第13話 晒された光

ライブの余韻は、5人の胸に温かく残っていた。


「彩花…私たち…本当にやり遂げた…!」


美咲が楽屋のソファで目を潤ませ、彩花の手を握る。


窓の外では夜の街が輝き、ファンのペンライトの光が記憶に蘇る。


「うん、美咲。あの声援…忘れられないよ。」


彩花は微笑むが、疲れと安堵が彼女の目を曇らせる。


「最後のトラブル…怖かったけど…ファンが…」


玲奈が膝を抱え、楽屋の鏡を見つめる。


「玲奈、最高の笑顔だったよ。みんな、支えてくれた。」


結衣が玲奈の肩を叩き、元気づける。


「…完全じゃなかった。でも、戻れた。」


真央が静かに呟き、スマホを手に取る。


復帰ライブ「スターリット・リターン」は、音響トラブルとお漏らしの屈辱を乗り越え、成功に終わった。


ファンの声援が5人を支え、ステージの水たまりさえ過去にした。


「彩花…X、すごいことになってる…!」


結衣がスマホを掲げ、笑顔を見せる。


「『スターリット、最高だった!』…こんなに…!」


美咲が画面を覗き、涙をこぼす。


「『彩花ちゃん、泣かないで!』だって…優しい…」


玲奈が微笑み、スクロールする。


「…ファンの声、届いてるよ。」


真央が短く言い、楽屋の静寂に頷く。


だが、翌朝、喜びは暗転した。


楽屋のテレビが、朝のワイドショーを映し出す。


「スターリット復帰ライブ、感動の裏で衝撃の瞬間!」


キャスターの声が響き、画面に5人の写真が映る。


白いドレスの彩花、ピンクの玲奈、青の美咲、緑の結衣、黒の真央。


濡れた衣装が照明に光り、床の水たまりが鮮明だ。


「!?」


彩花がリモコンを握りしめ、凍りつく。


「うそ…! あれ…撮られて…!?」


美咲が悲鳴を上げ、彩花にしがみつく。


画面が切り替わり、週刊誌「フラッシュ」の記事が紹介される。


「スターリット、ステージ上で全員失態! トラウマの涙と濡れた衣装」


見出しは扇情的で、写真が大きく掲載されている。


彩花の白いドレスに滲む染み、玲奈のピンクのスカートに滴る水滴、美咲の青いドレスに広がる濡れ跡、結衣の緑の衣装に光る水たまり、真央の黒いドレスに滲む影。


「関係者によると、音響トラブルがテロ事件のトラウマを呼び起こし…」


記事は詳細に事件を振り返り、テロの生中継、病院のおねしょを掘り返す。


「彩花…どうしよう…また…全国に…!」


玲奈が膝を抱え、涙をこぼす。


「玲奈…ごめん…私が…もっと…」


彩花が唇を噛み、テレビを睨む。


ワイドショーのコメンテーターが続ける。


「感動のライブだったけど、この場面は…ファンも驚いたでしょうね。」


「でも、彼女たちの頑張りは本物。トラウマと戦ったんです。」


言葉は同情を装うが、写真が繰り返し映される。


「やめて…もう…映さないで…!」


美咲が叫び、ソファに顔を埋める。


「美咲…! 大丈夫だよ…!」


結衣が美咲を抱きしめるが、彼女の目も潤む。


「…また晒された。全部…無駄だった…?」


真央が低く呟き、スマホを握りしめる。


楽屋の空気は重かった。


「彩花…私…もうステージに立てない…」


玲奈が震える声で囁き、鏡に背を向ける。


(あの夜…カメラ…ファンの目…全部、蘇る…)


彼女の脳裏に、テロの銃声とマスコミのライトが重なる。


「玲奈、そんなこと言わないで。私たち…一緒だよ。」


彩花が玲奈の手を握り、目を合わせる。


「う…彩花…でも…恥ずかしくて…死にたい…」


玲奈は涙をこぼすが、彩花の手に力を込める。


「美咲、顔を上げて。ファンは…きっと…」


結衣が美咲の肩を撫で、声を絞り出す。


「結衣…でも…こんな写真…見られたなんて…」


美咲は嗚咽を漏らし、結衣にしがみつく。


真央がスマホを手に、Xを開いた。


「#スターリット、トレンドに入ってる…」


彼女の声は低いが、仲間が顔を上げる。


「『彩花ちゃん、最高だった!』…『美咲ちゃんの笑顔、忘れない』…」


真央がスクロールし、ファンの投稿を読み上げる。


「『あの写真、ひどい! スターリットを守れ!』…こんなのも…」


結衣が画面を覗き、微笑む。


「『玲奈ちゃん、結衣ちゃん、真央ちゃん、負けないで!』…すごい…」


美咲が涙を拭い、スマホを見つめる。


「…一部、変な投稿もあるけど…応援が多い。」


真央が静かに言い、彩花に目をやる。


彩花は深呼吸し、仲間を見渡した。


「みんな…ごめん。私が…もっと強く…」


彼女の声は震えるが、拳を握る。


「彩花のせいじゃない。あの夜が…マスコミが…」


玲奈が彩花の手を握り、涙をこぼす。


「でも…ファンの声、聞いて。待っててくれるよ。」


結衣が微笑み、スマホを掲げる。


「うん…結衣…ありがとう…」


美咲が頷き、鼻をすする。


「…次がある。私たち、負けない。」


真央が静かに言い、楽屋の鏡を見つめる。


テレビが別の話題に移るが、傷跡は残る。


「彩花…これから…どうしよう…?」


美咲が震える声で尋ね、彩花の手を握る。


「一緒に考えるよ。美咲、玲奈、結衣、真央…私たちならできる。」


彩花は微笑み、仲間を見渡す。


「うん…彩花…また…歌いたい…」


玲奈が小さく頷き、微笑む。


「ファンの笑顔…もっと見たいよね。」


結衣が目を輝かせ、仲間を見渡す。


「…そのために、前に進む。」


真央が拳を握り、静かに言う。


楽屋の窓から朝日が差し込む。


羞恥の波は引かないが、絆はそれよりも強い。


スターリットの物語は、新たな一歩を踏み出す。















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