目覚ましが機能してくれない件

mackey_monkey

あぁぁぁ!(絶叫)

まだ肌寒い朝。

私は、むにゃむにゃと心地良い眠りの中にいた。


そんな穏やかな時間を切り裂くようにけたたましい音楽が鳴り響く。


…忌々しい目覚ましの音が起きる時間を告げている。


私はクラクラとする頭で、腕を動かし、スマートフォンの画面をタップする。


…が、一向に音のやむ気配がない。

私は半分がいまだに瞼で隠された視界でスマホの画面を確認する。


確かに目覚ましのアプリが立ち上がっていて、音を止めるボタンが表示されている。

それなのに押せども押せどもまったく反応しない。


私は焦りのあまり目を見開いて、スマホを操作する。

音は止まないのにそれ以外の操作はできる。

連絡を確認することはできるし、ニュースを見ることもできる。

それなのに音だけが止まらない。


私は混乱しつつ画面上部に表示されている時間を確認する。


まずい。


もう準備をしないと間に合わない時間だった。

私は急いで支度を整え家を出た。


目覚ましの音も外に出た時には止まり、一安心する。

何だったんだろうという疑問を抱きつつ、私は駅に向かい電車に乗った。


電車はいつになく空いていて、シートに座ることのできた私は目をつぶる。

電車の周期的な揺れに眠気が誘われ、私は夢を見た。


電車に座って寝る夢…


あれ?


ここで初めて気が付く。


あ、これ夢だ。


よくよく周りを見てみれば、車窓の風景は変に歪んでいて、周りの人も固まって動かない。

久々に夢を夢だと認識できて少し興奮を覚える。

しかしすぐにその興奮も焦りへと変わり、焦燥感が私を支配する。


このような体験は初めてのことじゃない。

いや、よくあることだ。


初めの目覚ましが止まらなかったことの合点がいった。


私は夢の中で目覚ましを止めようとしていたのだ。

当然現実の体は動いていないわけで、止まるわけがない。


あぁ、今はどれほど目覚ましから時間が経っただろうか。

夢だと認識したのはいいが、肝心の目覚め方がわからない。


いつもなんとなくで目が覚めるが、こういう時は起きたいのに起きられないという焦燥感だけがどんどんと肥大していく。


…経験上夢の中はそこそこの融通が利く。


私はシートから立ち上がり、電車の扉に手をつくと思いっきりそれを押す。

するといとも簡単に扉が吹き飛んでいく。

その様はまるでB級映画のワンシーンのようで、時間の余裕さえあればそれを楽しんでいただろう。

しかし今の私にそんな余裕はない!


扉から外を眺めれば景色がすごい速度で流れていく。


「よし!」


そう言うと、私は電車から飛び降りる。

現実であればこんなことはできないが、何故だか今の私に恐怖心はない。

いや、ないことはないのだが、いつものそれとは少し違って感じた。


痛いという認識とともに風景がぐるぐると回転し、やがて静止した。


私は地面に寝転がり、空を見上げていた。


…だめだ。

まったく起きられる気がしない。


待っていればいつものように夢が覚めるのだろうが、今の私はすぐにでも起きたい。

私はもう一度目を閉じて、眠ろうとしてみる。


頭がクラクラとして平衡感覚がわからなくなる。


そして、落ちるような感覚とともに目を覚ます。

つい腕を振り上げてしまい、何かにぶつかる。


あったぁ痛い


私はヒリヒリとする手でスマホを操作し時間を確認する。


「あ(絶句)」


その後の私は嫌な暑さに冷や汗を流しながら大急ぎで準備をした。




…言い訳を、言い訳を許してほしい。


「夢の中では起きてたんだぁぁぁ!」

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