人間嫌いな僕と竜人の君のラブコメ

黒猫

第1話 竜人の少女

「また振られてしまった」

「これで一体何回目? 君振られるの」

「うるせぇよ、女に困ってない奴はこの苦労分からんだろうな!」

 毎回、毎回、同じ愚痴を聞かされる、僕の身にもなって欲しい。

 どうしてそこまで彼女が欲しいのか。

 コーヒーカップを持ち、喉に流し込む。コーヒーを飲むと、カフェの音楽も相まり、最高の気分。

「おい! 聞いてるのか」

「聞いてるよ、僕には分かんない感情だよ」

 目の前にいる友人......陸は深々と溜息を吐き、肩をポンポンと叩く。

 と、真剣な顔つきになり。

「俺はお前が憎い! いつも、いつもそうだ。俺の所に来る女子はな」

 またいつもの決まり文句。流石に聞き飽きた。

 言葉を発す前に、席にあるご自由に取っていいクッキーを一つ手に取り、口へ捩じ込む。

「クッキーでも食べて、落ち着きなよ」

 残りのコーヒーを全部飲み干す。

 暖かく、ほどよい苦さが口に充満する。

 4月だというのに、未だ寒い、この季節に飲むコーヒーは美味しい。

「陸さ、一つ聞いてもいい?」

「内容によっては殴るけど、いいぞ」

「どうしてそんなに彼女が欲しいの?」

 僕の質問に、先より大きな溜息を吐き、肩を上げ、がっくりと脱力。

 ずっと首を左右に振ってる。

 なんか馬鹿にされてる気分だ。

「詩音さ、俺らもう高校生だぜ? 青春を謳歌する年頃だ!」

「別に恋愛だけが青春の全てじゃないよ?」

 実際、僕は陸と遊んでる方が楽しい、これこそ青春なのでは!?

 次の瞬間、頭に鋭い痛みが走る。

 思ったより頭が痛く、抑えながら陸をキッと睨む。

 絶対今、チョップをいれたな!

「俺は可愛い彼女とイチャイチャしたい!」

 謝りもせず、欲望を僕に語るだと?

 怒りの感情が脳を支配するレベル。

 机の下から見える足を思い切り蹴る。

 机がドンっと少し上に跳ねる。

 クッキーが机に溢れる。すかさず店員がこっちへくる。

「お客様! 一体これで何回目ですか!? 次やったら出禁にしますからね」

 僕と陸はこのやりとりをもう何回もしている。今の僕たちはこのカフェの常連。

 言い様だな、思わずフッと鼻で笑ってしまう。

「あ、すいませんブラックコーヒーおかわりで」

 僕の空気を読まない注文。

 さっきまでの空気が嘘のように、和らぐ。

「了解しました」

 店員はスキップをし、厨房へと帰っていく。

 「お前やりやがったな……」

 コーヒーが届き、飲みながら陸へ返す言葉を考えていると、チリンチリンと、扉の鈴が鳴る。

 フードにサングラス。

 一見不審者、それか芸能人でも入ってきたような格好。

 一瞬で注目の的へと変わる。

 コーヒーを啜り、陸の方へ視線を移す。

「あ、そうだ知ってるか詩音? 明日転校生が来るらしいぞ」

 「ふーん」

「どうでもよさそうだな」

 実際、どうでもいい。僕には一才関係ない話。

 目を瞑り、陸の言葉を聞き流す。

 「キャッ」女子特有の高い声音。

 陸がすっと立ち上がり、どこかへと向かう。

 僕も後ろへ着いて行くように立ち上がる。

「おい、あんたら何してる、その子嫌がってるんだからやめてやれ」

 金髪にサングラス、屈強な体付きをした男が、先来た客の腕を掴んでいる。

 女の子だったのか。

 女って分かるとすぐ助けに行く、相変わらず陸は単細胞。

 陸の言葉に対し、金髪の男が腕を振りかぶる。近くにいたフードの子に当たり……。

 パリンと床にサングラスが割れる音と共に、尻餅を着く。

 尻餅を着いたことによりフードが取れる……ッ!!

 僕は目を見開く。

「あはっははは。見ろよこいつ」

「痛いっ、やめて」

 金髪の男は腕を掴み、無理矢理に立たせる。

 綺麗な透き通るような瑠璃色の髪、少しでも見てしまえば、目を釘付けにしてしまいそうな綺麗な紺碧の瞳。

 僕の心臓はうるさいくらい、ドクンドクンと跳ねる。

「こいつ竜人だぞ」

 男の声が店内に木霊をするが、僕はそんなことよりも少女を見続けている。

 綺麗な瑠璃色の鱗が重なった尻尾。

まるで金髪の男に抵抗をするように左右へ揺れ、攻撃をする。

 幼なさを残しながらも大人びた顔立ち。

 僕は生まれて初めて、異性に対して見惚れている。

「売り飛ばしたらいい金になりそう」

 彼女は人間じゃない、一目瞭然だ。

 だけど僕の心はいとも簡単に奪われてしまった。

「お客様、これ以上騒がしくすると、警察を呼びますよ!?」

「いいのか? 亜人を易々と店に招き入れる、俺よりお前らの方が」

 竜人の可憐な少女は今にでも泣きそうなくらいに、目尻に涙を溜めていた。

「いい加減、その汚い手を彼女から離せよ」

 考えるより先に言葉が先行し、行動へと移る。

 僕の体は勝手に、金髪の男の手首を掴み、軽く捻った。

 面白いほどに男は宙へ浮かび、空中抵抗に抗がえず、床へと激突。

「君、大丈夫?」

「え、ありが……」

 返ってきたのはお礼ではなく、首を噛まれた。

 ……数十秒、数分と感じた痛みがだんだんと薄くなる。

「助けてヒーロー気取りか!」

「テメェ、助けて貰ったのにお礼も言えないのか!!」

 噛まれた場所をさすり、手を見るとべっしり血が付いてた。

「誰も助けなんて求めていない! 私は人間なんて大嫌いだ!」

「このクソガキ」

 陸の言葉を覆い被せる。

「君みたいな綺麗な子、初めてみた」

「え、あ……は?」

 僕は少女の両手を掴み。

「君に一目惚れした、僕と付き合って欲しい!!!!」

 少女の顔がみるみると、赤面をし、口をぱくぱくと、声にならないほど高音がカフェ内に鳴り響く。



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人間嫌いな僕と竜人の君のラブコメ 黒猫 @kuroneko211

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