第2話 救いたい

 彼女のか細い叫びに、俺は思わず固まった。

(ただの興味本位…?)

悩みがあるとかでは無く、ただの興味本位と言う彼女に、思わず聞き返してしまう。

「え、マジでなんもないの?」

「はい…ただの興味本位です…」

わぁお。ざっつくれいじぃ!

「いや興味本位でリスカしようとするやついるか!!!」

俺の叫び声にビクッと肩を揺らす彼女の頬は、涙で濡れていた。

「ごめんなさ…ほ、本みたいに…す、スッキリする…って、ほんと…なのかなって…!」

嗚咽混じりのその言葉に、俺は怒りを通り越して呆れてしまった。

「あのなぁ…リスカしてスッキリすんのはマジで病んでるやつだけだから」

ぽんぽん。未だ泣き続けている彼女の頭をあやすように軽く叩く。

「まずは泣く。泣いてダメなら叫ぶ。叫んでダメなら自傷行為だ」

いいな?

そう問うと、彼女はゆっくり頷いた。

そして。

「日村くん、お母さんみたい」

ポツリと彼女が零したソレに、俺は一瞬固まってからまた叫ぶ。

「誰がお母さんだよっ!!」

そこまでして俺はハッとした。

興奮していた所為で、いつものようなツッコミを入れてしまったが、彼女と話すのはコレが初めてなのだ。

改めて自分の発言を思い返してみる。

「………ごめん。マジでごめん。俺めっちゃ当たりキツかったよな…」

なんだか居た堪れなくなって、ポリポリと後頭部を掻いた。

初めて話すとか言う前に、彼女はいつも絵を描いているような、物静かな性格なのだ。

そんな彼女にいきなりハイテンポな会話をしろと、しかも初めて話す異性に求められたら、困惑を通り越して嫌われるかもしれない。

(うわぁぁぁ…せっかく仲良くなれるチャンスだったのに…!)

そっと木村さんの様子をうかがうと、座ったまま顔を伏せていた。

やはり、嫌われたのだろうか。

嫌に速まる鼓動に、俺は冷や汗が流れ出した。


 しかし、顔を上げた彼女の表情は、キラキラと輝いていた。

「こんなに人と話したの、凄く久しぶりな気がする…!」

少し前とは全くの別人になった木村さんが、俺の手を握って語り出した。

「私、人間関係を保つのが苦手で…あ、別に喧嘩がどうとかじゃなくてね、なんていうのかな?飽きる…とも違う…てかソレは失礼か……ええっと、疲れる…?そう!疲れるの!疲れて、話が続かなくなって、そのまま関係消失って言うのが多くてね。あと、私と周りの価値観?がズレててさ、私がいいなと思ったものは否定されて、私が嫌だなって言うのは賛成されてさ…やっぱ疲れるんだよ。それで…」

「ちょっとまって!木村さん…」

彼女の語りが予想以上に長く、俺は急いで彼女を止める。

「木村さん、そんなにおしゃべりだったの…?」

俺の言葉に彼女は目を丸くして、汗を流しながら口を手で塞いだ。

「わ、私、べらべらとくだらない話を……」

ごめん、引いたよね…ごめん…ごめん…。

途端に意気消沈と小さくなっていく彼女に、俺は更に慌ててしまう。

そんな俺を見て何を思ったのか、彼女は俺が蹴飛ばしたカッターナイフを手に取り、首元に持っていく。

その姿を見た俺は、思考を殴り捨てて彼女の元へ飛んでいった。


「木村のバカ!!俺何も言ってねぇよ!早まんな!!このかまってちゃんが!!」


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きむずかしいよ!きむらさん 秘願花角美 @Kadomi19920427

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