覚悟
長万部 三郎太
覚悟があれば
人生に張りと潤いを。
初老に差し掛かったその男は、生きる意味を「犬」に見出そうとした。
彼に家族はなく、広い戸建てに一人で暮らす。
そんな生活に一抹の物足りなさを感じた男は、心を決め犬と暮らすことにしたのだ。
しかし、どこへ行っても『単身者不可』の壁。
身寄りのない人間には、もはやペットを飼う資格さえないのが現実だった。
男は途方に暮れた。
そんなある日、相談先の獣医からこのようなメールが届いた。
「特殊な条件ですが、犬と暮らす方法があります。
興味……、いえ覚悟があればご連絡下さい」
動物病院に向かう車には、すでに先んじて購入したリードや首輪、キャリーケースなどのあらゆるペット用品が詰め込まれていた。生半可な覚悟ではなく、断固たる決意というものを初期投資額でも意思表示をしているようだった。
「お待ちしておりました。ここにいらっしゃったということは、
メールでお伝えした覚悟ができたということですね」
「はい、犬に人生を賭ける覚悟と強い意志をもって参りました!」
男の気迫に獣医も説明に熱がこもる。
「それでは、今日この瞬間より、あなたは仕事も私生活も全て捨てて頂き、
この犬を人生の軸として生きて頂きます。
生活費については心配要りません。この犬はあらゆる意味で自立しております。
テレビコマーシャルやネット広告でのモデルとして活躍しており、
おそらくですが年収はあなたより上でしょう。
差し当たって……。あなたには躾を施す必要がありますね」
犬に連れられて帰宅した男は、早速トイレの練習を開始した。
(すこし・ふしぎシリーズ『覚悟』 おわり)
覚悟 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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