16話 動き出した者達より

 嗚呼、本当にふざけた話だ。


 フェウエードがやられてしまった。

 奴は中々腕が立つはずなのにも関わらず、よりによってあのミラジュの方にやられたと。

 あの男を倒すのではなかったか。

 何を絆されている。

 我は認めない。


 この『組織』の人数も減ってしまった。

 しかも、エクレールとフェウエードを失うといった形で。

 正直な所、あの姉弟は信用ならない。

 一応協力関係を組んでこそいるが、奴等はあまり腕は立たない。

 特に姉の方だ。

 弟は油断ならないが、姉は相応な力しかない。

 恐らくだが弟の策略だろう。

 奴等は元々は兄と妹だったと聞く。

 だが女への強い憧れがあった呪いの神であり兄である『カースド』のため、妹、現在弟であり『コングラ』と呼ばれる祝福の神が性別の交換を持ちかけた。

 その際、瞳の交換も果たしたと聞く。

 それは永遠とわの契りである。

 離れることのない絆を表す呪いである。

 そして、現在のあの姉弟だ。

 その時恐らくあの妹は、兄の力を吸収したのだろう。

 自分ありきでしか生きていけぬよう。


 正直、くだらない。


 力があればなんだってできるのだ。

 それを奪って何になる。

 だが、力を吸収した弟の方はその分強力だ。

 我でさえ互角だろう。

 祝福を呪いとして運用する奴は、残忍かつ狡猾だ。

 信用ならない。


 我が独りで、エクレールとフェウエードの仇を取ろう。

 我にはその力が、まだ残っている。

 地球などというくだらぬ星ごと、あの忌々しい能天気な神を。

 我と違って、酷く能天気で、何も背負わず生きている、ヤツを。

 時間経過で蝕まれていく自然と違い、時間が経過すればするほど力をつける、そんな小賢しいヤツを。


 この手で消すのだ。


 この手で、正しい時間経過を消すことで。


 あの姉弟は信用ならぬが、どういう訳かコングラの方が過去への干渉を可能にする結晶を持ってきた。

 ヤツと、もう捕まった大罪人の専売特許かと思っていたが。

 コングラが神界裁判所にわざわざ魔力サンプルを盗みに行ったらしい。

 ご苦労なことだ。

 わざわざ捕まるリスクがあるというのに。

 まあ、我には関係ない。

 そんなもの、有り難く利用させてもらう他あるまい。


 地球において、最も氷が猛威を奮ったかつてを。


 もう一度、我の手で。


☆☆☆


 アルマルトが帰ってこない。

 最近体調が悪そうだった。

 わたしが探しに行くより、アルマルトを待ったほうがいい。

 アルマルトがわたしを探すことになっちゃうから。


「あんな男なんぞ探さずにいてよい!」


 ………?


「なんだ、そんなに吾輩が喋るのが摩訶不思議か魔女よ」


 アルマルトがいなくなるちょっと前にくれた帽子。

 ギュッてすると、アルマルトの匂いがするから、ずっと持ってる。

 なんでか喋るみたい。


「あの男の加護の力よ、この程度ではあるがな」


 とってもお喋りさん。

 加護?ってなんだろう。


「………まさか魔女、加護も知らんのか?一体どれだけ過保護に………否、そういう訳ではないのだろうな。よいか魔女。加護というのはだな、まあ魔除けのようなものだ」


 魔除け?悪魔とかかな?


「この吾輩はこの世に存在する悪という悪から守る力を持っているぞ。悪霊、悪魔、死神…エルテなんかな」


 エルテ?エルテ?

 エルテって。エルテって言った。


「エルテは貴様も聞いたことがあろう」

「アルマルト。アルマルトをよけてどうするの」

「それは…アルマルト・エルテに聞くと良い。吾輩から気軽に話してよいものではないのだ」

「あなたがいなかったら、アルマルト、帰って来る?」

「私を捨てれば帰って来るかもしれんが、あの男直々の加護だということを忘れるでないぞ。エルテは帰ってこんだろう。アルマルトなら帰ってくるだろうが」

「………よくわかんない」

「知らなくて良いこともある」

「………………」


 アルマルトがいないとこの本もよくわかんない。

 アルマルトがいないと教えてくれないから。


「なんだ魔女、魔法薬学か?関心。その薬草は神界にあるものだな」

「………知ってるの?」

「無論。吾輩をバカにするでないぞ」

「………………」


『その薬草は神界に生えているんだ。珍しいもので私あまり見たことはない』

『どんな薬草なの?匂いがするの?』

『匂いは少し甘い匂いがするね。調合せずそのまま摂ると毒になるが、調合した薬は一部の神が好む。何故かは知らないな』

『面白い草なんだね』

『………そうだね。ミエドが興味のあることなら、私は何でも答えよう。いつでも聞きにおいで』


 ………アルマルト、帰って来ないかなぁ。


☆☆☆


 あぁ、まさかこのタイミングとは。

 なんということだ。

 いや、ミエドにアレを渡した後でまだよかった。

 あの子が孤独じゃないのなら。


「なぁエルテ…お前は何がしたいのだ」


 片目が見えない。

 アイツがもう、ここまで。

 ミエドを拾ったすぐ後、私は捕まった。


 人を殺めたからだ。


 エルテが。私が。

 幸い、あの時はすぐエルテも消えた。

 本能的に、ミエドが苦手なのかもしれない。

 暗い、アイツにとって格好のエサとなる私とは対照的に、明るい光を持ったあの子が。

 牢にもミエドといられた。

 神界裁判所最高裁判長であらせられるアンビデウス裁判長は、どういう訳か私をよく取り逃す。

 理由はよくわからない。でも、捕まえられない訳ではないはずだった。

 神界の偉い人たちは皆自己本位的だが、あのアンビデウス裁判長は人格者だ。

 一人奔走していることが、とても多い。

 私を二度と出られないようにするのなど、容易いはずだった。


 あの晩、私は気でも狂っていたのかもしれない。

 フードを目深に被った男の言葉通り脱獄を選んでしまった。

 そうしなければ、と思ってしまった。


 償いはまだ終わっていないが、その前にタイムリミットだ。

 私はもうじき、コイツに呑まれて消えることだろう。

 私の自我が消え去り、コイツの天下となるのだろう。


 なぁ、エルテ。

 我が死神の名よ。

 そうなのだろう?


「あぁそう、私はお前を乗っ取るのだ。私のために」


 私は貴様を乗っ取るだけでは足りぬのだ。

 貴様の旧友も取り込む。

 人間の命などでは私の力の足しにもならん。

 神、力の強い神を取り込みたいのだ。

 貴様の旧友一人で、並の神では比較にならん力が得られるはずなのだ。

 過去の神というのは、時が経つほど強くなる。

 もう一人、取り込みたい奴がいたのだが最高裁判長が見張っていて近寄れやしない。

 全く気に食わないが、流石にそんな軽率な行動はしていられん。

 人間程度では足りぬ。

 私はもっと強くならねばならんのだ。


 私が、世界を作り変えるために。

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