苺パフェ
夕影せな
苺パフェ
パフェグラスの中は下から、苺ムース、クランチ、苺ソース、生クリーム、という具合に淡いピンク色と白が層をなしている。
その上には苺味のアイスクリームがどっしりと腰を据え、その周りに数粒の苺が、瑞々しい断面を見せながら飾られている。
俺からしたら見ているだけで胸やけしてくるパフェだが、向かいに座る
彼女はそっとパフェスプーンを持ち上げ、アイスクリームを丁寧にすくっていく。削られたアイスクリームは少し溶け、照明をちらちらと反射している。彼女はいただきます、と小さく呟いてからスプーンを口にはこぶ。口に入れた瞬間、彼女は俺のほうに身を乗り出し、頬を紅潮させながら口を開く。
「
その姿を見て俺は笑ってしまう。甘いものを食べたときの嬉しそうな顔は、小さいときから全く変わっていない。本当に可愛い。
…可愛い?いや、この可愛いは恋愛とか、そういうやつじゃない。ただ、そう、言葉の綾とかいうやつだ。
「どうしたの?顔、すごいことになってるよ?あの、あれ!般若みたい!あっ!もしかして颯斗もこのパフェ食べたかった?」
「俺が甘いの嫌いなの知ってるだろ?毎回お前に連れてこられてるだけだよ」
「ふーん。でも颯斗、いつも楽しそうだよね?」
その言葉に、口に含んだコーヒーを吹き出しそうになる。呼吸を整えてから前を見ると、彼女がいたずらに笑っている。俺がちょっと怒ったような顔を作ると、きまり悪そうに目をそらし、パフェとの対峙を始める。
どうせ俺が本気で怒らないことを分かって、この態度をとっているのだろう。瑠夏は絶対、俺のことを舐めている。…でもこの空気感に心地よさを感じてしまう。ずっと瑠夏と一緒にいたいな、と思ってしまう。
少し冷めてきたコーヒーから目線を外し、ふと彼女のほうを見ると、すでにアイスクリームと苺を食べ終え、生クリームを頬張っている。甘いものがとことん苦手な俺だが、この表情を見ると美味しいのかな、なんて思ってしまうから不思議だ。
クランチをすくおうと必死になっている彼女を見つめていると、ふと、彼女が上目遣いでこちらを見つめてきた。その顔にドキッとしてしまい目をそらそうとしたが、彼女の頬に生クリームがついているのを見つけ、動きを止める。ほぼ反射的に彼女に手をのばし、指で生クリームを拭う。
俺の行動に驚いたのか瑠夏は間抜けな顔をしていて、思わず声を上げて笑ってしまう。
「何?急に」
急に頬を触られたことを怒っているのか、それとも大声で笑われたのを不快に思ったのか、不満を全面に押し出した態度で質問してくる。その態度を見て、また口元が緩んでしまう。
「ほっぺに生クリームついてたから。お前昔から口の周りにクリームとかチョコとかつけてるよな」
「いつの話してるの⁉今はそんなことないし」
「いいや。瑠夏は幼稚園のころから俺がいないと何もできないもんなぁ」
少し意地悪く昔の話をすると、彼女はむきになってパフェの残りを一気に口に入れる。クランチと苺ムースでいっぱいになった彼女の口はリスのように膨らみ、童顔の彼女をより一層と幼く見せている。
瑠夏は幼稚園の年中のとき、俺のいた、もも組に転入してきた。教室に入ってきた瞬間から「瑠夏はもも組嫌だ!いちごさんがいいの!」と泣きわめいていたっけ。桃より苺の方が好きなのかな、と間抜けなことを思っていた記憶がある。
思えば瑠夏は、あの頃からずっと我儘だった。給食に嫌いな野菜が入っていたら絶対俺に押し付けてくるし、宿題を写させろ、と言ってきたこともざらにある。他の友達には嫌な顔をされていたけど、俺は全部彼女に頼まれた通りにした。願いをきいたときの彼女の笑顔が可愛かったから。
いや、だから、この可愛いは異性としてじゃなくて。そう、妹とかに対する、そういうやつ。妹いないから分かんないけど、多分そう。
「あ~おいしかったぁ。」
その声で目線を上げると、満足そうな顔をした瑠夏が紙ナプキンで口の周りを拭いている。からかったのを根に持ってるのかな、と思うと愛おしい。そんなことを考えていると、彼女が急に立ち上がった。
「じゃあ颯斗、よろしく。1880円だってさ。値段の割には微妙な味だったな。」
「おい、今日も俺が払うのかよ。」
「いいじゃん。颯斗だって私といれて嬉しいくせに。」
「もう、分かったよ。次はちゃんと払えよ。」
「ほんと?ありがとう!やっぱ颯斗しかいないね。」
彼女は決まり文句のようにそう言って、スマホを見ながら店を出ていく。こんな我儘、俺にしか手に負えないから。こうしてまた今週も、俺は財布に手をのばす。
苺パフェ 夕影せな @yukage_sena
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