タバコとコーヒー、あるいは昼下がり

松本蒼

第一話

僕は今日、久しぶりの休日を昼まで寝過ごした。


彼女はもう仕事に出てしまったらしい。隣の枕のくぼみだけが彼女の存在を証明していた。

置き手紙(と言ってもやってほしい家事だとか買い物リストなどだが)と共に朝ごはんが置かれていたことに感謝しつつ、それを食べる。

ブランチになってしまったことに後悔を感じながら食後のコーヒーをドリップする。


僕はコーヒーに対しては少しこだわりがあり、彼女に淹れてもらうこともしばしばあるがほとんど僕が淹れている。(不満そうな顔をして一度大げんかに発展した事があるのであまり言わないが美味しいと言えないので)


僕は計量カップと量り、お気に入りの銘柄のコーヒー豆を取り出す。

量りでコーヒー豆を計り、電動ミルにかける。(中細挽きくらいに挽くのが一番経験上よかった。)

ハリオのドリッパーにペーパーをセットし、沸かしておいたお湯でペーパーをリンスする。その後、粉になったコーヒーをペーパーに入れ、整える。

あとは豆の様子を見ながらドリップするだけだ。

この時間をいつも楽しみがなら行う。仕事がある日はあまり余裕もないから缶コーヒーで済ましてしまうことも多いのでこの時間は至福と言っても過言ではないのだ。


お湯が落ち切る前にさっとドリッパーを外し、シンクに入れておく。

計量カップに入ったコーヒーの量は2人分だった。

やってしまった。いつもの癖で2人分淹れていることに気付かなかった。

一人分は彼女にもらったコーヒーカップ、もう一人分は保温ポッドに入れておいた。

彼女が帰ってきた時にアイスコーヒーにでもしてあげよう。


本とコーヒー、あとはピースライトを持ってベランダに出る。

簡易椅子とキャンプ用のローテーブルしかない簡素なスペースで本を読むのが好きで休日が彼女と惜しくも被らなかった時はこうして過ごすのが好みである。

時刻は午後3時、陽気が差し込むベランダでタバコをふかしながらコーヒーを飲み、本を読む。

ちなみに僕は本を読むときは本に出てくる音楽を聞くことが必須なのだ。

今は「ノルウェイの森」を読んでいるのでビートルズの「Norwegian Wood」を聴く。

こういうのが文章の解像度を上げると僕は昔から信じている。


そうこうしているうちに2時間が経ち、彼女が帰ってきた。

やり忘れていた家事を指摘されたりグチグチ言われたがアイスコーヒーにアイスを乗せて出すと何事もなかったかのように彼女はそれを食べ始めた。

(ただ罰として夕食は僕が作ることになったわけだが。)


夕食のトマトクリームパスタを食べ、風呂に入り、一緒の布団に入る。

なんでもない1日を過ごした。


ただ、最近彼女から香る僕が使わないような男物の香水の匂いには気づいていて、明日もまた同じ昼下がりが来ればいいのにな、と強く願うばかりだった。

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タバコとコーヒー、あるいは昼下がり 松本蒼 @ma2moto

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