夢の死神

@Angrylove

第1話 目覚め

闇...それはタールのように肌にくっついていた。濃くて粘り気があり、呼吸するたびに肺に広がり、喉を冷たくて苦い蜂蜜のように流れ込んだ。その匂いは湿気と古さを漂わせ、まるで掘り起こされた墓から発せられているかのようだった。それに抗うことはできなかった。それは意識を包み込み、現実と無の境界を消し去っていった。


カインは自分が誰なのか知らなかった。三年半前までのことは何も覚えていなかった。頭の中の空虚は鈍い痛みとなって脈打ち、治らない傷のようだった。


彼はその果てしない暗黒の中に沈んでいった。無重力のように。失われていた。上下すら分からなかった。


心臓の鼓動が遠くで響くように感じられた。それは底なしの井戸に落ちる水滴のようだった。時間は闇の中で溶けて、忘却の粘り気に変わった。息は唇に霜を吹きつけるように凍りついていた。


しかし、その先に...何もない場所に、光がひとひらと輝いた。小さく、震えながら、まるで吹雪の中で最後の灯を灯したろうそくのように。それは世界の果ての星のように遠く感じられた。


体が自然と動き始め、闇の抵抗を超えていった。一歩一歩が困難で、まるで石油の沼を泳いでいるようだった。手が前に伸び、指は緊張で震えていた。


—「私は...」—と口から漏れた。喉が締め付けられ、もう一切の音を発しなかった。何か重要なものが外に出ようとしていた。それがなければ呼吸すらできない、でも...


闇は棺の蓋のように閉じた。いつものように。三年半の間、毎晩のように。


そして――声。


それは熱した針のように脳に突き刺さった。外からではなく、内から。切り裂くように、貫くように。痛みでわかるほどに馴染みのある声だった。


「火を見つけろ...」


カインは前に進もうとした...


...そして目を開けた。


現実は煙の匂いで戻ってきた。小さな焚き火が彼の足元でぱちぱちと音を立て、火花を夜空に撒き散らしていた。冷たい山の風が頭上の雲を追い払い、無関心な星々をちらちらと見せては隠した。


彼はゆっくりと座り、筋肉が痛むのを感じた。


—「どんな火を見つければいいんだ?」—彼は焚き火に尋ねた。


炎はただぱちぱちと音を立てて答えた。それは答えを知らなかった。彼自身も知らなかった。


視線は岩に寄りかかる刀に滑った。それは黒い刃で、細かいひびが蜘蛛の巣のように広がっていて、火の反射で生きているように見えた。刀からはほのかな金属の匂いが漂っていた。それは血の匂いではなく、もっと古くて恐ろしいものだった。その武器は彼のものではないと、彼は知っていた。しかし、それは呪いのように彼を追い続けていた。


彼はそれで殺したことを覚えていた。動きは滑らかで、切れ味のある、まるで生まれる前から学んでいた舞踏のようだった。しかし、それは彼の動きではなかった。彼の技術ではなかった。まるで別の誰かが彼の筋肉に住んでいて、彼の骨を操り、彼の肺で息をしているかのようだった。


カインは立ち上がった。慎重に刀を擦り切れた布で包み、焚き火を消すために炭を湿った地面に踏み込んだ。そして、歩き出した。


「吊るされた酔っ払い」—看板が錆びた鎖に吊るされ、風に揺れていた。古びた灰色の石の建物は、山の斜面に埋もれる墓碑のように見えた。石の隙間からは青白い苔がにじみ出ていた。


中は煙草の煙と腐った汗の臭いで満ちていた。腐ったエールの匂い、焼けた脂肪と洗われていない体の臭い。隅で暖炉がぱちぱちと音を立て、赤い光が煤だらけの壁に反射していた。


酒場の中の人々は、壁と同じように擦り切れていた。修理されたジャケットを着た傭兵、頬がこけた浮浪者、警戒した目で見つめる商人。空気には緊張感が漂っていた。それは動物の本能のようなもの、誰もが他人の喉に食らいつこうとするような雰囲気だった。


カインは壁に沿って立ち、背中でざらざらした石を感じた。フードを低くかぶり、刀を背中に引き寄せた。


カウンターの後ろにいたのは酒場の主人で、太った男でむくんだ顔をしており、稀にしか洗わない油っぽい髪をハゲ頭に流していた。彼の指はソーセージのように太く、常に脂だらけの布でカップを拭いていた。小さな目は脂肪のしわに埋まっていて、客を鋭く見ていた。


—「何を出そうか?」—と彼はかすれた声で言った。


—「パンとスープ。」—カインはカウンターに銅のコインを置いた。


—「遠くからか?」—酒場の主人はガタガタと割れた椀を彼の前に置いた。スープからは湯気が立ち、煮込み大根と古い肉の匂いが漂っていた。


—「メメントに行くにはどうすればいい?」—カインは曇ったスープをすくいながら尋ねた。


—「メメント!? 」—酒場の主人は足元に唾を吐き、手のひらで口を拭った。—「なぜそんな商人と落ちこぼれの街に行きたいんだ?」


—「ある人を探している。」—カインはあいまいに答えた。


—「お前の勝手だ。」—酒場の主人は大きな肩をすくめた。—「東に行って、分岐点で右に、砂漠の中を進むんだ。三日くらい歩けば着くだろう。運が良ければ。」—彼は意味深に首をかしげて首を切るジェスチャーをした。


カインは黙ってうなずき、食事に戻った。木のスプーンが椀の底をこすり、遠くの隅で誰かが酔った歌を歌っていたが、音程が狂っていた。


突然、ガラスが割れる音が酒場の雑音を引き裂いた。暖炉の近くで喧嘩が始まり、二人の男がカードを巡って殴り合い、テーブルをひっくり返した。床に落ちるコインの音と怒声が混ざり合った。一人の男が眉を切られ、カインにぶつかって倒れた。その瞬間、フードが外れた。


そして、静寂が死神の斧のように降りてきた。


灰色の髪が、彼の若い顔には不自然だった。二つの傷が両目に並んでいた。青い瞳は氷のように冷たく、感情を欠いていた。そして首には黒い線で刻まれた焼印があった—16 19 14。


—「呪われた...あれは...」—誰かが呟き、カップを落とした。—「逃げた奴隷だ...」—別の男が壁に後退しながら息を呑んだ。—「三人の監視員を殺した奴だ。」—顔に焼け跡のある高身長の傭兵がゆっくりと刀に手を伸ばした。—「バスティオンはあの首に金をかけた。」


空気は鋼のように響いた。テーブルを押し退ける音。木の床に重い足音が響いた。


カインは立ち上がった。動きは水のように滑らかだった。穏やかに、嵐の前の静けさのように。


—「見ろよ、」—斧を持った巨漢が歯を見せて笑いながら、刃を握り直した。—「小僧が英雄ごっこか?」


酒場全体に不吉な笑い声が広がった。七本の刀が彼の方を向いた。他の客たちは壁に押し寄せ、避けるようにして隙間を作った。


カインはただ見ていた。その青い目は底なしで、何もなかった。恐怖も怒りもなかった。ただ無限の疲れだけがあった。


そして、動きがあった。


布が蛇のように刀から滑り落ちた。黒い刃が、闇の中で火の反射を捉えた。一瞬、刃のひびが生きているかのように震えるように見えた。


最初の一撃は目にも留まらなかった。斧を持った巨漢は武器を上げる暇もなく、黒い刃が弧を描いて彼の喉を裂き、血が噴き出し、壁に飛び散った。


二人目の傭兵は刀で防いだ—鋼が鋼と激しくぶつかり、耳をつんざく音がした。しかしカインの刀は、まるで油の中を通るように、その刀を貫いた。刃と手が体から離れて落ちた。


三人目は横から攻撃しようとした。カインは蛇のように身をひねり、一歩、回転、突き出し、死。


残りの者たちは一斉に飛びかかってきた。鋼の音、叫び声、足音。


カインはまるで舞踏をしているかのように動いていた。すべてのステップは計算され、すべての一撃は致命的だった。刀は彼の手の中で死を歌い、その背後に血と断ち切られた叫びの痕跡を残していた。


そして、幻覚が現れた。


地下室の中の子供。ネズミが指をかじる。口は太い糸で縫われている—叫ばないように。


雪の中で膝をついた女性。自分の子供を売る。吹雪は彼女の泣き声よりも静かに吹き荒れている。


寺の中の老人。首にかかる縄。「神々は私たちを見捨てた...」—飛び降りる前の最後の囁き。


カインは震えた。刀は単に血を吸うのではなかった。それは彼らの恐怖、痛み、絶望を吸い込んでいた。すべての記憶は焼けつくような針となって脳に突き刺さり、彼らの最後の瞬間を見、感じ、体験させていた。


吐き気が喉まで迫った。耳の中では幻覚からの叫びが鳴り響いていた。刀の柄を握る指は白くなった。


—「もうやめろ...」—彼は囁いた。それは彼らにも、自分にもではない。刀に向けて。


刃は彼の手の中で震え、まるで生きているかのようだった。それは静まることを拒んでいた。黒い刃には今もひび模様が走り、その脈動が彼の心臓の鼓動に合わせて脈打っていた。


カインはゆっくりと刃を死者の服で拭った。すべての動きは苦痛を伴った—筋肉は震えて、まるで熱病にかかっているかのようだった。床に落ちた血は冷たくなり、黒い湖となって広がった。


生きている者たちは壁の隅で動けずに固まった。その恐怖は触れることができるほどに濃く、窒息しそうなほどに充満していた。誰かは音もなく祈り、震える指でお守りを握っていた。誰かはテーブルの下でうずくまっていた。


カインは刀を布で包んだ。動きはゆっくりで、まるで儀式のようだった。フードを白髪にかぶせて。


誰一人として動かなかった。彼が出口に向かうまで、目線だけが彼の一歩一歩を追っていた。


夜は冷たい風の吹き付けで彼を迎えた。星々は雲に隠れ、世界は完全な闇に包まれていた。カインは振り返らずに前に進んだ。


彼はまだ、彼の手に死者たちの血を感じていた。血は皮膚に染み込み、爪の下に入り込んでいた—それとも、これは他人の記憶が離れようとしなかったのだろうか?


そして、再びその声が響いた。


「火を見つけろ...」


静かに、しつこく、ほとんど懇願するような声だった。


カインは道の真ん中で足を止めた。顔を見上げ、目を閉じた。


記憶の中の空虚は、まるで開かれた傷のように痛んでいた。彼は自分が誰なのか分からなかった。呪われた鉱山からのことすら覚えていなかった。しかし、何かが...何かが彼を前進させていた。それは恐怖よりも強く、痛みよりも強く、彼自身よりも強かった。


メメント—記憶を売る街。幸せが売られ、忘却が買われる街。もしかしたら、そこで彼は答えを見つけることができるかもしれない。


または、少なくとも、この呪われた火を。

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