記憶 下

「……ここは……?」


転移の魔法が発動し、見覚えのない場所へと飛ばされた僕は、周囲を警戒しながらそう呟く。


「とりあえず、皆と合流を……!」


そう呟き、動き出そうとした僕に向け、乾いた破裂音と共に何かが飛んでくる。咄嗟に頭の位置を逸らした僕は、頭のあった空間を小さな何かが通り過ぎ、僕の後ろにあった木に小さな貫通痕を作ったことを認識する。


「……誰。」


僕は何かが飛んできた方を見ながら言う。


「……流石は我らが神が警戒するだけのことはある。これを避けるとは……。……やはり、お前は危険だ。」


すると、そんな声と共に木々の隙間から3人の男が姿を現す。


── 見たところ、召喚士サモナーか。となると、あの気配も多分こいつらが原因だろう。


「……目的は?」


少なくとも、こいつらは敵だ。そう判断した僕は、少しでも情報を得ようとそんな問いかけをする。


「無論、お前の抹殺だ。」

「……誰の指示で?」

「我らが神の御言葉だ。……これ以上は、無駄か……。……死ね。」


どこか違和感を感じさせるような彼の様子を警戒しつつ問いかけていると、男は脈絡もなく大量のモンスターを召喚してくる。


「!……とりあえず……!」


僕は刀を抜き、モンスターを次々と一刀の下に斬り伏せていく。


「……やはり……。……やるぞ。」

「「応。」」


すると男たちは、手に持った結晶をこちらへ投げてくる。そしてそれが割れると、そこからオークロードやオーガキング、ワイバーンのような、モンスターの中でも上位に位置するモンスターたちが召喚される。


「……チッ!」


僕は最低限の動きで相手の攻撃を躱しつつ、少しずつモンスターの数を減らしていく。


「……ッ!?」


するとその瞬間、僕の体が突然重くなる。見れば、男たちが何かを詠唱しており、僕の足元には大規模な魔法陣が展開されていた。


「……これでも動くか……。ならば……。」


かなり動きの鈍った僕を見、男はそう呟く。そして、


「……出てこい。」


と、一言呟く。


── その瞬間、圧倒的な威圧感が場を包み込む。男の影から出てきた、燃えるような赤色の存在によるものだ。


「……レッド、ドラゴン……!」


その姿を見、僕は状況が最悪になったことを察する。


── さっきから、記憶が消えていっている。それに、この感覚……。……多分、そう経たないうちに僕は動けなくなる。……駄目だ、このままじゃ勝てない……。


悪あがきと知りつつも刀を振るう僕に、次々とモンスターが襲いかかってくる。恐らく、男たちが召喚したモンスターだけでなく、この森に住むモンスターたちも襲ってきているのだろう。


── 僕は、ノア。シスト公爵家の、一員。男は、敵。モンスターを、殺せ。


こぼれ落ちていく記憶を保つため、僕は必要な情報を頭で反芻しながら刀を振るう。


「……しぶとい奴め……!」

「……。」


── 僕は、ノア。男は、敵。モンスターを、殺せ。


「くそ……!」

「……。」


── 僕は、ノア。敵を、殺せ。


自分が何者なのか。それだけを頼りに、僕はただ目の前の敵を屠っていく。着ていた服は返り血で赤黒く染まり、刀も刃毀れし始めている。そして、


── 憎い……憎い……!

── 敵は……殺す……!


僕の頭に、そんな声が響き始める。よく見れば、視界の端に映る髪が黒く染まり始めている。


「……その髪……まさか!?」


その様子を見た男が、そう声を漏らす。そして、


「……これは生かしておけん!死ね!」


と、僕に飛びかかってくる。


「……。」


── 僕は、ノア。他は、思い出せない。……ただ、1つだけ分かることがある。……全てを、壊せ。


【確認しました。スキル 讎ょソオ遐工螢 が発動します。】


その瞬間、僕の頭の中にそんな声が響く。そして刀身を黒い靄が纏う。


「……。」


僕はその様子を見、直感のままに、回転斬りを放つ。


── その瞬間、僕を除いた全てが消滅する。刀から放たれたもやが斬撃となり、全てを飲み込んでいく。斬撃に触れた男たちは、塵となって消えた。モンスターたちは、見た目に傷はないが、そのまま命だけを喪失した。斬撃は周囲の木々を消し、円形にひらけた土地を作り出す。その中心で、僕は、


「……僕は……ノア……。」


と、小さく呟いた。


── そうだ……!僕は……!


その記憶を見、僕は全てを思い出す。そして、そのまま浮上し始めた感覚に身を委ねるのだった。


【……確認しました。記憶の封印が、全て解除されました。それにより、ステータスの完全解放、及びスキル 共鳴 の解放が行われました。さらに、スキル 状態異常耐性(高) が、 全状態異常無効 に進化しました。】

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