ヒナの暴走とツッコミ

 ゴーリーの目立ちっぷりがあり、僕の思考は次のゴーリー襲撃に調整するように慌ただしくあった。


 何よりも、僕がヴィラン・シンクロノスとして活動しているのはミナには内緒なので、彼女に隠しながら準備が必要になる。


 だけど、気をつけなくちゃいけないのは、ミナだけじゃない。


 その日は、本当に何の前触れもなく、爆発するように訪れた。


「サーーーークッ!! いるんでしょう!? 開けなさいよ! というか開けるから!!」


 その声が扉越しに響いた瞬間、僕の全身の思考が真っ白になった。


 ヒナだ。


 ガーディアンの副長にして、無法地帯を担当する正義の人。


 なのにどうしてこのタイミングで!? 僕はミナに頼んでいた。工房の手伝い場所に向かって、すぐに移動する。


 AGーΩは隠して、体裁を整える。


「サク、どうしたの?」


 ミナがキョトンとした顔で、工具箱を持ったまま首をかしげている。彼女はもうすっかり工房の作業にも慣れて、僕の手伝いを積極的にしてくれている。


 僕が慌ててやってきたことに驚いていた。。


「フィア、緊急回避コード《エプロン・ガール》起動!!」

「了解。対象を無害な小動物系手伝い少女に偽装します」


 フィアが即座にミナの服の上から白いエプロンを着せて三つ編みモードにセット。髪を後ろでまとめ、メガネまで装着される徹底ぶりだ。


 完璧だ……これでただの見習い整備娘だ!


「お待たせ〜って、開いてんじゃん! ちょっとサク、返事ぐらいしなさいよ!」


 案の定、ヒナが勝手に扉を開けて入ってきた。


 その目が、僕を飛び越えて、ミナを見た。


「……」僕。

「…………」ミナ。

「……………」フィア。

「……はああああああああああああ!?!?!?」ヒナ。


 雷鳴のような声が工房に響き渡った。


「なななななななによその美少女!?!? えっ!? 何!? 同棲!? え、しかもしかもしかも!? えっ、普通に仲良く作業してる!?!?」

「ちょ、待ってヒナ、話せばわかる」


 ヒナがその怪力で僕の首を締め上げる。


「話せばって何!? まずその子誰!?!? あと見たことないメガネ装備!? このエプロンはなに!? あたしがいつ来てもいいようにって、鍵まで渡してるのに、なんで知らない美少女と暮らしてるのよ!!」

「いやいや暮らしてるっていうか、たまたま拾って!」

「拾った!? 女の子を!? 美少女を!? あたしが苦労して市民を守ってる間に、君は女の子を拾ってヒーローごっこですかぁぁ!!?」


 お、怒り方が……完全に素のヒナだこれ。


 後ろで、ミナはますますきょとんとした顔で、僕とヒナを見比べている。


 くそっ、こんな子供みたいな怒り方する副長を絶対ガーディアンじゃ知らないだろうな。……ハァ〜どうやって説明しよう。


「えっと、まず落ち着こう? これはミナっていうんだけど、ほんとに保護案件で」

「みっ……ミナ!? もう名前で呼んでいるのッ!?!?!?」

「落ち着け!!!」


 とりあえず、怒涛のツッコミが続く中、僕は一度深呼吸。


「彼女は記憶喪失なんだ。だから保護して、フィアと一緒に面倒を見てただけで」

「だけってなに!? 記憶喪失の美少女と二人暮らし!? アニメか!!」


 ヒナの拳が振り上げられる。


「このラノベ主人公が!!!」


 うん。痛い。


 メチャクチャ怪力なのやめてほしい。

 AGつけてないから、先読みもできないんだよ。


 ああもう、フィア、なんか助けて!


「ヒナさん、感情が暴走しておられます。論理が崩壊しています」

「黙ってフィア!!」

「申し訳りません」


 フィア撃沈。


 とはいえ、ミナが静かに一歩前に出て、ヒナに向かってぺこりとお辞儀をした。


「……こんにちは。私はミナです。あの、ほんとにサクお兄ちゃんに助けられただけで、あの……」

「お兄ちゃん!!! あんたそんな性癖!!!」


 なぜかもう一度殴られた。


「ごめんなさい」

「……え? あ……いや、あなたに怒ってるわけじゃ……ごめん、混乱して……」


 ヒナの怒気が、明らかに沈静化した。というか、ミナの申し訳なさそうな表情と声のトーンに、完全にペースを乱されてる。


「……ほんとに、保護案件なの?」

「本当。彼女の……記憶が曖昧だし、無理に表に出せない状態だったんだ」

「……そういうことなら、報告しなきゃダメでしょ。……でも、あんたが無理に関わったってことは、それだけの理由があるんだよね?」


 ヒナはようやく、息を整えて、いつもの真剣な顔になった。


「あとで、きちんと聞かせてもらうからね。副長としてじゃなく、友達として」

「うん。……ありがとう、ヒナ」


 こうして、ミナの存在はヒナにバレた。


 けれど、彼女は僕を疑うよりも先に、ミナを守る目をしてくれていた。


 正義の人っていうのは、やっぱり……信じられるものだと、少しだけ思えた。


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