第2.5話 救われたんだよ

なんであんなこと言われたんだろう。

“俺が一生傍にいる”――なんて。

あんなセリフ、少女漫画でも

そうそう聞かないってのにさ。

でも...嬉しかった。

胸の奥が、ぎゅってなった。

怖いって思ってた“誰かを信じること”が、

ほんの少しだけ、いいかもって思った。

そんな気持ちが抑えきれず、

彼、如月蒼真くんのクラスに来てしまっていた。

(ちょっと緊張するなぁ)

異性に自ら話しかけに行く、だなんて

経験が乏しいことなので緊張してしまっている。

「はぁぁ...」

1度深呼吸し、教室の扉を開けた瞬間、

いくつもの視線が私に集まった。

でも、そんなの気にしない。

如月くんに会うって決めたんだもん。

彼の背中が見えた。机に突っ伏してて、

何かに悶えてる様子だった。

(...何してるんだろう)

「如月くん」

「ッ!?」

声をかけると、ぴくっ、と肩が跳ねた。

とても驚いているようで

その反応が少し可愛かった。

顔を上げた如月くんと目が合った瞬間、

何故だがドキドキしてしまう

「ここ、座っていい?」

「あっ...ちょっ...」

一応、確認してみたけど...

答え聞く前に座っちゃった。

...だって断られたら困るし。

「...えっと、何か用か?」

如月くんは戸惑った様子で尋ねてくる。

「昨日の言ってくれたこと、ちゃんと覚えてる?」

そう問いかけたときの彼の顔が、

真っ赤になるのが面白くて、つい笑ってしまう

...でも本当は、私の方が緊張してるんだよ?

こんなふうに、自分の“気持ち”を口にするのって…すごく、すごーく怖い。

「...っ、あぁ、うん。忘れるわけないだろ」

そう言って顔を逸らす彼の頬が、

少し赤く染っていて、思わず微笑んでしまう。

「そっか。よかった」

言葉にならないくらい、嬉しかった。

自分が必要とされてて、生きてていいって

如月くんが本気で私に伝えてくれた。

「昨日ね、恥ずかしくて走り去っちゃったけど...」

袖を掴んだのは、きっと無意識。

「凄く嬉しかった」

「なっ...!」

でも、なんだか掴んでないと、

自分の不安がこぼれそうで...

彼の体温が伝わってきて、少し安心した。

「ちょ、ちょっと甘凪さん? 距離が…」

クラスがざわついてるのはわかってる

男子たちの視線も、女子たちのひそひそ声も

でも...今はどうでもいいや。

「そうかな?これくらい普通だよ」

なんて、そんな嘘を言ってみる。

「いや、違うよね?」

「...バレちゃった?」

思わず悪戯っぽく笑ってしまう。

こんな何の変哲もない会話が今は凄く楽しい。

「顔真っ赤だね」

「見ないでくれ!」

机に顔を伏せる彼の姿を見て、

私はクスッと小さく笑ってしまう。

(でも、私もなんだよ?)

如月くんは気付いてないかもだけど

私もとてもドキドキしてる。

「え、え、ちょっと待って? 」

「甘凪さんと親しそうに…」

「え、如月って甘凪さんとどんな...?」

周りのざわつきが大きくなっているが

もう、心の底からどうでも良かった。

「ね、如月くん」

「...どうした?」

如月くんは真っ直ぐと私の目を見てくれる。

「私さ、誰かを信じるのが怖くなってた。

でも、如月くんなら…大丈夫かなって思ったの」

本当は言うつもりじゃなかったのに、

思わず言葉がこぼれてしまった。

君のくれた一言が、

私の中でどれだけ重い意味を持ってるか...

「...」

「だから...ありがとう」

如月くんには、伝わったかな。

「...甘凪」

呼ばれた名前に、ドキッとする。

「俺は何にも出来ないと思うけどさ

信じて貰えるように頑張るよ」

ああ...もう、ダメだ。

私、どんどん惹かれていってる。

「ふふっ、真面目だね。如月くん」

まだまだ話していたいけど、もう時間だ

「じゃ、また来るね。

今度はお弁当とか持ってこようかな」

ちょっとした冗談のつもりだったのに、

彼が固まってるのが面白くて

再度かわいいなって思った。

「その時も、隣座っていい?」

返ってきたのは、優しい諦めのような言葉。

「…もう今さら断れねぇよ」

うん、そう言ってくれると思った。

心の中で、ぼそっと呟く。

(私は、あの日の言葉に救われたんだよ)

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