1-5【極東聖教会悪魔憑き対策室】


 その白亜の建造物は石灰岩を切り出したかのように継ぎ目が見当たらず、のっぺりと空に向かって伸びる様から〝白の墓石〟と呼ばれていた。

 

 天高く聳える墓石を下から眺めながら、京極もまた同様にそう思う。

 

 法王庁直轄の施設にして極東聖教会が取り仕切る実務の中枢。

 

 そんな神に近しい場所が、なにゆえ墓石を象って造られたのか———諸説あったがそのどれも信憑性にいまいち欠けて信じるには足りなかった。

 

 確かなのはこんな場所で働くのはまっぴらだということだけ。

 

 男はさっさと用を済まして帰ろうと、足早に入口の方へと向かって歩き出した。

 

 一階のエントランスで警察手帳を見せながら要件を伝えると、女が一言「荷物を」と声を出す。

 

 一般人に銃を預けるのは気が引けたが、法王庁は今や法をも超越した権力を持っている。

 

 ここに勤める者たちもまた法王庁から任命された超法規的な存在だった。

 

 京極が素直に荷物を預けると、女はそれをケースに仕舞い屈強なガードマンに手渡した。

 

 代わりに一枚のカードキーを京極に手渡しエレベーターを指さし説明する。

 

「中にカードリーダーがあるのでそこを通してください。目的の階にお連れします」

 

「わかったよ……ありがとう」

 

 エレベーターは円筒型で、真鍮の骨格に全面ガラス張りという意匠をこらした造りになっていた。

 

 そのうえ権限の無い者がいくらボタンを押したところで反応しない仕組みをも有している。

 

 京極が透明な水晶版のようなキーを差し込むとひとりでに扉が閉まり、ガラスの筒はゆっくりと上昇を始めた。

 

 ミニスカートのお姉ちゃんが乗ってるのを、下から眺めたいもんだね……

 

 遠ざかっていく地面を眺めながらそんな男がそんなことを考えていると、エレベーター内の針がⅥの字を指し、清浄な凛という音が鳴り響いた。

 

 ガラスドアに目をやると、向こう側にはすでに二人、さっきの司祭が待っている。

 

「随分早くに来たのですね……?」

 

 司祭の一人、カルロがそう言って出迎えた。

 

「まあね。報告書を書くより直接来た方が早いと思ったんだ」

 

「部屋で詳しく聞きましょう」

 

 もう一人の祭司、マルロが手を広げて言った。

 

 フロアの案内版には『6F 極東聖教会悪魔憑き対策室』そう記されていた。

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