世界樹の守護者(笑)
塚上
序章
第1話
世界を循環する超エネルギー魔素。生あるモノは魔素を取り込み魔力へ変えることで本来は持ち得ない力を発揮する。
人間にとって魔力は生活の基盤であり、なくてはならない物。その魔力の根源である魔素を作り出すのが世界樹と呼ばれる巨大な大樹であった――という設定。
余命残り僅かという状況で意識を手放したとある高校生。彼が目を覚ましたら人気RPGゲーム「世界樹の守護者」の世界に来ていた。しかも主要キャラに憑依する形で。
「死に際の妄想か? ……なら楽しみますか」
生まれた時から病弱で何度も入院をしていた。退院してもまた入院と灰色の人生を送っていた。基本運動禁止で遠足や修学旅行などのイベントもNG。そんな子供に友達など出来るはずもなく。本当につまらない生活だった――『世界樹の守護者』に出会うまでは。
ゲームなんてバカバカしいと思っていた。くだらないことに時間を割くくらいなら、本を読んだり勉強した方が余程有意義だと。何となく目に付いたそれを親に買ってもらいプレイするまでは。
「クラウス、だよな……?」
世界樹の守護者クラウス。
赤青黄色と現実離れした髪色の人間が当たり前のように生活する世界においてもクラウスは異色と言える。髪は青味がかった銀髪で夜空に浮かぶ一番星のように輝いている。
眉目秀麗。容姿端麗。主人公パーティに劣らぬルックスはゲーム内でもイケメン扱いされていた。さらに見た目だけなく中身も男前だった。作中での立ち振る舞いやセリフ、立場からくる葛藤。メインキャラ達を助け時に敵対もする。そして重要な役割を主人公に託して最後は死亡する。……滅茶苦茶かっこいいキャラだった。人気投票は常に一位でシリーズ作品全体でも人気がありすぎて殿堂入り。まさに無敵。
「俺なんかがクラウスで大丈夫なのか?」
自然と込み上げてくる不安。
これは死にそうな自分が抱く妄想なのだと理解しているが、例え妄想であっても『世界樹の守護者』の世界を汚すことなどあってはならない。灰色だった人生に色を与えてくれたのだから。
(――完璧に演じなければ)
観客は自分自身。そしてキャストの一人も自分。
誰もが納得する物語を登場人物の一人として築き上げる。妥協はダメ。失敗もダメ。守護者クラウスなら尚のこと。超人気キャラクターが醜態を晒してしまえばクレーム殺到だろう。下手をすれば打ち切りかもしれない……そんなのは嫌だ。
「となると先ずは……」
巨大な世界樹を見上げる。
何故自分がクラウスに憑依していると分かったのか。それは目の前に広がる光景――大樹を目にしたからである。
この世界と隔絶された閉鎖空間に根を張る世界樹。地脈を通じて世界に魔素を循環させるそれは世界の心臓と言っても過言ではない。
世界の成り立ちでもある異様にデカい樹を守ることがクラウスの役割。ならば守護者に相応しい力を身に付けなければならない。――そう、魔法だ。
魔素を取り込み魔力へ変換し、適した手順で消費することで顕現する魔法。現実世界にそんな物はないがここはゲーム世界(妄想)。魔法を放ち、剣や槍で時に自分よりも大きな敵に挑むハードモードなのだ。世紀末の荒波に呑まれぬよう自分も頑張らなければいけない。
「クラウスは全属性使用可能な超チートキャラ。素質はあるはずなんだ」
能力を活かすも殺すも自分次第。
ゲームでは正式なプレイアブルキャラになることはなかったが、一時的なスケットとしてパーティに加わった時は途轍もない性能をしていた。
無限に近い魔力パラメーターで上級魔法をバンバン撃つことが可能。固有スキルで詠唱時間短縮に魔法の妨害を受け付けない鋼体。魔法で生み出す武具で近接戦闘もこなせる。極め付きはヒーラー顔負けの回復魔法まで扱えること。まさにチートキャラだった。
メタ的な目線で言えば公式お気に入りの忖度ですねで終わるが、クラウスの強さにはちゃんと理由が用意されていた。
魔力の源であり、世界を覆う魔素の生みの親である世界樹。それと魂レベルでリンクしているからこその強さだったのだ。世界樹から魔素を引き出し自らの力とすることが可能な守護者は通常の人間とは異なる。身体が、魂の構造が根本的に違う彼は公式から『
(まぁ、結局は世界樹頼りのイキりキャラって一部では批判されてたけど)
イキりが何だ。借り物がどうした。チートだろうが何だろうが、かっこいいんだからいいじゃないか。どれだけ凄い力があっても使いこなせないなら意味がない。凡人に守護者は務まらない。クラウスだから出来たのだ。
謎の擁護をしながら決心する。
これから始まるであろうストーリーでクラウスがただのチートキャラだと批判されないように。逆にアイツ弱くね? とバカにされないように。そして、主人公達に引けを取らないメインキャストとして肩を並べる為に。
大団円のクランクアップを目指すのだ。みんなが笑顔で終われる物語を作り上げることが、この妄想の主である者の責務だと信じて。
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