花の槍
紫 小鳥
花の槍(魔法・ファンタジー)
彼女の魔法は『花の槍』と言われた。
曰く、美しい。
曰く、可憐である。
曰く、強い。
「天才だ」などと月並みに表現される彼女は、しかし決して天才ではなかった。
***
魔法『花の槍』は失敗した魔法だった。
俗称は『フレイムボール』である。ありふれた魔法だ。槍という名前に反して『フレイムランス』ですらなかった。
彼女は体内含有魔力が人より少し多く、魔力操作は人よりも苦手だった。
自身から離れるほどに、魔力の形態を留めることはことができなくなった。
故に、解き放った魔法が爆散した。
***
火に親和性が強かった幼き彼女は、魔法基礎の段階で絶望していた。
純粋な魔力を球型に排出するのさえ困難であり、それを棒状に変化させることは絶望的だった。
魔力に属性を宿らせるのは難なく出来た。親和性の高い火、それと補助に弱き風属性が扱えた。
***
出身地にて村付きの教導師に教わった同世代の子は幾人かいたが、その中でもいっとう下手であった。
「起呪、保持! ……射出!」
横並びになった弟子たちは教導師の号令に合わせて的当てをするわけだが、この三挙動にさえ苦労していた。
生活レベルなら起呪、保持、射出の三挙動。戦闘師ならばこれを常に移動しながら
魔力を持っていたから魔法を習ってみようかな、なんて軽い気持ちで教導を受けたものの、幼かった彼女は自分の決断を日々後悔していた。
お母さんなんで私に魔法やれって言ったの? なんて母親を恨むこともあった。やりたいと言い出したのは彼女であるのに。
彼女はしかめっ面で、魔法の練習なんて嫌だと表現しながらも一応毎回教導に臨んでいた。
一方の教導師は、なんとかこの子も魔法の楽しさを伝えていと思っていた。彼は真面目な性格であった。
まず彼は、彼女と、その仲のいい友達一人だけ教導時間をずらした。彼が勝手にやったことなので給金は出なかった。
そして彼女に、こうアドバイスした。
「投げてしまいなさい」
彼女は魔力を手でつかみ、放り投げることにした。風の魔力も手伝って、これが結構な飛距離になった。彼女の魔法行使スタイルが決まった。
起呪、把持、射出である。
成功に気をよくした彼女は、友達と一緒にキャッチボールを始めた。
最初は魔法がうまく使えないことをからかっていた他の子たちも、これは今までとは違うぞ、とからかうのを辞めた。
教導の時間はまた合同になり、教導師は胸を撫で下ろした。子供たちの諍いに発展しないまま事を治めることができたからだ。
「……射出!」
と声をかける時に一人だけ腕を振りかぶっている子がいた。周りと比べれば飛距離が少ないものの、立派に炸裂していた。
投擲動作は時間がたつにつれ誰も気にしなくなった。それどころか、真似する子どもも出てきた。
揶揄いではなく純粋にカッコいいと思って真似をしているようだったので、教導師は止めなかった。彼女も「カッコいいからマネしたのね!」と納得していた。
しかし、親たちにあらぬ誤解を生んで言い争いになった。決して馬鹿にしているわけではないのに。
子どもたち本人を無視してヒートアップする保護者を必死に説得しながら、やっぱり先生も楽じゃないなと独り言ちた。
***
彼女たちの世代も成長し、球の授業が棒になったころ。
ひとつレベルが上がった授業を受ける子は減り、彼女と仲の良かった友達も魔法の教導を受けるのはやめたようだ。
そもそも生活レベルの魔法で十分なのだ。日常的に火や水を射出する機会はそう無い。戦闘師か、競技者くらいのものだ。
こんなに上達したんだもの、魔法競技の選手にでもなろうかしら? などと考えて母親を説得した彼女であったが、やはり魔力を棒状にすることはできなかった。
しかし魔法基礎で躓いていた幼き彼女は、諦めない心を学んでいた。
「先生、なにかいい方法はないのですか? 私、投げられますし」
そもそも投げるのは教本に書いてないんだよ、と。教導師は頭を悩ませた。
「いっぱい投げなさい。一つではなく、いっぱい」
悩んだ末に、たくさん練習しなさいという話しかできなかった。
それが何故か彼女を成長させた。
小さな球をたくさん投げたのある。最初は二個、出来たら三個。もっといっぱい。
一見棒状の火に見えるが、球の集合であった。細かい球を複数、同時に投げる。残像が棒に見える。
球は小さくしてたくさん手に持てるようにした。小さい球の方が作りやすかった。
たくさんの球が炸裂して広がった。その姿はまるで花火だった。
教導師はやっぱり頭を悩ませた。レギュレーション違反だから競技者にはなれないとよ。彼女の夢を壊すようなことをいつ伝えるべきか、とても悩んで卒業の日まで伝えられなかった。
***
卒業してからというもの、普通の村人である彼女に魔法を使う機会は訪れなかった。
転機となったのは、教導師の退職であった。
そもそも十二年で配置転換される決まりで、次はまた近くの別の村に配属される予定であったが、彼は少し旅をしようと思った。
村には新しい師が来た。新しい教導師を見てから彼女は師の旅立ちを知った。
彼女は、村人に聞いた噂で旅に出たことを知った。魔法使いにはそういう道もあるのね、と思った彼女は、魔法を使いたいがために旅に出ることにした。
村に立ち寄った旅人を捕まえてついていこうと画策した。両親を説得してから初めて話した旅人はあまりよくなさそうな人だった。旅立ちは延期になった。
両親が心から「娘をよろしく」などと言えるような旅人は現れなかったが、数年が経ち、娘も半ば諦めていた。
旅人が来るたびに話しかけに行っていた彼女も、もう旅に出るのもやめようかしら、と思っていた。そんな折に、なんと旅人から話を持ち掛けられた。春である。
両親は旅人を幾月も村に留め置き観察した。いずれボロを出すに違いないと思われたが、それでも感じのいい好青年であったため、泣く泣く娘を送り出した。
***
そうして旅立った彼女は、旅路を阻む障害に『フレイムランス』と言いながら連なるフレイムボールを投げた。
それはもう投げに投げた。狩りに、討伐に、開拓にと便利に使われた。
旅人であり戦士である伴侶は、飛び散る火を間近で見てさらに惚れ直した。
「君の魔法は咲き誇る花のようだ」
なんて言葉で求婚をした。
この夫婦が未開の地に向かう探索者として有名になったころ、求婚の決め台詞が広まって魔法名が決まった。
いわく『花の槍』と。
花の槍 紫 小鳥 @M_Shigure
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