恋人を寝取られた俺は最強のゾンビハンターになる ~勝手にできたハーレムがめんどいけど、元カノ組だけは全力でNG~
暁貴々@『校内三大美女のヒモ』書籍
第一章 無敵のゾンビハンター
①
プロローグ 『唯一無二の希望』
――まだ死ねない、アイツらが生きている限りは。
喜怒哀楽の感情の発露が、彼を新たな存在へと進化させた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「まぬけなやつだ。成仏しろ」
パン、という風船の割れるような音が響いた。
ひしゃげた自動ドアに
十代半ばから後半と見えるが、どう甘く見積もってもただの高校生には見えまい。
オーラ。眼光。佇まい。その少年を構成する全ての要素が、彼という存在をただの子供ではありえないものへと押し上げていた。
あるいは――彼が生まれ落ちたその時から、全ては定められていたのかもしれない。
報われぬ死が――鋼の執念と怨情によって、彼を悪鬼羅刹へと転生させたのかもしれない。
「気分がいい。今ならダンガムにも勝てそうだ」
誰にともなく、少年は独白する。
端的なる解釈は彼にその力を意識させ、力ある言葉がそれを確固たる事実とした。
強くあろうとする者はその細身に似合わぬ膂力で買い物かごをベキベキと丸めると、風除室の床に広がった血溜まりをもろともせず店内へと足を踏み入れる。
まずは挨拶代わりに天井に張り付いた四足歩行の異形へと向け、バレーボールよりも大きなプラスチック球を見舞った。
グ ォ ン ッ
サイドスローでもアンダースローでもない、回転いらずのハンマー投げの如き無茶苦茶なフォーム。砲弾よりも速く投擲された〝ボール状の買い物かご〟が、エリンギにも酷似した頭部を持つクリーチャーごと天井を粉砕。
コンクリート片と血の雨がスチール製の陳列棚に降り注ぐ中、圧倒的つわものは両手に付着した埃を煩わしそうに払う。
眼前の『惨状』などまるで気にも留めず。
――〝あと十秒粘っていれば死なずに済んだのに〟
胸中を満たすのは、そんな哀れみ。
灰の舞う戦地で歴戦の兵士が終戦の日に抱く、つかの間の感傷のような。
初めて訪れた『拠点』近くのスーパーマーケットには、今まさに
表情という表情が根こそぎ欠落した顔貌で生者を貪り食うその姿は、もはや人の有り様ではない。
腐敗によって青い色素が浮かんだ身体を屈ませながら、亡者たちは一心不乱にサラリーマン風の男の皮膚と肉を噛みちぎり頰袋にため込む。
「うごォ、ごちゅォ」
「はぁぇ、あぇ、はぐぅっ」
「……だ、ず……████ げ█████で……」
さながら蛆虫が
――〝もう助からない〟
生き血の
もはや日常茶飯事になってしまった光景。
消化酵素の働きなどとうに失っているだろうに、それでもなお、奴らは生き物を食らわずにはいられない。ウイルスに侵された脳を生かすためだけにエネルギー源を欲する、獣にも劣る所業だ。
そんな亡者たちの群れから少し離れたところで、肩を震わせ、嗚咽を堪えている少女が一人。
レジから一番近いエンド売り場で、チョコ菓子が詰まったダンボール箱に体重を預けるように寄りかかっている。
学生だろう。
紺を基調としたブレザーとチェック柄の黒のプリーツスカートを着用している。制服は全体的に薄汚れており、所々に
世界に異変が起きる三ヶ月前までは『国民的アイドル』として名を馳せていた少女の素性など、久しくスマホもテレビも見ていない少年には知る由もない。
(大方、そこでくたばってる男に媚びて食糧の調達にでも来たんだろうが、結果はこの様か)
これだから女は、と少年は思う。
(度し難い)
だが見捨てると決めたのはゾンビ以下のアイツらだけ――故に、目の届く範囲にいる『人間』には手を差し伸べる。
それが彼の生きる上での、唯一の矜持であった。
「そこのお前自殺志願者か? 逃げないと次はお前がああなる番だ。奴らは食事中のみ音を遮断する。逃げるなら今の内だぞ」
「……ここ、こ、腰が……抜けて」
「助かりたいか?」
「たすけて……」
「この世界に希望はないぞ」
「助けてください……!」
半壊した自動ドアから店内へ入ってきた少年に対して、少女は縋りつくように訴えた。
じゃりとガラス片が踏みしめられ――、
砂を噛むような音が立つとともに――、
「ならば生きろ。俺が生かしてやる」
少年は生と死の境界線上に足を踏み入れる。
一斉に振り向いた
黒から紅へと変色した髪を靡かせながら。毛の一本一本に血潮を通わせたかのような、禍々しき
――ドンッ!
紅き戦士が左足を踏み込ませた瞬間、ぐにゃりと右腕が歪んだ。
まるで肉体そのものを液状化させたかのような可動域の広い動きで、鞭よりもしなやかに、フォーミュラカーよりも鋭い動きを以って、モンケン・フンドウの鉄球が如き拳骨が打ち込まれた。
矮躯のゾンビが肉片と臓物と赤漿を撒き散らしながら、吹き飛ぶ。その一匹が野菜コーナーの陳列棚へと突っ込んでもなお、亡者たちの『初動』は彼よりも遅かった。
少年は続けざまに両手を床につけるとベーゴマと化した。両脚を芝刈り機の如く高速回転させ、六匹のゾンビの頭部を一瞬にして刈り取る。
恐るべき体術だった。
死神がサイスを無造作に振るうかのような。
それを、これを、あれを、体術と呼んでいいのだろうか。否、名前も無き技に付ける名などありはしない。
わずか数秒の間に七匹の群れを殲滅せしめたのだから。銃火器の類を一切用いない、人間をやめた者のみが可能とする一方的な殺戮だった。
「すまない。食い物を汚してしまった」
逆立ちの体勢からトンと床に降り立った少年は事もなげに謝罪する。
「い、いえ。た、助けていただきありがとうございます」
「できるだけ多く持ち帰れ。生き残りたければ。お互いに死ねない理由があるようだしな」
「は、はい!」
レジ袋いっぱいに食材を詰める少年の瞳は同情したくなるほどの、悲哀と寂しさに満ちている。
一連の動作を傍観していた少女にとって、人間離れした強さと畏怖を否応なく意識させられる彼は恐怖の対象でしかない。しかし、その瞳がなんとも人間らしくて、どこか安心できるもので、だからだろうか。
――この絶望に満ちた世界に残された、唯一無二の希望のような気がし始めたのは。
異臭と酸臭が漂うスーパーマーケットで、少女は少年に憧憬や恋慕にも似た想いを抱きつつあった。
「あの……あなたのお名前は?」
「俺か。俺の名は 」
――〝
蝉の鳴く季節に彼、
ゾンビになってしまった者には、安らかな眠りを。
ゾンビ以下の外道どもには、死よりも
国嗣は、その二つを信条として生きる、齢十六歳の少年である。
●あとがき
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