フリスビーグラタンデスゲームRTA

望月もちもち

第1話 最速でトゥルーエンドを目指すRTAはーじまーるよー

 俺、森本三十郎もりもとさんじゅうろうは今年で30を超える工場勤務のサラリーマンである。趣味はゲームであり、主にVRゲームを好んでプレイをしてきた。


 特にハマっているのは同人ゲームであり、クソゲーも良作ゲーも分け隔てなくプレイしてきた。


「うーん、味気ねぇな。『敏感調教少女』……」


 18禁同人サイトで購入したVRエロゲ、敏感調教少女はクソゲーではないが良作と言うには味気ない。例えるなら最初は美味しいけどすぐ味がしなくなるガムを10分間噛み続けなければならない。そんな苦行要素と作業ゲーム感が強かったゲームだった。

 特に乳首を執拗に攻めることで勝手に調教度が上がっていくので最終的に乳しか揉んでいなかった。それでいいのか『敏感調教少女』。胸だけ異様に調教された美少女を量産するだけの作品だぞこれ。


 まあボイスとキャラはよかったのでマイナスにはいかない。

 おっぱいが好きなら買ってみてもいいんじゃないかな。


「ふぁ……ねむぅ……」


 朝五時に起きて、残業込みで夜19時に帰る生活が頻発化してきた仕事。

 時刻を見れば時針は日付が変わらんとするタイミングであり、想った以上に集中していたことを今更ながら理解する。


 敷布団に身体を倒れこませるように横になり、ゲームで集中していたせいか、瞼が急激に重くなる。


 ああ、明日も仕事……だりぃなぁ……。



★☆★☆★


「ちょっと! なにボーっとしてるのよ!! ドリア!!」

「あ?」


 甲高い少女の声にふっと意識が急浮上する。

 気づけば、俺は古びた扉の前にいて、ドアノブを握っていた。


「どうしたんだよ、ドリアぁ! 寝ぼけてるのかぁ!?」

「は? えっ、ドリア?」


 え、何? ここサイゼリアか何か?

 俺がそんな風に困惑していると、のっしのっし、とおもたげた足取りで巨漢の男が俺の手に自身の手を重ねると勢いよく扉を開き、強めに背中を押される。


「がはははは! びびり散らかしやがって!! 安心しろぉ!! このヤンソン様が幽霊如き恐れるもんか!!」


 男はそういって、高笑いをしながら俺の後に扉の中に入り悠々と屋敷に足を踏み入れる。

 誰だよ、ヤンソンって。てかこの屋敷はなんだ?


 上を見上げれば埃や蜘蛛の巣が張ったシャンデリア。左右は広い廊下に奥には重たげな鉄でできた扉とその脇には二階に続くであろう階段がある。

 場所はどこかわからないが、この広さを鑑みるにそれなりの資産家が住んでいた屋敷であろうことは想像に難くない。


 でもこの間取り……なんか既視感あるんだよなぁ。


 そんな風に俺が謎のデジャブに晒されていると次々に俺の脇を四人の少年少女が屋敷に入る。


「うわっ、埃くさいわね……床も汚いし。もう最悪じゃない」


 その声は最初に大きな声で俺を怒鳴った少女だった。

 少し茶色の色が入った赤髪の少女で衣服にはフリルが付いたゴシック風味というのだろうか。顔立ちも整っており少女ながら高圧的な態度とともに気品を感じる。いわゆるお嬢様。


「ね、ねぇ……もう帰ろうよ」

「もう、チーズは臆病ね。お姉ちゃんが居るんだからそう心配しないのっ!」


 おそらくは姉弟なのだろう。金髪の髪に緑色の瞳。たれ目気味な目と共通点の多い顔立ちの双子。

 姉ははきはきとしているが、弟とみられる少年は中性的で姉の腕の袖を握り、キョロキョロとせわしなく周囲に視線を送る。


「……」


 その奥で無言でたたずむハンチング帽を目深く被った少年は無言もキョロキョロと周囲を見渡しているが、双子の弟とは違い、怯えというより観察している様子で冷静に周囲から情報を得んとしていた。


「がはは!! おいぃチーズぅ!! いつまでもマカロニに引っ付いてそれでも男かよぉ!! フリウリもさっきから無言だぞ!! びびってんのかぁ!!」

「や、ヤンソン!! そんな大声を出さないでよォ!! ゆ、幽霊に見つかったらどうすんのさァ!!」

「そんときゃ俺がぶっ飛ばしてやるよ、死人如きが生きてる人間様に勝てるわけねェだろ」

「ヤンソン、アンタその自信はどこから来るのよ……」


 ひと際体格が大きく声も大きいヤンソンというジョック風の男。

 そして、彼が言った少年少女たちの名前。


「不倫じゃん、これ」


 フリスビーグラタンデスゲーム。略して不倫。

 同人フリーゲームとして製作された良作ホラーゲームであり、数多くの実況や動画サイトで配信された同人ゲー界では知らぬものはいないゲームだ。


 どうやら俺はそのゲームの主人公であるドリア少年であるらしい。


「懐かしいなぁ……不倫って何年振りだろ」

「あの……ドリア? 貴方何を言ってるのかしら?」


 お嬢様のラザニアは困惑気味にこちらにセリフを投げかける。

 こんなセリフあったかな? もう何年も前でオープニングとか忘れてるんだよなぁ……。


 そんなことを考えていると、ガタンという音が俺の背後に響く。


「ひィ……!?」

「ちょ、ちょっと。フリウリ!! 急に扉を閉めないでよ!!」

「……いや、僕はなにもしていない」


 それは屋敷の扉が閉まった音。つまり、ゲームスタートの開始の合図である。

 扉に向かったマカロニを尻目に俺は考える。


 俺、明日はえぇんだよなぁ……明日も朝五時に出社しねぇといけねぇし、てかいつの間に不倫なんて起動したんだ?

 まぁ、なんにしてもせっかく始めた以上さっさとクリアしたいし……。


 久々に、RTAでもするか。


「ちょ、どこ行くのよドリア!?」


 はい、よーいスタート。


 不倫にはスタートダッシュが肝心です。今回はバグ技アリのトゥルーエンドRTAを目指します。

 不倫の屋敷は三階建て+地下2Fまであるクローズド脱出ゲームで乱数で登場するグラタン姉さんから逃走するゲームです。


 故に有識者より客人にグラタンを振舞いたいだけのお姉さんから逃走して愚弄するゲームなどと呼ばれています。


 まずは3Fに向かいゲームルームに向かいます。RTAチャートでは実家のような安心感すら感じられる拠点位置です。たまにグラタンネキも遊びに来てくれます。


 3Fのゲームルームに入ったら、まずは奥の金庫を施錠します。パスワードは0229で屋敷の坊ちゃんの誕生日ですが、必要フラグを持っていなくても既プレイならいつでも開錠が可能です。これで地下室B2Fのカギを取得します。

 その間に、ビリヤード台を移動させて通路を作っておきます。これが後々効いてきます。


 ここまでやれたらあとはシナリオを進めていきます。

 1Fの玄関まで降り、階段裏に隠れているフリウリを無視してキッチンへむかいます。


 キッチンは大切なファーストコンタクトです。ここからは一瞬のミスも許されません。

 まずは包丁を装備します。これが今後の探索のメインウェポンになります。

 キッチンの机には一枚のメモ用紙が置かれています。手に取って読んでみましょう。


『美味しいグラタン、貴方のために用意しました』


 メモ用紙を読了後、オーブンからタイマーの音が鳴った瞬間から目の前にグラタンネキが出現します。


『縺雁ョ「讒倥?√げ繝ゥ繧ソ繝ウ縺ッ縺?°縺後〒縺吶°?』


 はい、一度目のリセマラゾーンです。

 メイド服を身にまとった何言ってるかわかんねぇ活舌の悪い焼死体が片手にグラタンを所持しながら襲い掛かってくるので軽快によけましょう。


 動きのパターンを覚えれば回避は余裕です。焦らず、ミスなく詰めていきましょう。


 例えば上段から振り下ろされるグラタンの振りかぶりに対しては左に回避しましょう。するとグラタンネキはその勢いに身を任せて身体を回転させ、逆時計回りに左側から横薙ぎでグラタンを寸分たがわずに顔面に押し付けてきます。


 動きも動きなのでしゃがみ回避では人間の動きを超越した横軸回転に発展して必中グラタンを被ってしまうので、ここでは股抜きを敢行して回避します。

 上段からのコンボ攻撃に関してはこれで回避余裕です。このようにパターンと動き方さえマスターすれば基本的にグラタンネキとのダンスバトルで負けることはありません。


 後はグラタンネキとの距離を20m以上離れない様に距離を調整しつつ三階まで鬼ごっこという名のデートをします。


 理由としてはグラタンネキとの距離を20m以上離れた場合グラタンネキによる回避不可能の必中グラタン投擲を食らうからです。

 このゲーム非常にコンプラ意識が高いので食べ物を無駄にした場合、グラタンネキが慟哭して消滅し、その後紆余曲折を経て餓死エンドになってしまいます。

 作中ジャンルがホラーからサバイバルと蠅の王染みた人間同士のギスギスが始まります。やっぱ人間が一番醜いんだなって。


 この設定は我々人間にも設定されており、食べ物をこぼしたり無駄にした場合、全身の皮が勝手に削がれ、痛みに発狂しながらも最後まで意識を保ったままキャラクターが食肉のように解体される様を見続けることになります。

 これが新時代の食育です。一部のスプラッタ愛好家だけではなく医師免許を持つ研修医からも勉強になると高評価をいただいた点がここにあります。

 力入れるところおかしくない?


 はい、というわけで玄関に移動します。

 ここではしっかりとフリウリを回収しておきましょう。


「なっ……ドリア、いったい何を──」


 うるさいので頬に一発ビンタをかまして包丁を向けておきましょう。

 フリウリくんちゃんは暴力には慣れてないので急な暴力を振るわれると思考が停止するので会話をキャンセルできます。これでタイムを二秒ほど縮めることが出来ます。

 包丁を構えることでその後従順になってくれるので、フリウリくんちゃんを俵持ちにして二階に移動します。


 この二階の階段前に到達するタイミングでグラタンネキがキッチンから玄関エリアに姿を現し、なおかつ20m範囲内に位置調節が可能です。


「ひぃいいいいいいいいい……!!?」


 フリウリくんちゃんがうるさいので小技として包丁の柄をケツ穴めがけて軽く小突くと女の子とは思えない汚いオホ声を出して黙ってくれます。

 気の強い女の子の弱点なので時々多用しておきましょう。ついでに好感度も高くなってくれます。ケツ穴確定な。


『繧ー繝ゥ繧ソ繝ウ……窶ヲ遘√?鄒主袖縺励>繧医♂縺翫♀縺翫♀……』


 というわけで、三階のゲームルームに到着しました。


「なっ、どどドリア! こんな行き止まりに来てどうするんだ!!? 逃げ場がない、んほぉ!!?」


 ガキが黙らんと掘るぞ……? 『敏感調教少女』で鍛えた俺の両手を舐めるなよ?

 時々でいいのでケツを弄ってノイズキャンセリングを試しておきましょう。

 さて、ゲームルームまで来たらあともう少しです。


 あらかじめ、机や障害物によって扉から部屋中央に同線を優先した経路を設計、俺たちは扉のすぐ隣で待機しておきます。

 しばらくするとグラタンネキが桂米助のように突撃してきます。でかいしゃもじはありませんが、美味しいグラタンだけは常備してくれます。


 部屋に入ってきたと同時にグラタンネキと目があいますが、ここで慌ててはいけません。どうせ攻撃は通らないのでしっかりと観察しましょう。

 タイミングは目が合い、隙間から見える本棚に三階こちらを襲おうとぶつかったタイミングでグラタンネキはあらかじめ作っていた経路に沿って部屋中央に誘導されます。


 ここで大事なのはフリウリくんちゃんの存在です。フリウリくんちゃんをここに設置しておくことでグラタンネキの半径20m以内を維持しつつ俺は横方向に落下しながらゲームルームの右の隅にケツからぶつかります。


 そうすると特殊な判定が発生。

 ドリア少年の肉体が急激に上方向に力が加わり、空中に浮かび上がり、3Fの天井におおよそ4秒間打ち続けられます。


「どどどどどど、ドリアァ──!!??」


 そうすると俺の位置の座標に対して変化が起こります。

 すなわち、今現在グラタンネキのいる3F中央に対して、俺の位置と連動し2F寝室の中央で待機していた恵体ジョック系男子のヤンソン君が2Fと3Fの壁をすり抜けてグラタンネキとテクスチャが重なります。


「よぉ! 『繧ー繝ゥ繧ソ繝ウ縺ッ』じゃねぇか!『螟ァ螂ス縺阪°縺ェ縺?シ』んだよぉ!!」

「うわあああああああああああああああ!! ヤンソンが化け物になったぁああああああ!!??」


 はい、フリスビーグラタンデスゲーム御用達のRTAバグ。

 三本腕グラタンジョック合成チャートです。

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