その頃の彼らは Side 新緑の風

今日の1番の目的だった『無能』の処理を終えた俺たち新緑の風は、ダンジョンから帰還しようとしていた。


「にしてもあいつ、最期までライアス様のこと疑ってませんでしたね。」

「まあ、そのおかげで楽に処理できたけどな。」

「ところで……邪魔者もいなくなったことですし……」

「今夜は私たちと……」

「ああ。今夜は寝かせないぜ?」


そんなことを話しながら出口へ向かっていると、正面から3体のゴブリンが姿を現す。


「ふん。俺の前に現れたら死ぬと言うのに、馬鹿な奴らだ。」


そう言い、俺は詠唱を始める。しかしいつもとは違い、奴らは詠唱が終わる前に攻撃を仕掛けてくる。奴らの攻撃を避けつつ何とか詠唱を終わらせた俺は、魔術を放ち奴等を魔石に変える。


その後も今までのように一方的にモンスターを殴ることはできず、ダンジョンから脱出する頃にはかなり疲れ果ててしまった。

そのまま冒険者ギルドへ向かった俺たちは、ノアがダンジョンバットとの戦闘中にあの大穴に落ちた、と言う虚偽の報告をし、宿へと向かった。ギルドマスターのおっさんからは疑われたが、3人が同じ証言をしたことでひとまずは誤魔化せたようだ。


翌日、俺たちはギルドから紹介を受けた斥候を新しくパーティーに加え、再び王都ダンジョンを訪れた。あの『無能』がいなくなった分、今回はかなり稼げると、そう思っていた。


──しかし、現実はそうはいかなかった。探知の精度は悪いし、トラップの解除にも時間がかかる。MPが足りなくなって斥候から魔力を貰おうとした時なんかは、


「何考えてるんですか!普通、ゴブリン程度は初級のファイヤーボールで十分なんですよ!探知にもMPは使うので、あなたに譲渡する余裕はありません!」


とキレながら言われ、最終的な収獲はいつもより下、ギリギリ黒字といったところだった。


「ギルドからの紹介ということで受けさせてもらいましたが、こんなパーティーになんて所属してられません!この話は無かったことにさせていただきます!もちろん、ギルドの方に報告もさせてもらいますからね!」


と、斥候は肩をいからせて去っていった。


そんなことが3回はあっただろうか。やがてギルドからの紹介は無くなり、こちらから誘いをかけても断られるようになった。だからやむを得ず3人でダンジョンに潜っていたんだが……。


「ちょっと!何してくれてるの!服が汚れちゃったじゃない!」

「あ?そんなの避けなかったお前が悪いだろ!そんなことまでいちいち気を配ってられるか!」

「あの『無能』でもできたことができないって言うの!信じらんない!」


と、かなり雰囲気が悪い。

結局この日は、無駄に物資を消費しただけで終わった。


「くそっ!何だってんだ!あの『無能』の代わりすらできないってのか!」


ギルドに併設された酒場で安物のエールを煽りながら、俺はそう愚痴っていた。


「だいたい、ダンジョンで服が汚れるのなんて当たり前じゃないか!いちいち気にしてられるか!」

「おうおう、荒れてんねぇ。一体、何があったってんだい。」


そんな俺に、いつもこの酒場に屯してる奴らがそう声をかけてくる。


「俺のパーティーの奴らが全く使えないんだよ!武器は重くて持てないとか言うし、ちょっと傷を負ったくらいですぐにポーションを使いやがる。おかげで今回の挑戦は失敗、大赤字だ!」

「……もしかして、お前らが“新緑の風”か?」

「そうだが、それがどうかしたか?」

「いや、調子が狂い始めたのは、もしかしたらあのノアがいなくなってからじゃないかと思ってな。」

「はっ、『無能』がいなくなったことが、何の影響を与えるってんだ?」

「お前らまだあいつを『無能』だと思ってんのか?こりゃ傑作だ!あいつは天賦こそ持ってないが、技術だけでいったらBランクのやつにも勝るだろう。そんな奴に頼ってたお前らが、いまだにあいつのことを『無能』と……くくく……。いまだにあいつを『無能』だと思ってるのは、お前らくらいだぜ?」


そういって、彼らは去っていく。

ノアがBランク相当?ありえねぇ。あいつは何もしてなかったじゃねぇか。くそっ、またイライラしてきた。そうして俺は、エールをもう一杯注文した。

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