第7話 佐々波とのおしゃべり。


 その日の放課後、天童は、旧体育館の地下にある剣翼工房に来ていた。


 野球場の倍くらいの広さがあるその地下工房では、

 常時、十人くらいの技術士官適性を持つ候補生が、

 与えられた各スペースで、剣翼の調整や改良を行っている。


 どのブースも、とにかくサイエンス感がハンパなく、

 技術者は、常時マルチエアウィンドウが浮かんでいる特殊なゴーグル付きヘッドギアや、

 ゴッテゴテのサポート用サイバースーツを着用しており、

 『様々な機能が搭載された特殊テーブル』の上で、

 『プカプカ浮いているバラバラ状態の剣翼』に、

 『先が光っている妙な棒』を当ててバチバチやったりしている。


(あれ、確か、アーク溶接棒じゃねぇんだよな……なんつってたか……忘れたな)


 正式名称は『EECR(最高エネルギー宇宙線)拡散加速収束棒』。

 この世で、唯一、主の加護がかかった剣翼に傷をつける事が可能な、

 剣翼解体・接続用の溶接棒。


(しかし、見事なほどの異常空間だな。その辺に転がっている端末一つとっても、訳がわからねぇ)


 燻し銀の手すりが片側についた細い螺旋階段を下りながら、

 この異様な光景を眺めつつ、

 天童は、


(確か、ここにあるのは、どれだけシンプルな機械であろうと、人間では絶対に届かないレベルの技術が使われているんだっけ? そりゃ、まあ、それを扱えるとなれば、戦闘免除の特別扱いも納得だな。『ラクしやがって』とムカつきはするが)


 佐々波のように『ほぼ毎回戦闘員として戦場にでる者』など異端も異端の例外で、ほとんどの技術士官は、ちょっぴりの後方支援で少しだけ昇格ポイントをためると、あとは工房にひきこもる。


(最低でもカメラアイ持ちのマシンエンジニア系サヴァンであることが条件だから、適合者がきわめて少なく、ゆえに優遇されるのも当然といえば当然なんだが……)


 『ほとんど戦場に出なくとも天使に成る事』が許されるほど、技術士官適性は稀中の稀。


(つーか、マジで、こいつら、イカれてるよなぁ。使っているプログラム言語からして、アストラルなんとかっつぅ、まったく意味不明なランゲージだってのに、平気でひょいひょいイジっていやがる。俺なんざ、すでに完成しているモジュールの組み合わせだけでもヒーヒー言ってんのに、あのアホ女は、それを、CLIでゼロから組むっつぅんだから、ほんと、異常どころの騒ぎじゃねぇ。マジで、あのバカ、どんな頭してんだろうな)


 技術者でもある佐々波が『天童を工房に呼び出した理由』は、

 もちろん、大佐昇進に伴い支給された、天童久寿男専用剣翼の件。


「……ん? ……ぁあ、いたいた」


 地下に降りて、すぐ右手にある、広さテニスコートくらいの専用ブースで、淡々と、マジメな顔で、支給されたばかりの剣翼のチューンアップをしている佐々波の背中に、天童は声をかける。


「おい、バカ」

「ん……あ、センセー、遅いっすよ」


 天童の顔をみるやいなや、ニカっと笑顔を見せる彼女に、


「お前のせいで、なだめるのに時間がかかったんだろうが。作楽の前でだけ過剰にハシャぐ例のアレ、マジでやめろ。面倒くさくて仕方ない」


「それは無理な相談っすねぇ。ボクがセンセーに絡んでいる時の、トコちゃんの反応、ハンパなく可愛いっすから。一日一回は、あのトコちゃんを見ないと、精神が安定しないんすよ」


「特殊すぎる変態だな。というか、年上の先輩をちゃん付けで呼ぶな」


「ボクの方が階級は上なんだから、別にいいじゃないすか。あと、純粋にセンセーの事、好きだから、スキンシップをやめるのもイヤっす」


「俺は、俺の命令を無視するばかりのお前が大嫌いだ」


「またまたぁ。こんなにスタイル抜群の巨乳黒ギャルJKが嫌いな男なんて、いるわけないっすよぉ」


 自分で自分の胸を揉みながら、くだらんことを抜かすバカに、イラっとしたので、


「鬱陶しい。どんだけ自慢か知らんが、いちいち、胸をアピールするな。だいたい、小さいとは思わないが、そこまで言うほど大きくもないだろう」


「ボクのおっぱい、Fっすよ。かなり大きいっすよ。センセー、巨乳系のAV見過ぎなんじゃないすか? GとかHなんて、ただのおとぎ話っすよ」


「おとぎ話に巨乳は出てこん……というか、俺は、AVは見ない」


「男子高校生がAVを見ないだなんて、映画評論家が映画は見ないと宣言しているようなもんすよ。訳わかんないっす」


「大尉。男子高校生をAV評論家扱いするのは、今すぐやめたまえ」


 天童は、佐々波の猛攻をサラリとクールに受け流してから、

 スっと視線を外し、少しだけ遠くを見て、


「トラウマがあってな。見たら、吐いちまうんだよ」


「マジすか。センセーこそ、特殊な変態じゃないすか」

「……そうだな。その件に関してだけは、ぐうの音も出ねぇ。無邪気に『AV大好き』って言っている方が、まだ健全で正常だ」




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