スターリットの控室は、年末の喧騒の中で静かな緊張に包まれていた。

「彩花…大トリ…ほんとに…私たち…？」

美咲が衣装の裾を握りしめ、震える声で囁く。

壁のモニターには「年越し音楽フェスティバル」のロゴが映り、観客の歓声が響く。

「うん、美咲。ファンが待ってる。私たちの歌…届けよう。」

彩花は美咲の手を握り、微笑むが、彼女の目はプレッシャーで揺れる。

「でも…この間のライブ…まだ…」

玲奈が鏡の前で髪を整え、目を伏せる。

「玲奈、わかるよ。でも…今日は特別な夜だよ。」

結衣が玲奈の肩に手を置き、優しく言う。

「…マスコミ、絶対撮ってる。覚悟しろ。」

真央が腕を組み、ドアの向こうを睨む。

日本音楽大賞の新人賞受賞以来、スターリットは注目を浴び続けていた。

CM、雑誌、テレビ出演。

だが、写真集の傷跡と「お漏らしアイドル」のレッテルが、心を重くする。

「彩花…Xで…『スターリット、大トリ！』って…」

美咲がスマホを手に、小さく微笑む。

「うん、ファンの声…ほんとに力になる。」

彩花が頷くが、声に疲れが滲む。

「でも…『また何か…』みたいな投稿…ある…」

玲奈が画面をスクロールし、顔を曇らせる。

「最低だよね。応援だけ見て、玲奈。」

結衣が玲奈のスマホを覗き、唇を噛む。

「…無視しろ。歌で証明するだけだ。」

真央が静かに言い、衣装を整える。

控室にマネージャーの田中が駆け込んできた。

「みんな！ 準備OK？ あと10分で出番だ！」

彼の声は明るいが、目には心配が滲む。

「田中さん…あの…写真集のことは…？」

美咲が小さな声で尋ねる。

「うん、差し止めは続いてる。でも…販売済みのは…」

田中が言葉を濁し、書類を握る。

「…まだ、コンビニに並んでるよね。」

結衣が静かに言い、視線を落とす。

「結衣…でも…今は歌に集中しよう。」

彩花が結衣の手を握り、微笑む。

「…負けないよ。絶対。」

真央が低く呟き、マイクを握る。

会場は熱気に包まれていた。

「次は…スターリット！ 年末の大トリ！」

司会の声に、観客が一斉に立ち上がる。

「彩花ちゃん！ 美咲ちゃん！ 最高！」

ペンライトの海が、5人を迎える。

ステージに上がった瞬間、照明が5人を照らし出す。

白、ピンク、青、緑、黒の衣装が輝き、会場が沸く。

「よし…行くよ！ みんな、ありがとう！」

彩花がマイクで叫び、観客に手を振る。

「彩花…！ ファンが…こんなに…！」

美咲が目を潤ませ、笑顔で応える。

新曲「光の彼方」が流れ始める。

「どんな闇も…超えてゆく…！」

5人の声が重なり、会場を包む。

ダンスは息ピッタリ、笑顔は輝く。

「玲奈ちゃん！ 結衣ちゃん！ 頑張れ！」

ファンの声が、5人を高揚させる。

「うん…結衣…！ 最高の夜…！」

玲奈が結衣に微笑み、ステップを踏む。

「…全部、届けるよ。」

真央が静かに言い、歌に力を込める。

だが、曲のクライマックスで異変が起きた。

突然、ステージのスピーカーから鋭いノイズ――キーン！

金属を叩くような音が会場を切り裂く。

「！？」

5人の動きが一瞬止まる。

（また…！ あの夜…！）

彩花の脳裏に、テロ事件の銃声が蘇る。

観客がざわめき、スタッフが慌てる。

「え、なに！？ 大丈夫！？」

「スターリット、続けて！」

「彩花…！ やだ…！」

美咲が悲鳴を上げ、マイクを握りしめる。

「美咲！ しっかり…！」

結衣が美咲の腕を掴むが、彼女の目も揺れる。

「…っ…！ また…！？」

玲奈が震える声で囁き、彩花にしがみつく。

「…くそ…！ なんで…！」

真央が歯を食いしばり、スピーカーを睨む。

彩花の心臓が締め付けられた。

（全国放送…！ ファンの前で…！）

照明が目を焼き、カメラのレンズが光る。

写真集の表紙、ライブの水たまりが頭をよぎる。

彼女の体が硬直し、冷や汗が全身を濡らす。

突然、下腹部に熱い波が押し寄せる。

（や…！ ダメ…！）

彩花は必死に力を入れるが、恐怖が理性を飲み込む。

じゅっと音を立て、彩花の白い衣装に染みが広がる。

水たまりがステージに光り、照明が反射する。

「う…っ…！」

彩花は肩を震わせ、マイクを握り直す。

（こんな…！ でも…！）

涙が滲むが、歌を続ける。

玲奈も動けなかった。

（カメラ…！ みんな…見て…！）

熱が溢れ、じわりとピンクの衣装に染みが滲む。

「や…！ ごめん…！」

玲奈は目を閉じ、声を絞り出す。

美咲はマイクを握ったままだった。

（怖い…！ また…！）

じゅわっと音を立て、青い衣装に濡れ跡が広がる。

「う…！ やだ…！」

美咲は泣き声を漏らし、歌い続ける。

結衣の体も震えた。

（耐えなきゃ…！）

じゅっと緑の衣装に染みが広がる。

「く…っ…！」

結衣は唇を噛み、ステップを刻む。

真央は拳を握った。

（負けるな…！）

じわりと黒い衣装に染みが滲む。

「…っ…！」

真央は歯を食いしばり、歌に力を込める。

5人の衣装は濡れ、ステージに水たまりが広がった。

だが、歌は止まらない。

「光の…彼方へ…！」

声が重なり、会場を震わせる。

濡れた衣装が照明に輝き、5人の決意が響く。

曲が終わり、静寂が訪れる。

一瞬の間を破り、観客が立ち上がる。

「スターリット！ スターリット！」

拍手と歓声が、会場を埋め尽くす。

「彩花ちゃん…！ すごい…！」

「美咲ちゃん…！ 泣いた…！」

ファンの声が、5人の胸を温める。

「ありがとう…みんな…！」

彩花がマイクで叫び、涙をこぼす。

「彩花…！ 私…歌えた…！」

美咲が彩花にしがみつき、嗚咽を漏らす。

「うん…美咲…！ 最高だった…！」

結衣が美咲を抱きしめ、笑顔を見せる。

「玲奈…よくやった…！」

真央が玲奈の肩を叩き、目を潤ませる。

「真央…ありがとう…！」

玲奈が真央の手を握り、頷く。

だが、喜びの裏で、カメラが全てを捉えていた。

放送は全国に流れ、モニターに濡れた衣装が映る。

「え…！？ スターリット…！？」

「うそ…！ でも…歌、すごかった…！」

観客の声に、驚きと感動が混じる。

「彩花ちゃん…！ 頑張った…！」

一部のファンがスマホを掲げ、フラッシュが光る。

楽屋に戻った5人は、ソファに崩れ落ちた。

「彩花…また…全国に…」

美咲が顔を埋め、泣き声を漏らす。

「美咲…でも…歌えたよ。私たち…」

彩花が美咲の手を握り、涙を拭う。

「彩花…X、すごいよ…『感動した』って…」

玲奈がスマホを手に、震える声で言う。

「でも…『お漏らしアイドル』も…トレンド…」

結衣が画面を睨み、唇を噛む。

「…関係ない。歌で届けたよ。」

真央が低く呟き、壁を睨む。

翌日、週刊誌「フラッシュ」が記事を掲載。

「スターリット、大トリで衝撃！ お漏らしも歌で感動！」

濡れた白、ピンク、青、緑、黒の衣装が鮮明に。

「テロの傷跡を乗り越えた？ ファンが涙した夜！」

見出しは扇情的だが、感動も強調。

ワイドショーも取り上げる。

「スターリット、年越しで歴史的ステージ！ 涙と歌の夜！」

画面に5人の歌う姿、濡れた衣装が映る。

「彼女たちの勇気…本当にすごい。」

コメンテーターの言葉に、温かさが滲む。

Xには、ファンの声が溢れていた。

「スターリット、大トリ！ 彩花ちゃん、美咲ちゃん、感動した！」

「濡れたまま歌った…！ 泣いたよ…！」

「玲奈ちゃん、結衣ちゃん、真央ちゃん、最高の夜をありがとう！」

だが、一部の投稿が刺さる。

「お漏らしアイドル、トレンド1位！ でも…歌、すごかった。」

「びっくりしたけど…スターリット、応援してる！」

5人の胸に、複雑な感情が広がる。

事務所で、田中が書類を手に笑顔で入ってきた。

「みんな！ 視聴率、過去最高！ ファンクラブも急増だ！」

彼の声に、5人が顔を上げる。

「田中さん…ほんと…？」

美咲が目を潤ませ、彩花の手を握る。

「うん、みんなの歌…届いたよ。」

田中が頷き、スマホを見せる。

「彩花…でも…写真集…まだ…」

玲奈が震える声で囁き、目を伏せる。

「玲奈…わかる。でも…ファンが…」

彩花が玲奈の手を握り、微笑む。

「次も歌うよ。もっと強く。」

結衣が拳を握り、笑顔を見せる。

「…負けない。絶対に。」

真央が静かに言い、窓の外を見つめる。

時計は新年を告げていた。

羞恥の傷は深いが、歌は心を繋ぐ。

スターリットは、新たな未来へ歩み出す。