第8話 夏の終わりとラドラー

空が青すぎてムカつく、と思った。


失恋した日に晴れてると、世界が自分を笑ってるように感じる。環はアトリエを出て、やけに明るい昼の街をふらふら歩いた。


「こんな日に、ビールでも飲まなきゃやってらんない」


でも、普通のビールは苦くて苦手。だから選んだのは、レモンのラドラー。半分ビールで半分レモネード。ビールっぽさはあるけど、爽やかさが勝つ。


公園のベンチで缶をプシュッと開ける。シュワッと音がして、気持ちも少しだけ軽くなる。ひと口飲むと、酸っぱくて甘くて、苦味があとからふわっと追いかけてくる。


「これ、けっこう…いいじゃん」


気取ってないのに、ちゃんと大人な味。まるで今の自分みたいだなって思った。情けないけど、ちゃんと痛みを味わってる。


スマホに残ってる元カレのメッセージをひとつずつ消していく。写真も、トーク履歴も。全部、夏の終わりと一緒に片づけてやる。


「環、どこ行ったの〜」

後ろから友達の声。キャンバス抱えて走ってくる。


「ほら、来週提出だよ! 絵の具買いに行くんでしょ?」


「うん、今行く!」


空がまだ明るい。悔しいくらい明るい。でもそれが、次の一歩を照らしてくれる気もした。


缶を飲み干して、ポイっとゴミ箱に投げる。


夏の終わりなんて、こっちから捨ててやるよ。


レモンの苦味が、ちょっとだけ背中を押した気がした。


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