わたしの百合観を振り返る

蒼桐大紀

 いま気づいたのですが、百合作品は書いているものの、〝百合作家〟とは名乗ったことはありませんでした。というより、百合作家という枠組みに自分を入れるのに若干の抵抗を感じています。

 そんな人間の百合観とはどんなものなのか。

 お答えしていきたいと思います。



■Q1. 百合とあなたの距離感(身近であったり、憧れだったり)について教えてください。


 自分から最も遠いところにある人間関係のありようですね。

 そこで交わされる言葉や、交錯する感情に共感できたとしても、それが自分事になることはないのです。

 であるからこそ、その関係を俯瞰してみることができ、自身の感情に左右されにくい落ち着いた心で共感できるとも思っています。

 作品の題材に選ぶことが多いのは、この遠い距離がキャラクターを描く上で全体を俯瞰しやすいからだと思います。



■Q2. あなたの百合観(百合とはこうだと思っているなど)について教えてください。


 女の子同士における特定に相手に向けた感情の指向、あるいはその交錯の結果生じる、その相手抜きでは成立し得ない人間関係。そして、ときに友人というとらえ方では語り得ない、しかし恋愛であるとは限らない親密な関係でしょうか。

 個人的には、思慕や恋慕のほかに敬意や謝意、憧憬や対抗心に注目しがちです。すなわち、彼女らの行き着く先が恋愛成就であったり、共同体の形成とは限らない、ということです。



■Q3. その百合観をあなたの作品ではどのように表現していますか?


 彼女たちの距離感に注意して書いています。

 たとえば、物語開始時点で彼女らが友達であるなら、なにをもって友達という関係が成立しているか、その関係の根底にあるものはなにかを注視しつつ、関係性を友達から変化させる場合であっても関係の根底にあるものは軽はずみに変えないようにしています。

 そして、それがなんであるか、ということを作中で言語化するを避けています。それこそが、言葉では語り得ないものだと思うからです。



■Q4. あなたの作品では、その百合観を使って、何を書きたいのですか?


 言葉では語り得ない親密な関係そのものですね。

 現実は、関係を規定する言葉にあふれていて、じつは〝百合〟もこのひとつだと思っています。

 今後も百合タグは使いますし、自覚的に百合を書いていくと思いますが、自分の作品には百合という言葉に縛られて欲しくないとも思っています。



■Q5. あなたの作品に近いと思っている他作家の作品には何がありますか?


 あえて上げるなら、『まちカドまぞく』のシャミ子と桃の距離感が理想に感じているので、ずっと追いかけていると思います。最近では『星屑テレパス』にもこれに相似た距離感を見ています。

 明確に恋愛の軸が入ってくると、『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』、『少女セクト』、『少女プラネタリウム(『終電にはかえします』所収)』が上がるでしょうか。全部漫画ですね。



■Q6. あなたはどうして百合を書くんですか?


 そこには自分は決して行けない、という断絶は憧憬でもあるからだと思います。

 また、先述した語り得ない親密な関係を描く上で、女の子同士であるほうが作者である私が観測しやすく、俯瞰して描けるため百合を選択している部分はあります。



■Q7. これからどんな百合作品を作っていきたいですか?


 とある感想で「悩みを抱えた女の子が女の子からはげまされる話を定期的に書いているのだと察しました」と書かれたことがありました。じつに的確な蒼桐評であると思います。これからもそういう話を書いていくでしょう。

 あとは、やはり出会いから二人の関係が生まれていくまでの過程をちゃんと書いていくことですね。

 これらの通常運行にくわえて「感情がすれ違って交錯して、その後により強いかたちで結びつく」話を書いていきたいと思っています。

 あんまり小難しいテーマはからめず、読んだ人が素直に楽しめるような話を書いていきたいと思います。


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