パート3: 『祝福』と『外れスキル』

その日は、村の子供たちにとって、少しだけ特別な日だった。

年に一度、村の広場で行われる『祝福』の儀式。

神様から授かるという『スキル』が、私たちに示される日。


(私のスキルは、なんだろう…)


他の子たちと同じように、私も少しだけ緊張していた。

周りの大人たちの期待するような、強いスキルじゃなくてもいい。

でも、何か、少しでもみんなの役に立てるような力だったらいいな、なんて、淡い期待を抱いていた。


広場の中央には、村長さんが立っていた。

厳かな顔で、順番に子供たちの名前を呼び、その手に触れてスキルを読み上げていく。


「――【石工(初級)】! 村の壁の修復に役立つだろう!」

「――【弓術(見習い)】! よし、森の見張りができるな!」


呼ばれた子の親たちが、ほっとしたような、あるいは誇らしげな顔をする。

この村では、やっぱりモノを作るスキルや、戦うためのスキルが喜ばれる。

森の脅威が、すぐそこにあるから。


そして、ついに私の番が来た。


「エルナ」


村長さんの低い声が響く。

私はおずおずと前に進み出て、彼に手を差し出した。

ごつごつとした、大きな手が私の手に重なる。

目を閉じて、祈るような気持ちで待った。


(どうか、どうか…)


長い沈黙。

他の子の時よりも、明らかに時間がかかっている気がした。

ざわざわとした周囲の空気を感じる。


やがて、村長さんが眉間にしわを寄せながら、困惑したような声で言った。


「…むぅ…これは…【料理(??)】…?」


『りょうり』…?

聞き慣れない響きに、私は目を開けた。

村長さんも、首を傾げている。


「料理…あの、食べ物を作る、料理のことですか?」


私が尋ねると、村長さんはさらに難しい顔をして頷いた。


「う、うむ…そうとしか視えん…。食べ物を、まあ、美味しくする…程度の力のようだが…」


その瞬間、広場の空気が凍りついたのが分かった。

そして、次の瞬間には、抑えきれない失笑や、あからさまな溜息があちこちから聞こえてきた。


「料理だって?」

「なんだそりゃ、スキルじゃなくてもできることじゃないか」

「薪拾いのスキルの方がまだマシだな」

「とんだ『外れスキル』だ」


容赦のない言葉が、私の耳に突き刺さる。

顔が熱くなるのを感じた。

俯くと、地面しか見えない。


隣に立っていた父さんと母さんが、慌てたように私の肩を抱いた。

二人の手が、少し震えているのが分かった。

きっと、私以上にがっかりして、そして心配してくれているのだろう。


「まあまあ、どんなスキルでも神様の授かりものだ。きっと何かの役に立つこともあるだろう…」


村長さんが、取り繕うように言ったけれど、その声には何の力もなかった。

誰も、そんな言葉を信じていない。

この村では、モンスターと戦えないスキル、村の守りに直接役立たないスキルは、『外れスキル』なのだ。

そして私は、今日、その『外れ』の烙印を押されてしまった。


(やっぱり…私は…)


胸の奥が、きゅうっと痛んだ。

役に立ちたかった。

少しでも、みんなに認めてほしかった。

でも、授かったのは、嘲笑の的になるような、料理のスキル。


(どうして…)


理不尽だと思った。

でも、その言葉を口にすることはできなかった。

ただ、俯いたまま、両親に支えられて、逃げるように広場を後にするしかなかった。

背中に突き刺さる、憐れみと嘲りの視線を感じながら。

私の『祝福』の日は、こうして最悪の形で終わった。

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