隣の席
@tori-kuroneko
隣の席
小学生の頃隣の席の北山 雄大(きたやま ゆうだい)くんと仲良くなった
その子は、不思議な雰囲気でいつも絵やお話を書いていた
できたものは休み時間にいつも見せてもらった
その作品は心がほんのり暖かくなるようなとても素敵なものだった
それを彼に伝えると彼は照れくさそうにはにかんで笑う
その姿がずっと忘れられない
私と彼だけの時間
その時間がたまらなく好きだった
ある日私の転校が決まった
親に駄々をこねたが
1人では不安だと受け入れてもらえなかった
先生には寂しくなってしまうので転校当日までみんなには言わないでほしいとお願いした
いつも通りの日々
後何回みんなにまた明日と言えるのだろう
彼に転校すると伝えなければ
だけどなかなか言えずに
時だけが過ぎていく
彼はいつも通り作品を見せてくれる
あーこの時間も、もうすぐ終わりか…
そう思うと涙が溢れてきた
「どうしたの?」
彼に声をかけられた
優しく声をかけられたので余計に涙が出てきた
「外行こう」
そう言って、私の手を引いて教室の外へ連れ出してくれた
「ここまでくれば大丈夫か…」
そう言って人通りが少ないところへ連れてきてくれた
どのくらい時間が経ったのだろう
遠くでは休み時間の終わりを告げるチャイムがなっていた
「なんで何も聞いてこないの?」
「話してくれるのを待ってようかなって」
そう言って、私が泣き止むのを静かに待ってくれていた
「…実は明日転校するの」
「…そっか、なんで泣いてたの?」
「もう、絵やお話を見れない、会えなくなると思ったら悲しくなっちゃって…」
「…そっか。寂しくなるね。僕は絵やお話を書くのが好き、将来はそういう仕事したいと思っている。必ず有名になるから、その時また見てくれたら嬉しい」
「うん!見る絶対見る!約束!」
「うん、約束だよ」
なんか昔の事思い出したな〜
それから私田子森 唯(たごもり ゆい)は、転校先で順調に学校生活を送り、大学まで卒業し社会人4年目になっていた
仕事にも慣れ後輩もでき、大変だけど充実した毎日を送っていた。
「仕事終わったー!今日も疲れたなー!いつもの所で癒されよー!」
私には唯一の癒やしの場所がある、それは昔ながらの雰囲気の喫茶店だ
賑やかな街の中にあるお店だけど、店内は静かでゆっくりとした時間が流れている
私は、この店に行くといつも決まった席に座る
カウンター席でお店の主人の働く姿を眺めながら、コーヒーを飲む瞬間が心が癒される
カランカラン
あれ?今日は特等席の隣にお客さんが座っている
別の席に座る?
でも、癒やしだしなー
申し訳ないけど、隣座るか
「唯ちゃんいらっしゃい」
「いつものください」
「はーい」
「すみません、隣座りますね」
そう隣の席に座る男性に声をかけた
「どうぞ」
いきなり話しかけられたその人は驚きながら答えてくれた
「お客さんすみませんねー、彼女特等席があって必ずその席に座るんですよー」
「だって作ってるの見たいんだもん」
「はいはい」
そう言いながら主人は、コーヒーを作り始めた
その姿をゆったりしながら見ていた
ふと隣の席を見ると、原稿用紙にびっしり文字が書かれていた
「小説書かれてるんですか?あっ、勝手に見てすみません。」
「いえ、見える所に置いてた僕が悪いんで。一応小説書いてます」
「ちょっと!唯ちゃん!彼有名な小説家さんだよ!最近も賞取っていたんだよ」
「えっ?そうなの?すみません…家テレビ無くて…」
「いえ、別に気にしてません。」
「すみません…あの、失礼な事言ったのに申し訳ないのですが、今書かれている小説読ませてもらってもいいですか?」
「途中ですが、よければどうぞ。」
そう言って差し出してくれた
この字、彼に似てるな…
そんな訳ないよね…
そのお話は、心がほんのり暖かくなる内容で
思わず涙がこぼれた
「なんで、、、、泣いてるんですか?感動ものを書いたつもりはなかったのですが…」
「…心がほんのり暖かくなるお話ですね」
「あっ、ありがとうございます」
私がそう言うと、彼は昔のように照れたようにはにかんで笑った
「…もしかして、雄大くん?」
「なんで、本名を?…もしかして唯ちゃん?」
「うん、そう、…久しぶりだね」
「…やっと会えた、会いたかった」
「私も会いたかった、本当に有名になったんだね」
「だって約束したでしょ?唯ちゃんに見つけて貰えるように頑張ったんだ。まさかこんな形で再会するとは思わなかったけど。もう会えないかと思ったから嬉しい。」
「2人とも知り合いだったんだ。」
「えぇ。小学生の頃隣の席だった子で読者1号なんです。」
「そうなんです。雄大くんのお話大好きで絵も上手だったんですよ。でも、私が転校したのでそれっきりで…。今日本当に久しぶりに会ってびっくりしました」
「仲良しだったんだね、唯ちゃんコーヒーどうぞ、お二人ともごゆっくり」
「ありがとうございます、コーヒーおいしい。」
2人は、転校後の話から今までの話をたくさんした
「あの頃と変わってない唯ちゃんでよかった」
「変わってない?小学生のまま子供って事??」
「違う違う、感受性が豊かな素敵な子って事」
「そうなの?ありがとう、雄大くんもあの頃のまま優しい人だね」
「唯ちゃんだけにだよ。他の人には全然優しくないと思うよ。」
「え?私だけ?なんで?」
「えっ…それは…」
「聞いちゃいけない事聞いちゃった?」
「そうじゃないけど…えっと…」
「小説家になったのは、有名になって初恋の子に読んでもらうためって言ってたの誰かな〜?」
「ちょっ、なんで勝手に言うんですか!!」
「せっかくのチャンスなのにウダウダしてるから助け舟出した方がいいかなーって」
「昔からの仲だからって言っていい事と悪い事がありますよ!」
「ごめんごめん、でももう言っちゃったしなー」
「はー。…ごめんね。」
「初恋の子?チャンス?それって…もしかして…まさかよね?」
「…うん。ごめん。そのまさかなんだ。あの時僕の作品を見て心が暖かくなるって褒めてくれるのが嬉しくて、またそう思ってほしくて書いてた。あの時間が好きだった唯ちゃんと話す時間、そんな僕の作品を見て感受性が豊かな表情を見せてくれる唯ちゃんが好きだった。よかったら、また友達から始めさせて欲しい。」
「…嬉しい。私もあの時間好きだったし、優しい雄大くんが好きだった。是非よろしくお願いします。」
「そういえば、私よく来てるのに全然合わなかったね」
「いつも朝早くか閉店間近に来ることがほとんどで、この時間に来たの初めてなんだ」
「そうなんだ、今日来てよかった」
「僕も来てよかった」
そうして、2人の止まっていた時間が動き出した
隣の席 @tori-kuroneko
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