第3話 導き

夜明け前の港の倉庫街。

雨がアスファルトを濡らし、足音を鈍く響かせる。


城田はフードを深く被り、濡れた地面を慎重に進む。ポケットに手をやるたび胸が締まる。


銀のペンダントがない。


「クソ…あの時か…。」


襲撃の混乱で一人を逃がしてしまった。戻ることを考えると一度離れるしかなかった。

この時の騒動で落としたとしか考えられない。


死体は倉庫に隠した。雨が外の血痕や足跡を洗い流してくれた。


ヤクの取引を公にできないからか鳩山組の動きも鈍い。だが、動き出すのは時間の問題だ。


城田は倉庫街の角で周囲を窺い、急ぎ足で進む。


「今なら…まだ間に合う。」


──────────


同時刻、蘭丸は自宅のソファに沈んでいた。


夜明け前の静寂。目を閉じて寝ようとしてもあのペンダントのことを考えてしまう。


「Y」のイニシャル、女物の繊細なデザイン。売人達の物とは考えにくい。だが、城田の物としても違和感がある。


「一体誰なのよ…アンタ。」


ペンダントを手に取り、鈍い光を見つめる。

まるで何かを訴えるように揺れるそれに、心がざわつく。


それを皮切りに、考えを整理しようとブツブツと言い始める。


「…小暮と舎弟がうろついてた…けど、逆にあのチンピラ2人しか動いていない…。」


なら組の動きは鈍いはず…。

それにあの死体…

あのままにしとくわけがない…。


ペンダントの関係性はわからない。

だが、城田が動くなら、やはり今だ。


「…一応、行ってみるかぁ。」


蘭丸は部屋着から着替え、バイクで倉庫街へと走り出した。


──────────


倉庫の裏口近く。

城田は地面に目を凝らし、ペンダントの痕跡を探すが見つからない。

時間が経ち、無情にも辺りの闇が薄くなり始めてきた、その時だった。


「へぇ…来てみるもんだね。」


静かな声が背後から響く。

城田が振り返ると、蘭丸が立っていた。

彼女の指先に、銀のペンダントが揺れている。


「お前…!どこでそれを!」


城田が一歩踏み出すが、蘭丸は冷静に素早く距離を保つ。


「落ち着いて。私は便利屋の蘭丸。ちょっとこのペンダントのことで話が聞きたいのよ。例えば…小暮って名前、知ってる?」


瞬間、城田の目が凍りつく。握り潰した拳が震え、唇から低く呻くような声が漏れる。


「…その名前、どこで聞いた。」


声は静かだが、抑えきれぬ殺気が滲む。蘭丸は彼の反応を一瞬で読み取り、内心で点を繋ぐ。


「OK、あんたが城田研ね。端的に言うわ。まず、ペンダントは返す。けど、話がしたい。ここで続けたらお互いまずいでしょ?場所変えない?」


城田は蘭丸を睨む。

ペンダントが彼女の手にある以上、無視はできない。

城田は歯を食いしばり、拳を下げる。


「…お前、何を企んでいる?」


蘭丸の目が細まる。


「言ったでしょ?話が聞きたいのよ。」


その言葉を聞き、城田は沈黙した。

雨音が倉庫の錆びた屋根を叩く。

夜明け前の港で互いの視線が火花を散らした。

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