ワタシは無法地帯で生き残る。

月見だんご

第1話

ここは、ある国とある国の国境地帯。

深い深い森を潜り抜け、

視界が開ける場所。

存在する色とりどりのコンテナ。

その中の特段大きいものの中に数十人の子供たちが集められていた。

「点呼」

『長官』がそう言い、子供たちが順に数字を言っていく。

「A3349」

「A5036」

口からふわりと小さなアクビが漏れた。

「A747」

視界の脇に見えるツンツン頭の黒髪が言う。

次か。

「A748」

腕を後ろに組み、真面目に聞いてましたよ感を出す。

後ろへと長官の視線が写っていくのを感じながら、ふわぁともう一度アクビをする。

すると何やら後方がうるさい。

「おい!一人たりねぇぞ。また脱走か?」

長官が怒鳴ってる。

「おまえら、今すぐ探し出せ。見つからない場合、今月のおまえらの目標金額倍だ。」

周囲の困惑した表情が見て取れる。

ふと隣のツンツン頭の顔が目に入った。

涼しい顔。

それはそうだ。だってこんなの日常茶飯事。

「見つけ次第、このコンテナまで連行しろ。連れて来た者には報酬を与える。」

報酬を与える

その一言でその場にいる全員が目の色を変えた。

みんなが勢いよく一斉にコンテナを飛び出していくのを横目にアクビをしてゆっくり歩き出す。

あっという間に満員だったコンテナがガランとした。

「おい!そこ、ふざけてんのか!見つけられない場合連帯責任だぞ!」

長官から怒鳴り声が飛んでくる。

その声を無視してゆっくりと歩き続ける。

「おい!聞いてんのか!」

長官が怒りの形相でこっちに駆け出してくる。

大人ってどうしてこう、待てないんだろう?

ワタシは、近くにあったタンクの蓋に手をかける。

長官のごつごつした岩みたいな手が胸倉をつかんだ。

ガタン

そのまま、上に引き上げられて、足が宙を切った。

のと同時に、つかんでいたタンクの蓋が持ち上がり、ナカノモノがあらわになる。

「きゃあ!」

中から聞こえたかわいらしい悲鳴。

そこには、茶色いくせっけの十歳ちょっとくらいの女の子がうずくまっていた。

「は?」

長官は状況が呑み込めず、ポカンと口を開ける。

「灯台下暗し。」

ボソっと長官の耳元でささやく。

はっと我に帰った長官が、少女を捕まえようと手をのばす。

だけど、一瞬我に帰るのが早かった少女が先に動き出す。

俊敏な動きで長官の腕を潜り抜け、出入口へダッシュする。

長官がパッと胸倉をつかんでいた手を放し、そのあとを追う。

ドンっと鈍い音をして尻もちをついた。

尻をさすりながら、前方を見る。

これ、もう間に合わないな。

少女の動きは俊敏でもうコンテナの出入口を潜り抜ける…

そう思えた時、少女の目の前に影が一つ現れた。

待っていましたとばかりに飛び出したその影は、そのまま少女に飛びつく。

「これで、報酬もらえるんすよね?」

泣きべそをかく少女の腕をねじり上げたのは…アイツだ。

長官が減速してやっとのことで追いつく。

「ああ。よくやったな。」

…しまった。また盗られた。

少女が目の前で連行されていく。

もう少しで、手柄がとれたはずが…

黒髪頭をギロリとにらみつける。

一瞬目が合ったけど、軽くスルーされた。

チッ

仕方なく整列し始めた列に加わる。

外に飛び出していった奴らが次々と戻って来た。

「おまえ、逃げようなんてそんな簡単に考えるもんじゃねえよ。」

長官が少女の胸倉を持ち上げながらいう。

一方少女は声も上げられないほど震えている。

あの子終わったな。

そう確信しながらも、ふわぁとアクビをした。

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