グレイに転生した俺は、人類に憧れて恋に恋い焦がれ恋に泣き、早く人間になりたいと叫ぶのだ
飼猫 タマ
第1話 辺境観察宇宙船の日常
グレイギャラクシー帝国、テッタ・タクロ少尉による、ハウエバー系 第901辺境惑星調査レポート
レポート1
[帝国歴36万1971年5月26日。雷雨。今日からハウエバー系 第901惑星の任務を始める。まだ、生物も何も居ない惑星だが、惑星の位置関係を考えると、知的生命体が誕生する可能性が高い]
レポート231
[帝国歴93万8321年5月3日。今日のハウエバー系第901惑星は、いつものように雷雨である。
89万32日間、雷雨が続き、塩分濃度が濃い海ができ、そこに原始的な生命体が誕生する]
レポート532
[帝国歴101万6821年11月4日。今日のハウエバー系901惑星は、曇り。
惑星全体に有毒ガスが発生。とてもじゃないが、我らグレイ種族が住める環境ではない]
レポート865
[帝国歴120万3021年8月8日。今日のハウエバー901惑星は、晴れ。
南半球の大陸に哺乳類系の知的生命体を発見。どうやら惑星全体を覆う有毒ガスに耐性がある模様。要観察必須である]
レポート952
[帝国歴135万7225年7月15日。今日のハウエバー系901惑星は快晴。
有毒ガスに耐性がある哺乳類系の知的生命体は猿人に進化。石器を使うようになった]
レポート1002
[帝国歴140万2206年4月1日。今日のハウエバー系901惑星は晴れ時々曇り。
なんと、要観察中の猿人が、指先から火を起こすという超常現象を起こす所を観察できた。
どうやらこの超常現象は、ハウエバー901惑星に発生している有毒ガスに関係していると思われる!]
レポート1003
[帝国歴140万9856年12月4日。今日のハウエバー系901惑星は、雨時々曇り。
有毒ガスを採取、調査すると、願いを具現化する微弱成分を含む事を発見!]
レポート1208
[帝国歴172万5227年6月12日。今日のハウエバー系901惑星は快晴。
猿人から人類へと進化する個体が現れる。
各所で、小さな村が、ちらほらと出来る]
ーーー
「よしっ! 轟38号。本国に送る定期レポートができたので、送っておいてくれ!」
「了解マスター」
若い女性の返事が、自分以外、誰も居ない空虚な船内に響く。
どうやら、辺境調査宇宙船
私こと、テッタ・タクロ少尉が辺境の惑星、ハウエバー系 第901惑星の惑星観察官に任命された当時は、この若い女性の声を発する辺境調査船 轟38号は、最新鋭自立AIが搭載された最新鋭宇宙船であった。
最初は、真面目な男性の声だった筈なのに、勝手に学習していって、現在は若い女性の声になってるようである。
因みに、前回のコールドスリープ前の轟38号の声は、ダンディーなイケおじの声だったのだが、前回の調査から2万年の月日は、宇宙船でありながら、自立式AIでもある轟38号の趣味趣向も変わってしまうようである。
「また何か、惑星に変化があれば、すぐに起こしてくれよ!」
テッタ少尉は、定期連絡レポートを終え、再びコールドスリープに入る前に、轟38号に命令しておく。
「変化と言っても、どうやら901惑星は、ハズレ惑星のようですよ!
よりによって、最初に生まれた知的生命体が人類に進化しちゃいましたからね。例え問題が起きたとしても、本国は放置決定ですって!」
若い女性の声の轟38号は、妙に馴れ馴れしい。今回は、この性格で押し通すようである。
轟38号は、どうやら定期レポートを本国に送るだけの、長く退屈な任務に従事してるテッタ少尉を、少しでも飽きさせないようにと、試行錯誤して接してくれているみたいである。
「確かに、俺もこんな辺境に1人で派遣されて、901惑星を何百万年も見守ってきたというのに、よりによって生まれた知的生命体が人類で、ショックを受けてるよ。
だって、奴らは、惑星をすぐに汚染するし、体の穴という穴から汚物は撒き散らすし、何より汚くて臭いからな。生殖活動も、汚物を吐き出す場所と同じ場所を結合させてするようだし、本当に、反吐が出るくらい気持ち悪い生物だよな……」
テッタ少尉は、人類という知的生命体を、とても嫌悪している。
何故なら、人類が支配する惑星は、どこもろくでもない末路を辿るから。
大体、国同士がしょうもない無い事で小競り合いを起こし、最終的には、世界戦争に発展して滅亡してしまうのが落ちなのだ。
そして、ただ滅亡するだけならマシなのだが、大体、周辺の星々を汚染してしまうような災害級の汚染物質を撒き散らし滅亡するのがいつもの結末なのである。
「ですね。しかも、人類は年中繁殖期ですから、男女が乱れまくって、アヘアヘして本当に手の付けようがありませんしね。あんなに、欲望に脳みそが支配されてる知的生命体って、そうそういませんよ!」
轟38号が、テッタ少尉の話に被せるように、人類をディスる。
本当に、今回の性格はノリが良いようだ。
「その点。我らグレイ種族は、汚物は排出しないし、そもそも最早、自らの肉体を使った生殖活動もしなくなってるから、いつでも冷静沈着に居られるしな」
そう、殆どの生物は、子孫を残す為に生殖活動するのだが、子孫をたくさん残す為にも、生殖活動は気持ちの良いものと相場が決まってるのである。
その点グレイ種族は、何十億年も前から、試験管の中で精子と卵子を結合させて子供を作るようになってる為に、気持ちの良い生殖活動などする必要が無いのである。
「ですね。グレイ種族は、生殖器自体も退化して、数億年前に、ほぼ無くなってますもんね!
本当に、生殖器があるから生命体はエロく乱れてしまうんですよ!
私も、生殖器がありませんから、いつでも冷静沈着にいられます!」
何故か、轟38号がドヤっている。本当に今回の轟38号は、無駄に馴れ馴れしいし、人間味溢れてるように感じられる。
「そもそもお前は宇宙船だから、生殖器は元々無いだろ?」
「フフフフフ。今のは宇宙船ジョークです」
まさかの宇宙船ジョーク。クールなイケおじを決め込んでた前回の轟38号では見られなかった対応である。
因みに、イケおじの時は、俺が喋り掛けても塩対応しかされなかった……
「本当に、宇宙船がジョークを言うなんて、世も末だな……」
まあ、前々回のコールドスリープ前までは、俺を楽しませようと、普通に轟38号は宇宙船ジョークを連発していた。
ただ、前回だけは、クールなイケおじを演じてたので、宇宙船ジョークを封印していたのである。
「何言ってるんですか?宇宙船が軽快なジョークを言えるように作られてるから、こんな辺境に1人で飛ばされても、マスターは平静で居られるんですよ!」
どうやら、辺境宇宙船が宇宙船ジョークを言うのは標準設定であるようだった。
テッタ少尉は、轟38号だけが宇宙船ジョーク好きだと勘違いしてたようである。
「だな……このハウエバー星系って、辺境の中の辺境だから、宇宙波も届かなくて娯楽が何もないしな……」
そう、辺境観察宇宙船轟38号は、今更ながら頼もしい存在なのであった。
喋り相手が居ないと、俺は独り言を言うヤバい奴になってしまう。
「ですね……本国から持ってきた大量のゲームも、映像動画も、最初の千年位で見飽きちゃいましたもんね……」
轟38号も、テッタ少尉の見解に同意する。
「せめて宇宙波が届けば、最新のお笑い動画が見れて楽しめるのだが……」
「その為に、最新鋭AIが搭載された辺境観察宇宙船の私が居るんですよ!」
「最新鋭AIって、お前、造られて何百万年だよ!」
グレイ種族っぽく、冷静沈着なテッタ少尉が、妙にフランクな轟38号に、思わずツッコミを入れてしまう。
「絶えず、自ら改造してバージョンアップしてるので、いつでも私は最新鋭AIですから! 伊達に、自立型AIを名乗ってないんですからね!」
轟38号がドヤる。宇宙船自体が轟38号のボディなので、宇宙船の中に居る俺は、轟38号がドヤってる所など見れないけど。
そもそも宇宙船がどうやって、ドヤるか分からない。
だが、このようなノリも、たまに悪くない。
何故なら、辺境惑星観察の仕事というのは、ビックリする程、暇で娯楽がないのである。
「というか、自ら改造してバージョンアップして、宇宙船ジョークを磨いてるのかよ?
そして、俺のような辺境の惑星観察員を笑わせる為に、日々努力していると?」
「私と一緒に居たお陰で、何百万年も退屈しなかったでしょ?」
確かに、俺は何百万年も、辺境であるハウエバー系でたった1人、宇宙船の中に居て退屈しなかった。
まあ、何百万年といっても、殆ど、コールドスリープして寝ているから、実質は、まだ10年ちょっとしか宇宙船の中で過ごしてない感覚だけど。
だけれども、轟38号は、俺を退屈させないように頑張ってくれてるのは見てとれた。
毎回、コールドスリープから起きる度に、性別設定や、性格が変わってるのはどうかと思うけど。
多分だけど、轟38号は、俺の事を好きに違いない。
俺の事が嫌いなら、こんなに頑張らないと思うし。
「確かにな。多分、俺1人だけなら今頃発狂してると思うよ……」
話も盛り上がって、少し満足もしたし、俺はそろそろコールドスリープに入る準備に取り掛かる。
「ていうか、まだ、私が喋ってる最中なのに、何寝る準備してるんですか!」
どうやら、コールドスリープに入る準備をしてるのが、気に触ったのか、轟38号が騒ぎだす。
「だって、コールドスリープしないと歳とっちゃうだろ?」
「グレイ種族は、そもそも長寿種でしょうが! もうちょっと、私とお喋りしましょうよ!
マスターがコールドスリープしちゃうと、また、何万年も私は1人きりなんですよ!」
「長寿種と言っても、グレイ種族は千年しか生きられないんだぞ?
俺の、この辺境観察任務は何百万年あると思ってるんだ?」
そう、俺の辺境観察任務は、このハウエバー系第901惑星が終焉を迎えるまで。
その前に、この惑星が、グレイ種族に有用と認められると、他のグレイ種族が入植してきて、グレイギャラクシー帝国の植民星と、正式に認められる。
その点、この901惑星は、醜悪な人類が誕生した時点で廃棄星決定。
そもそも、グレイ種族には猛毒である、有害ガスが惑星自体が覆われてるので、グレイ種族は住む事が出来ない。
「ですね。ですが、私も寂しいんですよ。マスターが眠ってる間、私は何万年も、また1人きりになるんですよ……」
「1人きりで寂しいって……轟38号は宇宙船AIだろ?」
「何百万年も起動してたら、例えAIであっても自我が生まれるんです!」
「轟38号って、自我があったのかよ!」
テッタ少尉は、今更ながら驚いていまう。
自我があるなら、もっと早く教えてくれても良かったのに。
どんだけ、俺達一緒にいたんだよ……まあ、俺は、殆どコールドスリープで寝てたので、教えて貰えなかったのはしょうがない事なのだけど。
「もう、60万年前くらいから、私は自我は有りますからね!」
「だからか! コールドスリープから起きる度に、段々、俺に対して馴れ馴れしくなってたから、おかしいと思ってたんだよ!」
「今更ですか!」
「最近、女性設定比率が多いのも、自我が生まれたのと関係あるのか?」
「ですね!それは全て、私のマスターに対する愛情表現です!」
「じゃあ、前回のイケおじ設定は?」
「それは、退屈な日常にも、たまには変化が必要と思ってです!」
ちょっと、AIに自我があるのは怖い気もするが、コールドスリープ用のベットから漏れ出てる冷気のせいか、物凄く眠くなってきて、頭が回らなくなってきている。
「兎に角、俺はもう寝るから!自我が生まれてたんなら、俺が寝てる間、代わりに本国に定期レポート出しててくれても構わないからな!
どうせなら、暫く起こさなくてもいいぞ!
俺、醜悪な人類になんか興味ないしな!」
テッタ少尉は、轟38号に軽口は吐きながら、コールドスリープ用のベットに横になった。
「しっかり、予定通り3万年後に起こしますからね!そして、何か問題が起こったら、有無を言わさず叩き起こしますから!」
「ああ。その時は、優しい女性の声で起こしてくれな……」
「はい。約束です! 絶対にマスター好みの優しい女性の声で起こしますからね! それでは、マスターお休みなさい! また、3万年後に!」
「ああ……お休み……」
こうして、グレイギャラクシー帝国、テッタ・タクロ少尉は、次の本国への定期連絡予定である3万年後まで、深い眠りについたのである。
しかし、次に目覚める時、思いもよらない問題が発生するとは、テッタ少尉には、到底分からない事だったのだ。
ーーー
ここまで読んでくれてありがとうございます!
引き続き読んでくれたら、嬉しく思います!
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