『俺達のグレートなキャンプ8 種類沢山チャーハン・ビュッフェ』
海山純平
第8話 種類沢山チャーハン・ビュッフェ
俺達のグレートなキャンプ8 種類沢山チャーハン・ビュッフェ
朝もやに包まれた湖畔のキャンプ場。朝日が水面を照らし、周囲の山々が少しずつ姿を現す。穏やかな朝の空気を破ったのは、一台のボロいワゴン車だった。
「到着ーっ!!」
車が止まるやいなや、運転席から飛び出してきたのは石川。後部座席からは千葉と富山が降りてきた。
「おはよう!今日も最高の天気じゃないか!」石川は腕を広げ、深呼吸した。「キャンプ日和だぜ!」
「うん!空気がすごく美味しい!」千葉も石川に倣って深呼吸した。
一方の富山は、車から大きなクーラーボックスを引きずり出しながら、「朝の5時に出発して、なんで朝から元気なのよ...」とぼやいた。
「さぁて、今日のグレートなキャンプの準備を始めるぞ!」石川は両手を叩いて言った。
「今回の企画は何?」千葉が目を輝かせて尋ねる。
石川はニヤリと笑い、「今回はね...」ドラムロールのつもりで太ももを叩きながら、「種類沢山チャーハン・ビュッフェだ!!」
「...え?」富山は首を傾げた。
「なにそれ、面白そう!」千葉は即座に食いついた。
石川は車のトランクを開け、中から大量の食材が入った袋、小さな炊飯器、そして何故か6つの中華鍋を取り出し始めた。
「石川...なんで中華鍋が6つも...?」富山が恐る恐る尋ねた。
「そりゃあ、種類沢山のチャーハンを作るためさ!」石川は当然のように答えた。「今回は、自分たちだけじゃなく、キャンプ場の皆にも振る舞うんだ!」
富山の表情が固まった。「ちょ、ちょっと待って。知らない人にも?」
「そう!キャンパー同士の交流だ!みんなでワイワイ楽しめるだろ?」
千葉はすでに食材の袋を開け始めていた。「すごい量の米だね!それに具材もいっぱい!」
袋の中からは、つやつやとした焼豚の塊、プリッとした大ぶりのエビ、彩り鮮やかなカニカマ、粒揃いの黄金色のコーン、みずみずしい青ネギ、ピリッと香る高菜漬け、真っ赤に熟成された香り高いキムチ、ねばりのある納豆、スパイシーな香りを放つカレー粉...と、ありとあらゆる具材が次々と姿を現した。
「全部で12種類のチャーハンを作る予定だ!」石川は胸を張って宣言した。
「12種類!?」富山は目を丸くした。「私たち3人で食べきれるわけないじゃん!」
「だから、ビュッフェスタイルで食べ放題にするんだよ。キャンプ場の人たちも誘って!」
富山は頭を抱えた。「また周りを巻き込む計画ね...」
石川たちがテントを設営し、調理台を準備している間、キャンプ場の他のキャンパーたちは好奇の目で彼らを見ていた。
隣のサイトでは、小学生の子供を連れた家族が朝食の準備をしていた。
「パパ、あの人たち何してるの?」男の子が父親に尋ねた。
「さあ...なんだか鍋をたくさん出しているけど...」父親も首を傾げた。
別のサイトでは、キャンプ慣れした様子の中年カップルが、石川たちの様子を眺めながらコーヒーを飲んでいた。
「なんか楽しそうだね」妻が言った。
「若いっていいな」夫は懐かしそうに微笑んだ。
準備が整い、石川は調理台の前に立った。6つの中華鍋が並び、各種具材が小分けされ、ラベルが貼られていた。卵や調味料、油などの基本材料もきちんと配置されている。
「よし、いよいよチャーハン作りの開始だ!」石川は腕まくりをした。
「あの、周りの人に声をかけるの...?」富山は不安そうに周囲を見回した。
「もちろん!千葉、一緒に宣伝してこよう!」
千葉は元気よく頷き、石川と一緒にキャンプ場内を歩き回り始めた。
「お知らせです!只今より、種類沢山チャーハン・ビュッフェを開催します!興味のある方は、あのブルーのタープがあるサイトまでお越しください!」
石川はメガホン代わりに手を口に当て、大声で宣伝した。千葉も楽しそうに一緒に声を上げる。
富山はその様子を見て、「恥ずかしい...」と顔を赤くした。
しかし、予想外にも、宣伝を聞いた何組かのキャンパーが興味を示し、石川たちのサイトに集まり始めた。
「あの、本当にいいんですか?」先ほどの家族連れが恐る恐る近づいてきた。
「もちろん!どうぞどうぞ!」石川は満面の笑みで迎え入れた。
中年カップルも、「ちょっと覗かせてもらおうかしら」と近づいてきた。
その他にも、若いカップルや、ソロキャンパーの男性など、合計で10人ほどが集まってきた。
富山は予想外の展開に驚きながらも、「せっかくだから...」と調理の準備を手伝い始めた。
「それでは、チャーハン・ビュッフェの開始です!」石川は熱々の中華鍋を手に宣言した。
まず鍋にごま油を注ぎ、香ばしい香りが立ち込める。その芳醇な香りに、集まった人々の鼻がピクリと動いた。
石川と千葉が中華鍋を振るい、富山がご飯をよそう役割で、チャーハン作りが始まった。
第一弾は「基本の醤油チャーハン」。
「まずは卵をしっかり炒めるのがコツだ!」石川は溶きほぐした卵を熱した鍋に流し込んだ。シュッという音と共に卵がふわりと広がり、あっという間に半熟状態に。そこに昨夜から仕込んでおいた冷やご飯をいれると、「シャカシャカ」と気持ちの良い音を立てながら、石川は鍋を前後左右に振った。
「ここからが勝負だ!」石川は長ネギとチャーシューを投入し、最後に醤油を鍋の縁に回しかけた。「香りを立たせるんだ!」
鍋から立ち上る醤油の香ばしい香りに、「わぁ」と歓声が上がる。
完成した醤油チャーハンは、つやつやとした卵の黄色と醤油の飴色が見事に調和し、パラパラとした米粒の一つ一つが光っているようだった。ネギの緑とチャーシューの赤褐色が彩りを添え、食欲をそそる。
「では、どうぞ!」石川が皿に盛り付けると、参加者たちは恐る恐る、でも期待に満ちた表情で口に運んだ。
「うまい!」ソロキャンパーの男性が声を上げた。「パラパラなのに、卵がしっとりしてて、香ばしさがたまらない!」
続いて「エビとネギの塩チャーハン」の調理に移る。プリッとした大ぶりのエビは、殻を剥き、背ワタを取り除き、下処理済み。それを熱した鍋で手早く炒めると、エビ特有の甘い香りが広がった。
「エビの旨味を引き出すために、先に炒めておくんだ」石川は解説しながら、次にみじん切りにしたネギを投入。ネギの爽やかな香りが加わり、最後に冷やご飯と塩、そして少量の鶏がらスープの素を加えた。
仕上げにごま油を数滴たらすと、香ばしさが一気に増した。完成した塩チャーハンは、真っ白なご飯に赤いエビと緑のネギが映え、シンプルながらも上品な見た目だ。
「こちらは繊細な味わいです。エビの甘みと塩の塩梅を楽しんでください」
中年の女性が一口食べると、「まあ!エビの風味がしっかり感じられるわ。塩加減も絶妙!」と感嘆の声を上げた。
第三弾は「チャーシューと高菜のチャーハン」。まず、香ばしく焼き上げたチャーシューを小さなさいの目に切り、鍋で軽く炒めて脂を出す。その脂でご飯を炒めると、チャーシューの旨味がご飯に染み込んでいく。
「高菜は最後に入れるのがポイント!」石川は刻んだ高菜漬けを加え、手早く混ぜ合わせた。高菜の塩気と独特の風味が加わり、一気に本格的な中華の香りが立ち上った。
「これは酒のつまみにも最高ですね!」若いカップルの男性が言った。「高菜の歯ごたえと、チャーシューのジューシーさが絶妙です!」
「カレーチャーハン」では、バターを使い、その上にカレー粉とターメリックをふりかけて香りを立たせた。そこにご飯を投入し、じっくりと炒め上げると、黄金色に輝く芳醇なチャーハンが完成。スパイスの香りが周囲に漂い、みんなの食欲を刺激した。
「この香り、たまらないね!」家族連れの父親が言った。
口に入れると、バターのコクとカレーのスパイス感が絶妙にマッチし、後からじんわりと辛さが広がる複雑な味わい。子供たちも「辛いけど美味しい!」と目を輝かせていた。
「キムチとツナのピリ辛チャーハン」は、赤く熟成されたキムチの酸味と辛さが特徴。キムチを先に炒めて香りを出し、そこにツナ缶の油ごと投入。ツナの旨味とキムチの風味が一体となり、ピリッとした辛さが後を引く大人向けの一品。
富山が一口食べて「これ、お酒が欲しくなる味ね...」とつぶやくと、周りの大人たちも頷いた。
「納豆と海苔の和風チャーハン」は、まず納豆をしっかりとかき混ぜ、糸を引かせてから投入。納豆の独特のねばりと香りがご飯と絡み合い、最後に刻んだ海苔をふりかけると、日本の朝食を思わせる懐かしい味わいに。
「これ、意外と合うわね!」中年の女性が驚いた表情で言った。「納豆の粘りがご飯にからんで、なんだか優しい味!」
「トマトとバジルのイタリアン風チャーハン」では、完熟トマトの酸味と甘み、バジルの爽やかな風味、そしてパルメザンチーズの塩気が絶妙に調和。洋風の味わいながらも、炒めたご飯との相性は抜群だった。
「これはパスタを食べているみたいな感覚!」若いカップルの女性が感嘆した。
「ガーリックシュリンプチャーハン」では、大量のみじん切りニンニクとエビを香ばしく炒め、その芳醇な香りにみんなの視線が集まる。仕上げにパセリをふりかけると、見た目も鮮やかな一品に。
一口食べると、ニンニクの香ばしさとエビの甘みが口いっぱいに広がり、「うまっ!」という声が自然と漏れる。
「これ、レストランで出してもバカ売れするわ!」家族連れの母親が絶賛した。
「五目チャーハン」では、チャーシュー、エビ、ニンジン、グリーンピース、卵と具材てんこ盛り。彩り鮮やかで、一口ごとに異なる食感と味わいが楽しめる王道の一品。
「これぞチャーハンの集大成って感じ!」ソロキャンパーの男性が満足げに言った。
「XO醤チャーハン」は、高級中華食材のXO醤を使った贅沢な一品。海鮮の旨味が凝縮されたXO醤の深い味わいと香りが、シンプルなチャーハンを一気に高級感のある味に変えた。
「これは大人の味ですね...」中年の男性がじっくりと味わいながら言った。「奥深い旨味がたまりません。」
「チーズタッカルビ風チャーハン」では、コチュジャンの辛さとチーズのまろやかさが絶妙に調和。とろけるチーズがご飯に絡み、一口食べると辛さと共に濃厚なチーズの風味が口の中に広がった。
「これは斬新!」若い女性が目を輝かせて言った。「辛いけど、チーズがまろやかにしてくれて食べやすい!」
最後に登場したのは「デザートチャーハン」。バナナをキャラメリゼして香ばしさを出し、はちみつとシナモンで甘く仕上げた異色の一品。
「え...本当に米?」家族連れの男の子が疑いの目で見つめる。
「そう、れっきとしたチャーハンだよ。一口どうぞ」石川はニヤリと笑った。
恐る恐る口に運ぶと、「うわ!甘い!でも美味しい!」と目を丸くする。バナナの自然な甘さとはちみつの風味が、意外にもご飯と相性抜群。シナモンの香りが全体を引き締め、デザートとしても十分通用する味わいだった。
「これはびっくり!」中年の女性が声を上げた。「こんな発想、思いつかないわ!」
夕方、人々が自分たちのサイトに戻り、石川たちのサイトには3人だけが残った。
「まさか本当に12種類全部作ることになるとは...」富山は疲れた表情で言いながらも、満足げに微笑んでいた。「でも、みんなの笑顔を見ていたら、なんだか疲れも吹き飛んだわ」
「でも楽しかったよ!」千葉は元気に言った。「みんな喜んでくれたし、新しい友達もできたし!それに、あんなに色んな味のチャーハンを食べられるなんて贅沢だったな!」
石川はキャンプチェアに座り、夕日を眺めながら言った。「これが俺の言う『奇抜でグレートなキャンプ』だ。ただゴロゴロするだけじゃなく、思い出に残る時間を作る!」
「今日一番美味しかったのは何?」千葉が問いかけた。
「私はガーリックシュリンプ!」富山がすかさず答えた。「あのニンニクの香りと、プリッとしたエビの食感がたまらなかった」
「俺はやっぱりデザートチャーハンだな」石川はニヤリと笑った。「あの驚く顔が見たくて作ったんだよ」
「僕は納豆と海苔のやつかな」千葉は少し照れながら言った。「なんか懐かしい味がしたよ」
「次は何するの?」千葉が期待に満ちた表情で尋ねた。
石川は意味深な笑みを浮かべ、「それはね...」
富山は即座に手を振った。「ダメ!今日のことを消化させてからにして!まだお腹いっぱいよ!」
3人は笑い合い、夕焼けに染まる湖を眺めながら、次のグレートなキャンプについて語り合うのだった。
終わり
『俺達のグレートなキャンプ8 種類沢山チャーハン・ビュッフェ』 海山純平 @umiyama117
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