報告と暗躍

「── ということらしくて、今後の情報収集の過程で僕が使い物にならなくなる可能性もあるんだって。」


僕がナビィから聞いた情報も交えてミリアに話すと、彼女は難しそうな顔をしていた。


「うーん……。そうなるとちょっと難しくなるね……。このことはギルマスたちにはまだ?」

「うん。今さっきのことだったからね。ギルドが開いたら報告しようかなって思ってた。」

「でも、その封印のせいで何か不便なことはないんだよね?」

「少なくとも、今のところはね。……でも、個人的には、できれば家族について知りたいな、とは思ってる。」

「それは何で?」

「僕が夢 ── というか、記憶の断片を見た時に、僕の家族と思しき人たちが僕を本当に大事に思ってることが伝わってきたんだ。だから、僕がいなくなったことであの人たちは今も悲しんでいる可能性がある。だったら、あの人たちに会えなくても、僕が無事だってことを伝えるくらいはしたいんだ。」


この大きさの懐中時計に込められるギリギリまで僕とあの少女を守るための魔法を込めるくらいだ。相当僕たちのことを大事に思っていたのだろう。


「そっか。それなら、頑張って探し出さないとね!」

「でも、その前に式典だね。ギルマスが言うには普段通りの格好で問題ないってことだったけど……。」

「あ、そっか。ノア君は知らないのか。あの式典は、あくまで冒険者を尊重したものだからね。人によっては呪いや体質のせいで普段の装備を外せない人もいたから、いつからか冒険者装備がドレスコードになったんだよ。」

「そっか。ミリアはAランクの時の式典に出てるのか。……ダンジョンから帰ってきてから太陽光とか強い光に弱くなっちゃったし、それも含めてあの外套で問題なさそうかな。」

「そうだね。見る人が見ればだいぶ強い装備だってことがわかると思うし、いいと思うよ。」

「……あ、日の出。」


気付けば、日が昇り始めていた。


「本当だ!じゃあ、行こっか。」

「うん!」


ギルドが開くのは、日の出の時間から。僕たちはギルドに向け、歩き出すのだった。


── ⁇? 視点 ──

「── 以上が、報告となります。」

「そう。ご苦労様。」


とある一室にて、報告が行われていた。

報告をするのは、鳶色の髪をを短く切り揃え、重厚な鎧を身につけた青い目の男性だ。そしてその報告を受けるのは、雪のように白い髪を肩のあたりで揃え、その可愛らしい顔にどこか悲しいような感情を浮かべている少女だ。


「でも、私が最年少ねぇ……。……お兄ちゃんの方が、よっぽどその称号に相応しかったと思うけれど……。」

「確かに、そうですね……。……早く何か手がかりが欲しいものです。」

「あの日以来、お母様はずっと自室に篭りきり……。お父様は、表には出さないようにしていたみたいだけど、それでも隠し切れないほどの悲しみを今も抱えている……。……私の魔法でも、心の傷までは癒すことができない。」

「だからこそ、できるだけ多くの情報を集め、一刻も早くあの方を見つけるのが、一番のやるべきこと……というわけですか。」


少女は頷く。


「あの日……お兄ちゃんがいなくなったあの日から、もう6年……。ここまでの期間調べ続けて何の情報もないということは、少なくともこの国の中で生活している可能性は低い……。……可能性があるのは、隣のチェブリス王国か、リトス法国か……。……調査範囲の拡大をお願いできる?」

「了解しました。」


男性は答える。


「でも……珍しいこともあるのね。貴方達がたった1人の情報を集められないなんて。」


少女は、報告の内容が書かれた紙を見ながら言う。


「チェブリス王国所属、ノア……。過去に『新緑の風』というパーティーに所属していて、あの『剛腕』グレンを打ち倒しSランクの認定を受けた……。わかったのはこれだけで、得物や戦闘スタイル、容姿や性格に至るまでほとんどの情報が得られなかった。」

「力及ばず、申し訳ありません。」

「貴方を責めているわけではないのよ。……ただ、この名前が偶然だとは思えない。」

「あの方と同じ名前、ですからね。」


少女は紙から目を離し、窓の奥に見える月を見る。その瞳は、ルビーのように紅く煌めいていた。


「この人とは、いずれ式典で顔を合わせることになる……。その時に、私自ら見極めるわ。……待っててね、お兄ちゃん。絶対に、見つけ出すから。」

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