報告とちょっとした騒動

「ここなら大丈夫か?」


ギルマスについていった僕達は、ギルマスの部屋の中で、改めてこう聞かれる。


「ここなら防音になっていそうですし、問題ないですね。」

「そうか。じゃあ、何があったのか話してくれるか?」


そう言われた僕は、あの日、ダンジョンに潜ってからのことを一つずつ説明していった。


── 数時間後 ──


「──で、こうして五体満足で出てくることができたってわけです。」

「そうか……。ところで、お前が刺されたって言うナイフは今持ってるのか?それがあると、かなり信憑性が上がるんだが……。」

「あ、ありますよ。」


そう言って僕は、虚空からナイフを取り出す。


「ありがとな。それじゃあこれはこっちで預かっとくぜ。……にしても、本当に強くなったんだな、お前。それに、なんだか生き生きとしてる。よかったな。」

「そう……ですか?……でも、確かに前よりは楽しいですね。」

「と、もうこんな時間か。」


見れば、空が赤く染まり始めている。


「今日はこのくらいでいいだろう。続きは明日だな。また来てくれ。」

「分かりました。では、失礼します。」

そうして僕たちはギルドを後にした。


日が暮れ始めた街は、依頼を終えダンジョンから帰還した冒険者たちで賑わっていた。そこかしこから陽気な声が聞こえる。そんな街の中を歩いていると、僕は露店に置かれているとある本に目が留まる。


(あれは……スキルの書スキルブックかな?外装からして、鑑定のスキルか。値段は……中銀貨1枚!?……高すぎだよ……。仕方ない、今回は諦めるか。)


僕がそう考えていると、ミリアがその露店に近寄って行き、


「おじさん、これください!」


と言う。


「あいよ。中銀貨1枚だ。」

「これでお願いします!」

「中銀貨1枚ちょうどだな。ほれ、持ってけ。」


すると彼女は、買ったばかりのそれを僕に渡そうとしてくる。


「ノア君、これあげる!」

「え!?貰えないよそんな高いもの!」

「いーの。プレゼントなんだから、値段は気にしないで!」

「でも……。」

「むー……。いい?私はノア君に危ないところを救ってもらいました。そのお礼なんだから、受け取ってよ!」

「そう言うことなら、まあ……。」


そう押し切られ、結局もらうことになってしまった。

ただ、正直に言うと嬉しく、頬が緩むのを抑えられない。


(これ、多分ノア君無意識だよねー……。こう言う顔見てると、本当女の子みたいだなって感じるよ……。)


帰ったら早速読もうと、僕が心に決めていると、


「お!?そこの嬢ちゃん方、随分と綺麗な顔してんねぇ。」


と言う声がする。そちらを見ると、同じパーティーなのだろうか、5人くらいの男たちがこちらに話しかけてくる。


まあ、嬢ちゃんって言ってるくらいだし、きっと僕には関係ないよね。そう僕が思っていると、


「なんだ、シカトか?そこの白い髪の嬢ちゃんだよ。」


と言う。辺りを見渡してみるも、白い髪の女性なんてどこにもいない。──もしかして、これ、僕の事!?


「ちょっと急いでるので……。ノア君、行くよ。」


とミリアが言う。心の中に湧き出してくる気持ちを抑え、僕もミリアについて歩き出そうとする。しかし、


「いいじゃねぇかよ、少しくらい。」


と、男がミリアの腕を掴もうとする。思わず僕がその手を跳ね除けると、


「なんだぁ、お姉ちゃんを守ろうってか?身長も低いし、そんなことできるわけないだろ。」


と男が笑う。

僕は体の奥で、何かが切れる音が聞こえた気がした。


── ミリア 視点 ──


「なんだぁ、お姉ちゃんを守ろうってか?身長も低いし、そんなことできるわけないだろ。」


その言葉を聞いた瞬間、ノア君がぴたりと静かになる。


……これはまずい。アレがくる。そう直感的に感じた私は、即座にこの場を離れようとする。しかし、


「嬢ちゃんみたいな細身の女の子は、俺たちみたいな冒険者に守られてんだよ。だからこのくらいは当たり前だろ?」


───あー、これはもうダメかな。私は目の前の冒険者たちの対し心の中で手を合わせつつ、そう思う。ここまできれいに地雷を踏みぬき続けちゃったら、さすがにノア君も怒るよ……。こうなったノア君は止められないからなぁ……。


するとノア君がぽつりと、


「ダサッ。」


とつぶやく。

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