ジトコ大将、中国人民解放軍に憂慮す2(2022年3月のnote記事よりの転載)
※ジトコ大将、中国人民解放軍に憂慮す(2)よりの転載
https://note.com/beaty/n/ne04924c8deed
※画像はnote記事を参照のこと。
ゲンナジー・ジトコ大将(ロシア連邦軍、東部軍管区司令官)
中国人民解放軍に憂慮す(2)
ハバロフスクは、アムール川の右岸中流域に位置し、ウスリー川との合流点のすぐ下流にある。人口は62万人。鹿児島市、船橋市並の人口だ。
首都モスクワからシベリア鉄道経由で8,523km。東京から8,500kmというと、ニュージーランドのオークランド、オーストラリアのタスマニア島、ギリシャのアテネ、オーストリアのウィーンとの距離。日本人の感覚で言うと同じ国とは思えない距離だ。それだけ、モスクワの目の届かない遠隔地にある。
ハバロフスクは極東連邦管区の本部が設置されていたが、2018年12月にプーチン大統領が極東連邦管区の本部をウラジオストクに移転した。
ロシア連邦軍、東部軍管区、司令官、ゲンナジー・ジトコ大将も普段はウラジオストクで執務しているが、彼はハバロフスクにダーチャ(別荘)を周遊していた。彼のダーチャの存在は連邦軍もモスクワも知らない。登記は彼の愛妾のニャーナになっている。
ニャーナは、白系ロシア人の父とロシア系コレイツィ人(ロシア語の高麗、コリアのロシア語読み)の母を持つ生まれだ。コレイツィ人は第二次世界大戦中に中央アジアに集団追放された。ニャーナの母はソ連邦のウズベキスタン共和国でモスクワから派遣されていた陸軍少佐と出会い結婚した。
ニャーナの容貌は、父親の血が勝っているのか、ロシア美人なのだが、体型は母親に似て痩せ型で手足が長くひょろりとしている。顔立ちにアジア系のエキゾチックな雰囲気が時折現れる。
32才という年齢には到底見えない。あどけなく、清楚な印象を与えるが、内実は氷のような女だ。さらに、ロシア軍の格闘術システマの名手でもある。危険極まりない。
ロシア語はもちろんのこと、ウクライナ語、朝鮮語、英語、フランス語を話す。国際会議でジトコ大将の通訳を務めたのが大将との出会いだった。それ以来、五年間、ジトコの愛人になっている。
ニャーナは、ジトコの愛人のみならず、ビジネスパートナーでもある。ロシア連邦軍東部軍管区と国境を接する中国北部戦区(旧瀋陽軍区)高官の一族たちは、中国朝鮮族出身者が多く、ニャーナの朝鮮語で意思疎通をしている。
彼女は、ロシア軍の武器装備を瀋陽軍区高官に横流ししている。その範囲は、個人的な密売の範囲を超えて、高濃度ウランを生み出す遠心分離機用の金属・酸化アルミニウムなど核開発関連物資や、戦車用バッテリー、はてはミサイルのエンジンに至るまで横流しを行っている。
瀋陽軍区高官たちは、それら先端物資を北朝鮮に北京に内密にして譲渡している。その代わりに彼らは、鴨緑江をはさみ隣接する北朝鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘権を相当数保有しているのだ。
ジトコは、ニャーナを通じて、中国北部戦区(旧瀋陽軍区)の動き、北朝鮮の動向の情報を得ている。中国北部戦区が北京と袂を分ければ、国境を隔てた彼の極東連邦管区にも甚大な影響があるからだ。
習近平国家主席は、北京より平壌と親しい瀋陽軍区によるクーデターを極度に恐れている。
彼が進める軍の大改編は、現代戦への適合も視野に入れるが、「瀋陽軍区」を解体しなければ北朝鮮に直接影響力を行使できないだけでなく、「瀋陽軍区」に寝首をかかれるためでもある。
瀋陽軍区が北朝鮮と北京を半ば無視してよしみを通じる背景にはわけがある。
中国は朝鮮戦争勃発を受けて義勇軍を送ったが、その義勇軍は人民解放軍所属の第四野戦軍だった。この第四野戦軍こそ瀋陽軍区の前身であり、朝鮮族らが中心となって編成されていた。瀋陽軍区の管轄域には延辺朝鮮族自治州も含まれ、軍区全体では180万人の朝鮮族が居住する。いわば、瀋陽軍区と北朝鮮の朝鮮人民軍は同族と言っていい。
もしも、、朝鮮半島有事になれば、北京の指示を無視して、北朝鮮支援のために瀋陽軍区の戦力が朝鮮半島に進出するだろう。瀋陽軍区の演習も半島全域を想定しているのだ。とりわけ、瀋陽軍区第39集団軍は、人民解放軍最精強と言われている。
7大軍区は5大戦区に統廃合された。しかし、問題は北京の頭越しに対北朝鮮独自対応を行う瀋陽軍区を北京軍区に吸収合併できなかったことだ。
習近平は、北京軍区司令官に彼と近い上将を抜擢して着々と布石を打ってはいた。その布石にもかかわらず、上将失脚で2014年、上将の腹心の第39集団軍幹部はクーデターを起こした。
クーデターは小規模で鎮圧されたが、このような北京に対する抵抗勢力が存在する不穏な情勢では、瀋陽軍区を北京軍区に吸収合併する目論みが成功するわけがない。むしろ、瀋陽軍区は北京軍区の一部を形成していた内モンゴル自治区を北部戦区へと編入、人民解放軍海軍の要衝・山東省も飛び地の形で獲得し、膨張に成功した。
こういった情勢で、ジトコのロシア連邦軍東部軍管区が北海道攻略を始め、北京が台湾侵攻を企てた時、瀋陽軍区はどう動くのであろうか?
北の北海道と南の台湾・沖縄・南西諸島で中露が軍事行動を起こした時、北朝鮮の冒険主義者がこれ幸いと南進を試み、金正恩と一脈通じる瀋陽軍区の朝鮮族高官たちが北京を無視して38度線を超えて朝鮮半島になだれ込まないとも限らない、とジトコは考えている。
そんなことになったら、西のウクライナとの紛争を抱え、我がロシア連邦は終わりだ、
それこそ、中央軍管区のウラジミール・ザルニツキー大将と組んで、中央軍管区のオビ川から東と東部軍管区が独立して、東ロシア共和国を樹立、ロシア連邦内に所属するものの、経済・外交・軍事は西のロシアとは別個とするようなクーデターを実行しないとならないだろう。
その際は、東ロシア共和国は西側諸国に対して恭順の意思を示し、プーチンやその眷属の率いる西ロシア共和国と一線を引くしかあるまい。ロシア連邦を解体する必要もあるやもしれない。
(おかしな欲を捨てて、軍を辞任し引退して、ニャーナとスイスにでも移り住もうか?ニャーナにはスイス国籍も取得させてある。隠し預金もあるから、その余生も悪くはあるまい。祖国ロシアを見捨てることになるが、プーチン、習近平、瀋陽軍区の奴らと一緒に討ち死にするよりもマシだろう)
ジトコは、ハバロフスクのダーチャの居間で考え込んでいた。
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