→右42話 山越 幹雄(やまごし みきお)6

「たのしかったねー!」


 いつもの教室、いつものメンバーで、僕達は昨日の遊園地の話で盛り上がっていた。

 特に睦美むつみが一番楽しそうに、昨日の事を話している。

 計画をしたのも、メンバーを集めたのも彼女だったのだからそんなものなんだろう。

 睦美の前の席では香月かつきも楽しそうに、睦美と笑顔で話している。

 僕の後ろの席では隆志たかしが、顔を紅くして外を見ているが、ちゃんと会話を聞いているのが面白い。

 僕は……。


「親友ですから……かぁ」

「ん? 幹雄みぎちゃんなに?」


 無意識に漏れた僕の呟きを拾って、香月が急に僕の顔を覗いて来た。


「あ、いや……香月と隆志はジェットコースターが苦手なんだなって思い出して……」

「なっ!」

「やめろ!」


 誤魔化すように、二人のあの日の顔を思い出して笑うと、声が揃った二人に睨まれる。


「あはは! いいじゃん、人間だもの苦手な物があっても!」

「べ、別に苦手じゃないわ!」

「体調が悪かっただけだ!」


 また声を揃えて僕の言葉を否定して二人が叫ぶと、それを見ていた睦美が口元を押さえて、僕と同じように笑う。

 本当に僕に勿体ない友達だなぁって、何処か俯瞰して見ている自分に気が付いて内心で寂しく笑った。


 この感情に気が付いたのはいつだっただろうか……。





「う~ん……出来はいいんだけど……」


 本部室で、僕が一旦仕上げた台本を一通り読んで、坂谷さかたに先輩は腕を組んで首を傾げた。


「なんだろう……登場人物が全員俯瞰しているっていうか……幹雄みぎちゃんの気持ちがこもって無い感じ?」


 そう言って僕を見る坂谷先輩の目は、何かを見通そうとしてるかのように、僕の目の奥へ視線を向けて居る気がして、ぶるりと震えた肩をすくめて椅子ごと後ろに下がる。

 その様子を見た坂谷先輩は、何かを否定するように慌てて両手を振った。


「ち、違うから! 流石に真面目にやってる後輩の指導中にまで、変な事考えてないから!」


 そんな事を言われて、僕は思わず噴き出した。


「ぶっ! ほんと先輩は……そればっかりですね」

「だ、だから違うって! 隆志君とどうなったかなぁなんて考えてないから!」

「隆志と?」

「あ! ちがう! それは家で考えてるだけで!」


 慌てて真っ赤にした顔を手で覆って、俯いて顔を隠す坂谷先輩に、僕はやっぱりどこか俯瞰していた。


「家では考えてるんですね……まぁ隆志に迷惑かけないなら妄想くらいいですよ?」

「! マジで! ご本人様の許可頂きました!」


 恥ずかしがってるかと思ったら、僕の言葉に跳ね上げた顔は、凄く目をギラギラさせていて、やっぱり坂谷先輩だなって僕は笑った。


「って! そうじゃない! みぎちゃんの台本の話だよ!」

「あ、はい……ダメなんでしょうか?」


 僕は離していた椅子を元の位置に戻して、机の上に置いている自分の書いた台本に視線を落とす。

 坂谷先輩も顎に手をあてて考えるような仕草で、同じ台本に目を落として唸った。


「ダメってわけじゃないんだけど……なんて言うのかな? 俯瞰視点で書くって大事な事なんだけど……みぎちゃんのお話は、俯瞰の視点をさらに俯瞰してるっていうか……」

「俯瞰ですか……」

「なんだろう? ちゃんと心の機微は書けてるんだけどね……そこにいるキャラクター皆達観してるのよ……」

「そうですか……」


 坂谷先輩は台本を書かせたら、やっぱりすごい人なんだろうなって僕は思って小さく笑った。

 そうなんだ、台本の書き方を教わって、それでチャレンジして行く中で……僕はどうしても登場人物達の視点が見えない事に気が付いていた。

 それを見透かされたことが恥ずかしい反面、どこか嬉しくも感じた。


「ねぇ……この話は一旦置いておいてさ、ちょっと周りの人を登場人物に見立てた話を書いてみない?」

「周りの人?」

「そう! 隆志君とか香月ちゃん。 それに睦美ちゃんだっけ? 仲のいい友達」

「あ、はい……」

「その子達を、名前変えていいし、そのまま登場させるお話」

「……それって、何か意味があるんでしょうか?」

「あれ?……うーん……そうかぁ……普通はこういったネタを振られたら、面白そうって思ってくれると思ってたんだけど、みぎちゃんはあまり好きじゃ無さそうだね……」


 また、目の奥を覗き込むように僕を見る坂谷先輩に、冷や汗が流れた。


「いえ……全然興味が湧かないわけじゃないんですけど……」

「けど?」

「……なんか三人をちゃんと書ける気がしなくて……」

「いつも見てる通りに書けばいいんだよ?」

「そうなんですけど……」

「……うーん、なんだろう……ごめん、ちょっと失礼な事いうけどさ……これまで友達とかに達観してるとか、何を考えてるか分からないって言われた事ない?」

「え? いえ? そんな事はないですけど……」


 僕の目を覗く坂谷先輩に、良く分からない恐怖を感じて目を閉じた。


「みぎちゃんって、ある意味天性の演技の天才なのかもしれないね?」

「?」

「自分も騙してる……」

「え?」


 何か良く分からないけど、自分も知らない自分を見透かされたように感じて、僕は目を見開くと、先輩は真面目な顔で黙って僕を見ていた。


「……今日はこの辺にしておこっか……」


 唐突に、坂谷先輩はふっと笑って目を逸らすと、机の上に広げていたノートや鉛筆を片付けていく。


「ほら、みぎちゃんも早く片付けて」

「あ、はい」


 僕も、慌てて自分の物を片付けて鞄に突っ込む。


「……みぎちゃん……」

「はい?」

「一度じっくりと自分自身を見つめてみない?」

「どういう事でしょう?」

「自分の感情……怒りとか喜びとか……欲望とか」

「欲望?」

「あ、それとね……今自分の持っている価値観が、なんでそれを選んだのか人生を遡って考えてみるってのがいいかも?」

「人生って……そんな歳じゃないですよ、僕は」


 流石に言ってる事が壮大過ぎて、僕は突っ込み返して笑った。


「何言ってるの? 少なくとも15年以上は生きてるじゃない? 15年って短いようで長いわよ?」

「あははは、坂谷先輩って面白いですね……僕には良く分からないです」

「そうね……難しいよね? でも、今晩位は一度布団の中で考えてみて?」

「……わかりました……考えてみます」

「うん! よし、じゃぁ帰ろうか!」


 そう言った坂谷先輩は、先に本部室の出口に向かった。

 その後ろ姿が、入り口から入る光に照らされて不思議に眩しく感じた。


 

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