キュウリ片手に東奔西走
麝香連理
停滞を捨てる
ある時、時の王は言いました。
「我が領土は他国に比べて小さすぎる!」
そんな一国の王の宣言により、六十年続く戦争が幕を開けました。
戦は連鎖するように人々を不幸にし、遂には元凶である国王が暗殺されたことにより、戦争は犠牲とは反比例に呆気なく終わりました。
そしてそれから五年が経ち、各地で自警団の様な物が結成され、豊かになったことで各国では人手不足が加速する。
戦争の消滅に比例して、国の王達は未開拓地を切り開く。それにより今まで眠っていた脅威がゆっくりと着実に牙を向く…………
語り部の様に話してみたが誰も聞いてないせいか、とても恥ずかしくなってきた。
私は旅の支度をし、何十年も籠り続けてきた家に別れを告げる。
とりあえず村長には言っておくべきかな。
「おや?コルテさんじゃないか。どうしたんだい荷物なんか持って。」
家の近所に住む(歩いて二時間)マードラッドが丁度良い岩に腰掛けていた。
この人…今はこんな風にのほほん、としているが戦争が無くなるその時まで傷を受けながらも戦い抜いた、【放浪騎士】マードラッド。
ちなみに、仕官した国で戦争が無くなると、何も言わずに国を離れ、勝手に別の国に仕官したり、旅の途中に戦場を見ると、どちらか片方に無断で加入して、敵を蹴散らしたり…。ハチャメチャな人だった。
【狂乱怒濤】もこの人の二つ名だ。
【放浪騎士】は民から、【狂乱怒濤】は貴族から、それぞれ知名度を誇る。
「久しいな、ドラさん。なぁにちょっと村長の所へとなぁ。」
「ほーん。そうかい、気を付けてな。」
ドラの言った通り、ここから村長宅まで二時間はかかる。ま、これでこの村とも最後だからな。思い出作りにゆっくり歩こう。
この村は、山の恵みと畑地を用いて生活をしており、山に私が住み、山の麓にドラが住んでいる。
ふむ、ここから見える一面の畑も見納めか。
ついた。
村長はお節介だから許可が下りるといいが…
「駄目に決まってるでしょ!」
…知ってた。
「こ自信の年を考えてください!
それに、コルテさんの今までの村への貢献は素晴らしいものです。だからこそ余生はゆっくり過ごして欲しいのです。それに、村の子供達が悲しみます。」
外見年齢はまだまだピチピチの七十代なんだが?
しかし、子供を出してきおったかぁ…………
「大丈夫じゃよ。子供なんて私の存在などすぐに忘れてしまいます。」
「そう言う問題では!」
「いえいえ、それにグリオンやその世代の子達は皆優秀。グリオンは都会で活躍しておるしなぁ。
私の代わりに子供達に魔法を教えるなど造作も無いでしょう?」
ここで私は無言の圧を使う。
ふっふっふ、まだお前が悪ガキだった頃、私の特製クッキーを盗み食いした時、この圧に耐えきれず泣きわめいていたことをなぁ。忘れんぞ!!
私の言葉と無言の圧を受け、悲しそうに下を向く村長。
「私からは…もう何も言いません。ですが、盛大な見送りでも…」
「いえ、必要ありません。私はこのまま出ていきます。では。」
私はそう言って村長宅を後にする。
中から、そんな!と驚いた村長の声が聞こえた。
さて、そろそろいいかの。
「"活性"」
この世界における禁忌魔法の一つに数えられる活性魔法。それを自身に使用する。
多分だが、この魔法の使い手は私しかいないため、私はこの世界で事実上唯一の不老となる。
だが、一つのデメリットとして、外見が別人となる。
「今回は………」
外見が当たりか外れか……そう言おうとしたところで既に性別は変わったなと判断できた。
次に川の水面を覗く。
「フム………なかなか整っておるな。
………整ってるわね。」
口調も気を付けるか。
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