異世界

@SundayYotsuya

異世界



 白い世界が広がっている。俺は奇抜なモダン・アートみたいに、その真ん中に一人で寝転がっていた。


「くそ、なんだこのスペースは」


 俺は起き上がった。どうやってここに来たのか覚えていない。周りには誰もいない。


 いや、遠くに人影が見える。


 古代人みたいな、ばかげた衣装を着た女。すごく奇妙だ。おまけにピカピカと肌が光っている。直感的に、それは人間ではない。


「こんにちわ、発光お嬢さん。お前は誰だ」俺は話しかけた。


「私はこの世界の女神です。私の仕事は死者を別の世界に生まれ変わらせることです」


「生まれ変わるだと? 仏教の思想だな。オリエンタルの女神なのか」


「いいえ。私は特定の信仰による制約を受けません。私はあなたの信じる神になれます」


「嘘だ!」俺は怒った。「詐欺師みたいなことを言うな、偽物め。俺はお前みたいな神を信じないぞ。いなくなれ!」


 すると女神は消えた。いや、消えていなかった。足元を見ろ。


 ネズミだ!!


「可愛いアニマルになったな」俺はあざけった。


「あなたの『偽物』という認識に従い、私は神から堕落しました」


「俺の肩に乗れ。それから説明しろ。俺はなぜここにいる」


 ネズミは俺の体をよじ登ると、耳元でキーキー声で話し始めた。


「あなたはハイウェイで車線変更に失敗して、ここに来ました。これから新しい世界に行きます」


「そこで俺は何をすればいい?」


「新しい世界には独裁者がいます。ダークキングです。彼を倒すことがあなたの目的です」


「ダークキングだと? 興味深い」


 すると、今までいた白い世界が輝き、気付くと俺は黒い岩の上に立っていた。


「これが新しい世界です」


「ダークキングはどうやって倒すのだ。経済戦争か?」


 俺はかつて読んだ異世界の物語を思い出してそう聞いたが、ネズミはせせら笑った。


「まさか。正直に言って、あなたは資本主義競争においては負け犬です」ネズミは言った。「倒すのは、もちろん暴力によってです。この世界であなたの能力は定量化されています。最初にあなたの情報を確認しましょう」


「俺のことは、俺が一番よく知っている!」俺は反抗した。「俺の情報を確認するだと? その情報は誰が収集したんだ? ママにインタビューでもしたのか?」


「あなたのママはこの世界にはいません。少し冷静になりなさい。そして、頭の中で『IB』と唱えてください。インフォメーション・ボードが開くでしょう」


 俺は言われたことを繰り返したところ、空中に四角く輝くディスプレイが浮かび上がった。そこには奇妙な文字が並んでいたが、不思議なことに俺には容易に読むことができた。


[攻撃:2,489 防御:1,991 速度:2,004 電子的愚かさ:4,103]


「これが俺のスコアなのか? しかし、電子的愚かさとは何だ」


「それはあなたが現代的であることを意味します」


「それは当たり前だ。現代を生きている人間は、みんな現代的だろう?」


 そのとき、背後から何かが岩場を歩いてくる音がした。振り返ると、クラゲに似た奇妙な生物が這い寄って来ている。少し卑猥だ。


「なんだ、あの生物は」


「ダークキングの生み出した魔物です。敵です。あなたの暴力を発揮するいい機会です」


 すると、ネズミは金色に輝く剣を取り出した。


「これを使いなさい。光の力を帯びた剣です」


「剣なんか使ったことがないぞ」俺は断った。「慣れないものを使うとケガをする。なにか俺が使えるものを出してくれ」


「あなたは保守的ですね。それでは、サッカーボールにしましょう」


 ネズミが取り出したボールは、ずいぶんと軽かった。俺は最近ボールに触っていなかったので、少しの間ボールに足を馴染ませ、それから聞いた。


「これを使ってこの敵を倒すには、どうすればいい?」


「イメージを膨らませるのです。ボールはゴールに収まります。その感覚を再現するのです。そして最後に『ウィン』と叫びます」


 俺は言われた通り、精神を集中してイメージを作った。ただボールをゴールに入れるイメージではない。ウィンだ。常に目的は明確でなければならない。


「ウィン!」


 俺の体が自動的に動いた。俺はすばらしい加速で魔物に近づいた。そして、左足に力を込め、クラゲの傘を蹴り上げた。何回か蹴り続けると、クラゲの化け物は悲鳴を上げて倒れた。


「興味深い」俺はクラゲの死体を見下ろして言った。「これはタフな能力だ」


「その魔物から金を奪って、次の敵を倒しに行きましょう。近くにドラゴンがいます」


「俺がドラゴンを倒せると思うか?」


「あなたの戦闘結果からみて、それは不可能ではありません」


「ワーオ」俺はニヤついた。

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