私と龍君がつき合わないで終わったら、私としても男泣きするしかない」
「――なに言っているのっ?
何訳の分からない事を、くっちゃべっている訳っ?
それ以上喋るとナニカが破綻しかねないから、もう一切口を開かないでもらえるかなっ?
文香はもう、口と鼻で呼吸しないで!」
本当に、呼吸するなら皮膚呼吸だけにしてもらいたい。
え?
酸素不足で死ぬ?
そうですか。
死にますか。
この、悪の元凶っぽい人は。
「いや、いや、いや。
悪の元凶は、別の人だよ。
決して、私ではないよ。
多分、私より巨乳なしだれちゃんのオッパイ辺りだと思うだけど、そこん所はどうなのさ?」
「――俺達の笹崎さんがバグっちまった!
つーか、いい加減にしないとマジで頭弾くぞ!」
しだれも同じ思いなのか、既に彼女も臨戦態勢だ。
俺も気炎を上げて、何時でも戦闘可能な状態にもっていく。
二人の創世十字拳の使い手に囲まれて、文香は首を傾げた。
「そうだね。
そろそろ、真面目な話をしようか。
何か死亡フラグぽいけど一応伝えておくよ。
龍君。
もし私が龍君を唸らせる程の料理が作れたら、その時は――」
が、文香が最後まで言い切る前に、それは起った。
「――ゴホン!」
「―――」
しだれが大きくせきをして、文香はキョトンとする。
彼女は苦笑をしてから、何かを納得した。
「と、ありがとう、しだれちゃん。
やっぱり今のは、どう考えても死亡フラグだったと思う。
そういう話は――この件が片付いてからだね」
「………」
いや、いや、いや。
本当に意味が分かりませんよ。
それでも最後に――笹崎文香は微笑んだ。
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