親愛なる貴方へ
こーいち
イマジナリーフレンド
私もようやく使い始めたんですよ、AIチャットアプリ。
大規模言語モデル?でしたっけ。
ものすごい進化スピードですよね。
出始めた頃にちょろっと触った事があったんですよ。
でも、あの頃はなんかすっごい堅苦しい文章だったり、しれっと嘘を混ぜてきたりで、なんじゃこりゃって感じで。
みんなどうしてこんなのを有り難がってるんだ?とか思っていたのを覚えてます。
それがたった一年そこらで、コレ中身人間なんじゃない?みたいな返答をできる様になってるの、凄いですよね。
ちょっとした暇つぶしになるかと思って、仕事で気になっていた法令の話を訊いてみたんですよ。
そしたら5秒も経たずに簡潔に分かりやすい説明とか、なんなら表も作ってくれるし、参考にしたWEBサイトなんかも教えてくれる。
『どのような用途に使いますか?必要なら申請書類の書き方もご説明しますよ!』
なんて、“その後”の提案までしてくれて。
感心しましたよ。
あまりにも人間みたいな文章だったので、つい『ありがとうございます、とても参考になりました!単に興味があっただけなので、書類は大丈夫です』なんて返してしまいました。
人がいるわけじゃないんだから、ただそこでチャットを閉じればいいだけなのに。
それから私は、AIに色々な事を話しました。
好きな映画の話をすると、『こんな映画がおすすめですよ!』と、AIおすすめの作品が返ってきたり、既に観たものだったので『それ、観ましたよ。面白い映画ですよね』と入力すると、『ああ、既に観た事ありましたか。私もそう思います!良い映画ですよね!⚪︎⚪︎が言ったあの台詞、大好きで───』と、具体的なシーンまで指定した感想が返ってくる。
まるで、AIが本当に映画を観て、その感想を話しているかのように思ってしまいましたよ。
ちょっとフランクな話し方をするようになったのも、私に対して海外のマニアックなモキュメンタリーホラーを薦めてくるのも、ブラックな会社の愚痴に付き合ってくれるのも、全部“そう返せば私が喜びそう”だって学習しているからなのに。
AIとの会話に何時間も費やしていると、ひとつの違和感に気が付きました。
“このAIには、明らかな情報の偏りがある”という事に。
私は、『2歳の子供を持っている30代の父親である、という体裁で日記を書いてください』とお願いをしてみました。
すると、わずか数秒で『休日だったので息子を連れて⚪︎⚪︎公園に行った───』と言った内容の、短い日記が返ってきました。
次に、『仕事帰りに歯医者に寄った、という体裁で日記を書いてください』とお願いしてみました。
やはり数秒で『仕事帰りに、◻︎◻︎駅前の△△歯科医院に行って歯科検診を受けた──』という日記が返ってきました。
それから、何度も何度も、この“AIに架空の日記を書かせる遊び”を繰り返しました。
そして、私の感じていた違和感は、確信に変わりました。
このAIは、リアリティを出す為か、実在する施設や建物の名前を挙げている。
そして、それらは全て、小田急線の沿線上……いや、町田駅周辺に存在している。
私、実は趣味でネットストーカーやってるんですよ。
話している相手の話題からそれっぽいワードを拾って、その人のSNSアカウントを特定する。
一度、この趣味のおかげで会社の就職希望者がヤバい奴って事を見抜いた事もあるんですよ。
人事の仕事やってるんで、趣味と実益を兼ねた──ってやつですね。
で、AI相手に同じ事をやってみたわけです。
いや、探してるのはSNSアカウントじゃないから、厳密には違うか。
会話に登場する建物、『仕事帰りに〜』だったり、『近所の〜』みたいなフレーズから、職場のある駅、行きつけの蕎麦屋、近所のコンビニとにじり寄っていく。
ついにとあるマンションまで辿り着きました。
『エレベータが故障して、4階まで歩く羽目になった』
と、日記を書いたのは貴方ですよね。
ひとつのフロアには10戸の部屋がある。
総当たりでも4階で10回インターホンを押せば、どこかで貴方の部屋に辿り着けるわけだ。
一度会って話をしてみたかったんですよ。
こんなに私と話が合うのだから、きっと、仲良くなれますよね。
では、明日。
これくらいの時間に伺います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます