最後のメッセージ

寄賀あける

 初恋は甘く切なく今もなお、僕の心を締め付ける。


 灰暗ほのぐらい空が含羞はにかむように頬を染めて朝を産み落とすように、心に差し込んだ僅かな兆しはいつの間にか恋と言う名の姿を見せて、その存在をあらわにした。そしてその時の思いはかすかで曖昧で、それでいてくっきりと僕の記憶に刻み込まれている。


 出会ったのは冬だった。気がつけば春に包まれ、淡い陶酔と焦燥に揺れながら、夢のような一瞬ひとときを過ごした。夏を求めて梅雨空の下で交わした約束は果たされることなく宙に消えてしまったけれど、きっと生涯忘れることなどないだろう。


 駅で僕を追い越す君、そんな出会いは別れもまた、君が僕を追い越していってしまうことを暗示していたのだろうか? 


――違う。君は二人で歩こうとしていた。それなのに、道に迷った僕が立ち止まり、繋いだ手を離したのだ。そして僕たちは互いを見失い、別の道を選んでしまった。


 優しい痛みを伴った後悔は今もこの胸に埋もれている。

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