第14話 ノブレス・オブリージュ

 本日は木曜日。

 「小宮廷」とも称されるヴェルサイユ中等学園では、宮廷での活動に則り、毎日様々な行事などを開いているのですわ。

 わたくしはギーズ家の令嬢ですので、それを取り仕切るのが、暗黙の、ではございますが、義務ですの。


「夏は食堂が暑くなるため、窓を増やすなどの対応策を講じてほしいとの意見がありました」

「デストレ侯爵子息、同じような意見は音楽室などからも寄せられているのよ。全てを改装していたら、とても予算が足りないわ」

「まあ、優先順位からいえば、利用者も利用頻度も最も高い食堂ですわね。ボワセロー侯爵令嬢、その点においてはどう考えていらっしゃいますの?」

「たしかに食堂も大切でしょう。ですが、音楽室の要望に関しては長年寄せられていながらも解決されていな」

「アリアンヌ様!」


 あら、珍しいお客様がいらっしゃいましたわね。

 学園の運営に関して討論するこのサロンには、普段はいらっしゃらないのに。

 どうなさったのでしょう、ラファエル王太子殿下のこともあって、少々不安ですわ……。


「シャロウン男爵令嬢、ごきげんよう」

「ご……ごきげんよう!」


 まぁ……!

 シャロウン男爵令嬢が挨拶を返してくださいましたわっ。

 挨拶が無視されてしまうのは虚しいですもの、嬉しくてたまりませんわぁ。


「それから、え~っと……」


 なんですの、もじもじなさって。

 もっと背筋を伸ばして自信を見せてくださいまし。


「そのぉ……ありがとうございました!」


 お礼……思い当たりませんわね、わたくし、何か良いことでもしましたの?

 とりあえず首を傾げ、続き説明を促してみましたわ。


「昨日の朝のことです。助かりました」


 昨日の朝……あぁ、あの、廊下をともに走ったことですの?!

 たったあれしきのことでお礼をおっしゃりにいらっしゃるなんて――なんて律儀な方でしょう。

 正直、見直しましたわ。


「お礼を言われるほどのことではございませんわ。いわば、高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュですもの」

「はぃ……?」


 あら、もしかして。


高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュ、ご存じないの?」

「知っていますが……それで片付けられるほどのことなのだと、驚きました。わたしは今まで、見返りのあることしか行ってきませんでしたから」

「少々認識が間違っていますわよ」


 怪訝そうな顔ですわね。


「わたくしたち貴族は、平民の方々に常日頃助けられて存在しているのですわ。それに対してわたくしたちが同じように――いえ、その人数差をおぎなうため、同等以上に尽くす義務があるんですの。そして」


 ギーズ家があるのは、平民な方々のお力だけではございませんわ。


「自分よりも低い階級の方々を守り、導き、時には庇う。これは、高位貴族に――我がギーズ一門に生まれた以上は、必ず行わなければならないこと、生涯にわたっての責務なのですわ」

「ですが、あの――罰則を、受けられたと……」


 あぁ、そんなことを気にしていらっしゃったんですの?


「先生方の資料のまとめのお手伝いというものは学びが多いのですわ。外聞が悪いので罰則としては受けたくはございませんが、毎日行いたいくらいでございますわ」

「そ、うですか……」


 なぜそこで頷かないんですの?

 普通、資料の内容がとても興味深いので、もっと行いたいと考えませんこと?


「アリアンヌ様!」

「はい……?」


 急に元気になりましたわね、シャロウン男爵令嬢……。


「わたしは負けません、絶対すぐに追いついてみせます!」

「え、えぇ……?」

「失礼しました!」


 ……?

 何が何やら、わかりませんわ……。

 これは、突然宣戦布告された、という認識でよろしくて?

 わたくし、そもそもなぜシャロウン男爵令嬢に競争相手リバル認識されているのかが理解できていないのですけれども……。

 やはり、シャロウン男爵令嬢はタンペットの如きお方でしたわ。

 意外と素直なお方でもございましたけれども。

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