精霊王との契約

「……素質……ですか?」


彼 ── 精霊王の言葉に、僕は首を傾げる。


「うん。僕たち精霊を見、共に戦う素質だよ。いわゆる、精霊使いっていうやつだね。」

「そんな素質、本当に僕にあるんですかね?正直、ここを見つけられたのもスキルのおかげですし……。」


僕がそう言うと、彼は笑って言う。


「実はこの『精霊の花園』は、素質のない者は入れないようになってるんだ。入り口にいる彼女が入れたのは、きっと君と一緒だったからだろうね。」


すると彼は、僕に顔を近づけてくる。


「うん。やっぱり君には、十分な素質があるよ。使い方さえ分かれば、相当なものになる素質が、ね。」


そこで彼は一瞬言葉を切り、僕にこう提案してくる。


「どうだろう、ノア君。僕と契約してみないかい?」

「えええぇぇえ!?精霊王様が契約!?そんなこと、今までありましたっけ!?というか、そんなことできるんですか!?」


僕が何かを口にする前に、ソラが大きな声をあげて驚く。


「僕だって精霊だからね。契約自体は問題なくできるよ。今まで、それに足りる素質の者がいなかっただけでね。」


そう言う彼に、僕は聞く。


「本当に僕なんかでいいんですか?こんな、ちょっと他人よりも強いだけの……。」

「ノア君。」


そんな僕の言葉を遮り、彼は言う。


「僕は、君が今までどんな経験をしてきたのかは全く知らない。もしかすると、僕の想像している以上に酷い環境だったのかもしれない。……でも、そこまで己を卑下することはないと思うな。君には、いろんな才能がある。正しく扱えば、多くの者を救える才能が。……それに、君の心は澄んでいて、心地がいい。だから、僕と契約をして欲しいんだ。……万が一の時に、こっちに戻って来られるように。」


そんな彼の言葉は、すっと僕の中に入ってきた。


「……わかりました。僕なんかで、いいんだったら。」

「うーん、僕的にはその「僕なんか」って言うのをやめて欲しいんだけど……。……まあ、これはおいおい治していけばいいか。契約すれば、時間は十分にあるわけだしね。」

「ところで、契約ってどうやってやるんですか?」

「契約に必要なのは、十分な素質と才能、それにお互いの名前だけだよ。……ああ、誤解のないように言っておくけど、契約とは言ってもどちらかが相手に何かを強制するようなことはできないようになってるよ。あくまで、お互いに協力するためのものだからね。」

「なるほど。ちなみに契約すると、どんなことができるようになるんですか?」

「まず、"精霊視"と"精霊魔法"っていうスキルがもらえるね。精霊が見えるようになったり、契約してる精霊の力を借りて魔法を使えるようになるスキルだね。それと、体のどこかに契約紋が出てくるね。君の場合だと……多分右目に出てくるかな?……まあ、それくらいだね。」

「わかりました。」

「じゃあ、早速契約と行こうか。……ちなみに、僕の名前はアルノーね。」


そう言って彼は、僕の正面に立つ。

「それじゃあ、始めるよ?……とはいっても、君のやるやることはほとんどないけどね。」

そう言うと、彼は何かを口に出し始める。それは僕の知らない言語で、彼が何を言っているのか判断することはできない。


── あれ……?何だか……眠く……。


その時不意に襲ってきた眠気に抗うことができず、僕は意識を失った。


── アルノー 視点 ──


── とりあえず、第一段階は突破かな。


眼の前で意識を失い倒れたノア君を見つつ、僕はそう心の中で呟いた。


あとはこの後、どこまでいけるかだけど……。彼の真実に期待って感じかな。


精霊契約 ── それは、精霊と契約者が、魂で繋がる儀式。契約者の真実、すなわち魂の格に合わせ、契約の内容は変化する。このまま何もできなければ第三階位、立ち上がれれば第二階位、立ち上がって何かを口に出せれば第一階位の契約になる。第一階位の契約ができる者なんてそれこそ1,000年に1人くらいの希少性だ。


── こんなに素質がある子は久しぶりに見た。……正しく知識が継承されていれば、もしかしたらあの子・・・の再来になったかもしれないのに……人間界での知識の失伝が惜しまれるね。


すると、ゆっくりと彼が立ち上がる。そして僕の方をしっかりと見つめ、こう口に出す。


「── 親愛なる隣人よ。」


その言葉に、僕は大きく目を見開く。まさか知っている?内心の動揺を抑えつつ、僕は続きを口にする。


「汝、何者なりや?」

「ノア=シスト。」

「汝、何を欲す?」

「恒久の平和と安寧を。」


間違いない。彼は本物だ。僕は内心興奮しつつ、言葉を紡ぐ。


「汝、契約の文言を。」

「ノア=シストの名に於いて、契約を求む。」

「……アルノー=リストリアの名に於いて、契約を結ばん。」


その瞬間、僕たちを中心に七色の魔力が吹き荒れる。契約が完了した証だ。


「ノア=シスト……。……君は一体……?」


そのまま力を失い再び倒れた彼に、僕は問う。答えがないと、分かっているのに。


「……ソラ。このことは、口外禁止ね。」

「わ、わかりました……。……精霊王様、今のって……。」

「うん……。盟約、だね……。……まさかあの子以外に、これができる者がいるとは……。」


── これは、時代が動く。……君と契約、いや、盟約を結べて、本当に良かった。少なくともこれで、彼を引きとめる楔は増えた。……あの神に人生を狂わされる子は、もう見たくないからね。


穏やかな彼の寝顔を見つつ、僕はそんなことを思っていた。

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