第3話 嘲笑の影

スタジオの薄暗い光が、5人の顔を青白く照らしていた。


「彩花…映像、なんのために撮ったんだろう…」


玲奈が膝を抱え、震える声で囁く。


「わからない。でも…警察が何かしてるはず。」


彩花は答えるが、彼女の目も不安に揺れる。


美咲はまだ震えていて、濡れた足元を隠すように体を縮こませる。


「美咲、寒くない? 私の上着、使う?」


結衣がそっと尋ねる。


「う…大丈夫…ありがとう…」


美咲は小さく頷くが、涙が頬を伝う。


「みんな、冷静でいよう。隙を探すんだ。」


真央が低く言い、テロリストの動きを観察する。


男たちはスタジオの隅で何かを話し合っていた。


リーダー格の男が携帯を手に、短く指示を出す。


「映像は送った。次の要求を準備しろ。」


彼の声は冷たく、5人には聞こえない距離だ。


「要求…何だろう。身代金?」


結衣が小声で推測する。


「だったら、私たち…価値あるかな…」


玲奈が自嘲気味に笑うが、すぐに表情が曇る。


「バカ言わないで。玲奈はセンターだよ。絶対助ける。」


彩花が玲奈の手を握り、力強く言う。


その言葉に、玲奈の目がわずかに潤む。


スタジオの外で、サイレンの音が一瞬大きくなる。


「警察だ! 絶対来てる!」


美咲が目を輝かせるが、すぐに男たちの視線に縮こまる。


「騒ぐな。」


銃を持った男が5人に近づき、銃口を振り上げる。


「ご、ごめんなさい…!」


美咲が頭を下げ、彩花の腕にしがみつく。


「静かにしてれば、何もされない。わかったな?」


男が冷たく言い、監視に戻る。


「彩花…私たち、どうなるの…?」


玲奈の声は震え、指がスカートの裾を握りしめる。


「わからない。でも…諦めないよ。絶対に。」


彩花は深呼吸し、仲間を見渡す。


その時、リーダー格がスタジオの中央に進み出た。


「お前ら、いいニュースだ。要求が通れば、朝には解放される。」


彼の口元に薄い笑みが浮かぶ。


「要求って…何ですか?」


彩花が勇気を振り絞って尋ねる。


「知る必要はない。従えばいい。」


男は短く答え、カメラを手に再び5人を睨む。


「もう一度、映像を撮る。一人ずつ、メッセージを言え。」


彼の言葉に、5人の間に緊張が走る。


「メッセージ? どんな…?」


結衣が眉をひそめ、男の意図を探る。


「家族やファンに、生きてるって伝えるんだ。簡単だろ?」


男が笑うが、その目は冷たい。


「彩花…これ、なんか…変だよね?」


玲奈が彩花の耳元で囁く。


「うん…でも、今は言う通りにするしかない。」


彩花は頷き、メンバーに目配せする。


「美咲、できる? 大丈夫だよ。」


結衣が美咲の肩に手を置く。


「う…うん…頑張る…」


美咲は涙を拭い、震える声で答える。


「真央、なんか…アイデアない?」


玲奈が真央に目をやる。


「…まだ。けど、カメラの動き、覚えておく。」


真央は静かに答え、男たちの位置を確認する。


リーダー格がカメラを構え、最初の指示を出す。


「お前からだ。センターの…玲奈、だろ?」


男が玲奈を指し、カメラを向ける。


「え…私!? う、うそ…急に…」


玲奈の顔が真っ青になり、足が震える。


「早くしろ。言え、名前とメッセージ。」


男が一歩近づき、銃を持った仲間が玲奈を睨む。


「玲奈、落ち着いて。私たちが見てるよ。」


彩花が玲奈の手を握り、励ます。


「う…うん…わかった…」


玲奈は深呼吸し、カメラに向き直る。


彼女の心臓は破裂しそうだった。


(なんで…なんで私から…怖い…)


カメラのレンズが、まるで彼女を飲み込むように光る。


冷たい汗が背中を流れ、膝がガクガクと揺れる。


「名前は…高橋玲奈…で…」


彼女の声は震え、言葉が途切れる。


「はっきり言え! やり直しだ!」


リーダー格が怒鳴り、カメラを近づける。


その瞬間、銃を持った男が銃を天井に撃った。


バン!


銃声がスタジオに響き、硝煙の匂いが広がる。


「きゃあ!」


玲奈が悲鳴を上げ、床にしゃがみ込む。


「玲奈!」


彩花が叫び、玲奈の肩を抱く。


「ご、ごめん…私…私…」


玲奈の目は涙でいっぱいになり、体が小刻みに震える。


(ダメ…頭、真っ白…怖い…怖いよ…)


彼女の胃が締め付けられ、冷や汗が額を濡らす。


突然、下腹部に熱い波が押し寄せる。


(あ…やだ…我慢…!)


玲奈は必死に力を入れるが、恐怖が全てを支配する。


じわりと温かい感覚が内ももを伝い、抑えきれず溢れ出す。


カーペットに水音が響き、彼女の足元に水たまりが広がる。


「う…あ…やだ…!」


玲奈は両手で顔を覆い、嗚咽を漏らす。


「ハハッ! なんだよ、これ!」


銃を持った男が笑い声を上げ、玲奈を指差す。


「センター様がこのザマかよ! 情けねえな!」


彼の声に、リーダー格も口元を歪める。


「子供じゃねえんだから、しっかりしろよ。」


男がカメラを振り、嘲笑を続ける。


「やめて! お願い、やめてください!」


彩花が立ち上がり、男たちを睨む。


「玲奈は…玲奈は何も悪くない!」


彼女の声は震えていたが、仲間を守る決意に満ちていた。


「彩花…ごめん…私、ダメで…」


玲奈が泣きながら囁き、彩花の手を握る。


「黙れ。次、失敗したらどうなるか、わかってるな?」


リーダー格が彩花を睨み、カメラを再び構える。


「玲奈、大丈夫だよ。気にしないで。」


結衣が玲奈の背中をさすり、優しく言う。


「う…うん…ありがとう…」


玲奈は涙を拭い、仲間たちの温もりに救われる。


「美咲も…こうだったから…平気だよね?」


玲奈が美咲に目をやり、小さく笑う。


「う…うん…玲奈ちゃん、頑張って…」


美咲は頷き、恥ずかしそうに微笑む。


「真央、玲奈を…頼むね。」


彩花が真央に囁く。


「…わかった。」


真央は静かに答え、玲奈の肩に手を置く。


玲奈は深呼吸し、もう一度カメラに向き直る。


「高橋玲奈…です。えっと…家族、ファン、みんな…私、生きてるよ…」


彼女の声は震えていたが、最後まで言い切る。


「よし、次。」


男がカメラを結衣に向け、撮影を続ける。


「佐藤結衣。みんな、心配しないで。待ってて。」


結衣は冷静に答え、男たちの動きを観察する。


「星野彩花。…絶対、帰るから。」


彩花は力強く言い、仲間を見渡す。


「林真央。無事だ。信じてて。」


真央は短く答え、視線を男たちに固定する。


「美咲…田中美咲…うぅ…みんな、ごめんね…生きてるよ…」


美咲は泣きながら答え、彩花の手を握る。


撮影が終わり、男たちはバリケードの確認に戻った。


「映像はこれで十分だ。後は待つだけ。」


リーダー格が携帯を手に、仲間に指示を出す。


5人は肩を寄せ合い、互いの震えを感じる。


「玲奈、ごめん…私がもっと早く…」


彩花が玲奈の手を握り、唇を噛む。


「ううん、彩花のせいじゃないよ…私、弱くて…」


玲奈は首を振るが、涙が止まらない。


「弱くないよ。玲奈、ちゃんとメッセージ言えたじゃん。」


結衣が微笑み、玲奈の髪を撫でる。


「ほんと…情けないけど…みんな、ありがとう…」


玲奈は小さく笑い、仲間たちの温もりに救われる。


スタジオの外では、サイレンの音が断続的に聞こえる。


「警察、動いてる…絶対だよ。」


真央が低く言い、5人に希望を与える。


「でも…あの映像、どうなるんだろう…」


美咲が不安げに囁く。


「わからない。けど…私たち、生きて帰るんだ。」


彩花は目を閉じ、決意を新たにする。


「そうだよ。スターリット、こんなとこで終われない!」


玲奈が涙を拭い、力強く言う。


その言葉に、5人の間に小さな笑顔が広がる。


だが、男たちの動きは止まらない。


「外がうるさいな。予定を早めるか?」


リーダー格が仲間に言い、銃を手に5人を見る。


「次の指示を待て。お前ら、いい子にしてろよ。」


彼の笑みに、彩花の背筋が凍る。


(何…何を企んでるの…?)


彼女は玲奈と美咲の手を強く握り、仲間を守る覚悟を固める。


スタジオの時計は夜8時半を指していた。


恐怖の夜は、まだ深まる一方だった。
















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