第17話 イーグル辺境伯

 

 俺と母さんとエリスとサヤは、イーグル辺境伯領都の中央にある、イーグル辺境伯の御屋敷の前に居る。


 すると、どうやら俺達がイーグル辺境伯に会いに来る事が事前に分かっていたのか、普通に屋敷の中に案内される。


「イーグル辺境伯の間者がずっと、監視してたから、どうやらマスター親子がイーグル辺境伯に会いに行く事も筒抜けだったみたいですね!」


 どう考えても、サヤの仕業なのにわざとらしい。


 俺は、イーグル辺境伯の間者が隣の部屋で監視してるのを解ってて、サヤが大きな声で、俺達親子がイーグル辺境伯に会いに行く事を独り言のように、壁に向かって話してたの知ってるし。


 しかも、サラス帝国に命を狙われて困ってるとか、俺達親子がエリスの身内である事を、大声で喋ってたし。


 一応、この世界に戸籍があったならば、母さんは、エリスの義娘で、俺はエリスの孫になるのは事実だしね。


 そんでもって、俺達親子だけじゃなくて、エリスまでも俺達の身内として、イーグル辺境伯に会いに行くとしたら、前回に、俺と母さんがイーグル辺境伯に会った時の状況とは全く違う状況になっているという訳だ。


 俺は、父が亡くなり、爵位を取りあげられた平民の子から、この国でも地位が高いS級冒険者エリスの身内で、しかもエリスは、自分の姪っ子が作った元S級冒険者パーティー『熊の鉄槌』の結成メンバーで、しかもイーグル辺境伯にとっては、可愛い姪っ子エリザベスの親友エリスの孫な訳である。


 そりゃあ、もう姪っ子エリザベスを可愛がってたイーグル辺境伯にとって、俺達母子は、全力で守らないといけない対象になってしまってたという事だ。


 イーグル辺境伯は、『イチャイチャ恋愛キングダム』の設定で、長男の孫である『恋愛イチャイチャキングダム』の主要キャラ、剣姫カレン・イーグルを溺愛する孫バカぶりは、とても有名な話しであるのだ。


 基本イーグル辺境伯は、イーグル辺境伯の血が濃い、自分と似てヤンチャな女の子の姪っ子や孫を溺愛する性質であるのだ。

『恋愛イチャイチャキングダム』の中でも、ヤンチャな孫娘のカレン・イーグルを溺愛してる場面が結構出て来ていたし、なので、カレン・イーグルと良く似た性質と思われる、姪っ子エリザベス・グリズリーも溺愛いしてたのは想像出来るしね。


 そして、俺達は、妙に無骨な、豪華な装飾などは何もないのだけど、石造りの廊下に、熊や虎や凶悪な魔物の首や剥製が、ところ構わず飾られてるおどろおどろしい廊下を突き進む。


「廊下に飾られた魔物の首や剥製、それから廊下に敷かれてる虎柄の絨毯も、全て辺境伯様、自らが狩られた獲物でございます」


 なんか知らないが、辺境伯が居る部屋まで案内してくれてる、どう考えても貴族に仕える執事には有るまじき、筋肉隆々のゴッツイ、顔に剣の切り傷まである執事が、魔物の首や剥製にビビり気味だった俺に説明してくれる。


 俺は、小さい時、イーグル辺境伯の屋敷に母さんと一緒に来た事あるのだけど、まだ、ほぼ赤ちゃんだったので、魔物の首がたくさん飾ってある事など、そもそも全く記憶が無いのである。


 まあ、イーグル辺境伯は武闘派として有名で、『恋愛イチャイチャキングダム』の設定でも解っていた事なのだけど、生で凶悪の魔物の首ばかり、ズラリと飾られてる廊下を見たら、相当怖くて、おどろおどろしいんだから……


 そして、イーグル辺境伯が居ると思われる、これまた大きくてゴッツイ鉄扉の前に来ると、ゴッツイ執事さんが大声で叫ぶ。


「S級冒険者エリス様と、その身内の方々が遊びに来られました!」


「構わん!入れ!」


 これまたデカくて、低いのによく通る声が、部屋の中から聞こえてくる。


 すると執事さん自ら、そのゴッツくて重そうな鉄扉を、ギギギギギッ~と開けたのだった。


 多分だが、この無骨でデカくて分厚い鉄扉を開ける為に、このゴツイ執事さんを雇ってると思われる。

 普通の執事じゃ、絶対に開けれないと思うし。


 そして、そのゴッツイ扉を開けると、上座の高い所に、これまたゴツくて、大きな筋肉隆々のガタイの赤髪のイーグル辺境伯が、これまたゴッツイ無骨ななんの変哲もない丈夫そうな椅子に、でん!と座っていたのであった。


「オオッ! エリス来たか! いつ、お前の身内達を連れて来てくるのかと、首を長くして待っておったぞ!

 これで、おおっぴろげで、ドットの嫁や息子を守ってやれるわい!」


 イーグル辺境伯は、昼間から酒を飲みながらご機嫌である。


「グロリアは私の義娘で、テッタは孫で、サヤはお母さん」


 エリスは、また、訳の分かんな説明を、眉1つ動かさずに、いつものクールビューティーな顔で言う。


「ガッハッハッハッ! エリスはいつも意味不明じゃな! 兎に角、ドットの息子を暗殺出来なかった、サラス帝国の要人の間抜け面が目に浮かんで、酒が美味いわい!」


 イーグル辺境伯は、エリスの性格も良く解ってるようで、話を普通に聞き流し、もう面倒くさいのか、樽に入ったエールをそのまま飲んでるし。


 イーグル辺境伯は、豪胆な性格だとは聞いてたが、エールを樽のまま飲んでしまうぐらい豪胆な性格とは思わなかった。


 というか、貴族に全く見えないし……

 どう見てと、日本の昔の漫画とかに出て来る世紀末覇者にしか見えないし、しかも、人を圧倒する覇気みたいなモノまで出してる始末……


 そして、イーグル辺境伯は、突然、俺の事を値踏みするようにギロッ!と見ると、


「ドットの息子よ! お前はカララム王国側に付くという事で間違いないのだな!」


 体がヒリつく。まるで帰らずの森の奥深くにいる凶悪な魔物と対峙してるようである。少しでも気を抜くと、気絶してしまいそうだ。


「ハイ!」


 何とか、返事をする事ができた。でも何?この蹴落とされそうな覇気は……こんな覇気、普通、8歳児の子供に向けるものなどではないだろ?


「クックックックックッ、流石はエリスの孫で、ドットの息子だな。ワシの覇気を浴びても平気で居るとは!

 気に入った! お前達親子を、この屋敷に住まわす!

 その方がサラスの暗殺者から守るのに都合も良いからな!

 まあ、その暗殺者が今も、このイーグル辺境伯領に居るかは解らんがな!

 グワッハッハッハッハッハッ!」


 何が面白いのか、イーグル辺境伯は高笑い。


「マスター、どうやら、私達がイーグル辺境伯の屋敷に入ったと同時に、イーグル辺境伯の兵が、サラス帝国の暗殺者を1人残らず皆殺しにしたみたいです」


 サヤが、俺に耳打ちしてくる。


「俺達、親子を泳がせてたのか?」


「マスターがどっちに付くのか、本当に分からなかったのでしょう。イーグル辺境伯は、マスターの父親のドットさんを可愛いがってましたから、出来るなら、ドットさんの息子であるマスターを殺したくは無いと思ってたと思われます。

 だけれども、エリスさんが突然現れた時点で、もうどうにかなるだろうとは、思ってたみたいですけどね!

 カララム王家に対しても、自分がなんとかするので、マスターの暗殺は待ってくれと、イーグル辺境伯自身が頭を下げて、王様に進言してくれてたみたいですし!」


「この酒飲みのオッサン、そんな事までしてくれてたのかよ……」


 なんか、イーグル辺境伯は、思ってた人間と違って、どうやらとても情に厚い人間であるようであった。

 本当に、つい最近まで、イーグル辺境伯の事を薄情な人間だと思ってた自分自身が許せない。


 今思えば、壁が薄い安アパートに、俺達母子を閉じ込めたのも、俺達の事細かな情報を得る為だったと理解できる。

 サヤの話だと、アパートの両隣の住民は、イーグル辺境伯の手の内の者だったらしく、それを解ってたサヤが、イーグル辺境に完璧き伝わるようにと、大声で今日イーグル辺境伯の元に行く事や、俺や母さんが、エリスさんの本物の身内だと解るように事細かく、大声で独り言を言ってたらしい。


 それにより、俺達をイーグル辺境伯の屋敷で保護すると同時に、サラス帝国の間者を皆殺しにする計画が、スムーズに進んだのだ。


 サヤも、辺境惑星観察宇宙船の最新鋭AIの力をフルに使って、イーグル辺境伯の動きをオンラインで逐一観察してたみたいだし、そもそも、辺境惑星観察宇宙船の仕事は、惑星を観察する事が仕事なので、観察する事に関してプロフェッショナルなのであった。


 イーグル辺境伯が気付いてない、サラス帝国の暗殺者の配置とか、大声で教えてたからね。


「あっ! なんかあの建物の中から、視線が感じるな~!」


 とか、


「なんか、あの歩いてる冒険者風の人、マスターの事、ジロジロ見てたよ!」


 とか、


 アパートの部屋の中以外にも、イーグル辺境伯の見張りの人に向かって、解るように独り言言ってたしね!


 イーグル辺境伯の見張りの人達も、途中からやたらとフラフラ飛んで近付いて来て、サラス帝国の情報の独り言を喋り続ける妖精のサヤに気付いたようで、途中からは大いに利用してたようだし。


 それにより、1人も取り逃さずに、サラス帝国の暗殺者を、イーグル辺境伯は始末する事が出来たのだ。

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