世界の果てに、私と君と

名月 楓

世界の果てに、私と君と

ザザザ───

手元の古びた発信機から電波が乱れた音が聞こえる。文明が滅びて終末を迎えたにも関わらず、今まで問題なく動いていた方が奇跡なのかもしれない。

あるいは彼の身に何かが──


ザザ……し……ザ……もし……ザザ


「もしもし?何か言おうとしてる感じ?電波が悪くてうまく聞こえなくてさ」


あー……ザザ……かった……ザ……移動……


「うーん、こっちのは聞こえてるみたいだね」


『あ、あー、もしもし?聞こえてる?』


「聞こえてるよ〜」


『よかった、建物の中だから電波が乱れたみたい、場所移動したのが正解だったね』


「こっちもよかった、ついに発信機が壊れちゃったのかと思ったよ」


そんな無駄口を叩きつつも内心とてもホッとしていた。この終末世界で唯一他人との繋がりを持つことができるのがこの発信機で、唯一繋がれる他人が彼なのだから。


『こっちは特に何も見当たらなかったよ、最低限の食糧確保ができたくらい』


「こっちも何も、合流しようにも現在地がわからないし地図も何もないからね」


『まだしばらく根気強く探してみるしかないね』


この世界は荒廃している。建物は瓦礫の山となり、かろうじて一部の建造物が残っているくらいだ。そして不気味なことに、私以外人1人、ましてや死体一つすらない。瓦礫の中から食糧を探すのがやっとなこの世界で、私は奇妙な機会の中で目が覚めた。体内をスキャンする医療機器のようなカプセルから出ると、そこは何かの研究所のようであったが、ひどく荒れ、壁には大きな穴が開いていた。そして、私はそれまでの記憶を全て失っていた。

ここがどこであるか、私が誰であるか、今までの人生はどうであったか。

私はそれらが私の中に不在であることに酷い孤独を感じて研究所から出て、自分を探し、その日生きるためのものを集める旅に出た。

その最中、この発信機を見つけたのだ。


「それにしても夜は寒いな……そっちはどうなの?」


『うーん、ちょうどいいくらいかな』


「やっぱだいぶ離れてるのかなぁ」


『温度の感じ方は人それぞれだからそうとも限らないよ』


「……そうだね」


彼は無意識かわからないが、ポジティブにいてくれて、私の心を支えてくれる。

この度を続けられるのも、彼のおかげだ。


彼も私と同じような境遇だった。私とは違う研究所で目が覚め、旅をしていた。一つ違うとこがあるとしたら、彼の発信機は彼が目覚めた場所にあったことぐらいだろうか。彼はその発信機に連絡がくることを待ち望みながら、1人孤独な旅を続けていたのだ。


ピー ピー


「あ、充電無くなりそう」


『そろそろ時間か、最初手間取ったから思ったより短かったね』


「うぅ……明日は長く話せたらいいな」


小さな声で本音を漏らす。


『大丈夫だよ、たくさん話そう』


聞こえていたのか、彼はひどく優しい声で私を慰めてくれる。


『それじゃあ、また明日』


「うん、また明日」


プツン


好きだ。

どうしようもなく。

いわゆる吊り橋効果だったとしても構わない。単純接触効果だったとしても構わない。とにかく彼のことを好きになってしまったのだ。

しかし、それを発信機越しに伝えられても、このを合わせることができない。そんな寂しさを抱えながら今日も夜を越す。明日になったらまた電気食糧を探さなきゃ。そして、また彼と話すんだ。


彼は私の希望であり、愛であり、哀しみであった。

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世界の果てに、私と君と 名月 楓 @natuki-kaede

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